行動修正(読み)こうどうしゅうせい(英語表記)behavior modification

最新 心理学事典「行動修正」の解説

こうどうしゅうせい
行動修正
behavior modification

行動は,行動理論・学習理論の枠組みと研究成果を活用して,現実社会の問題を解決していくための実践科学である。応用行動分析学applied behavior analysisと同義で用いられる(Miltenberger,R.G.,2001)。エビデンスに基づいた支援方法の体系化をめざし,発達障害や精神疾患への治療と支援,教育支援,臨床心理学,コミュニティ心理学,健康心理学,医療,看護,介護,リハビリテーションコーチング,ビジネスなどの幅広い分野に及ぶ。対象となる行動形態topographyには,微小な言語行動,生理学的反応など,なんらかの方法で観察可能な反応はすべて含まれる。検査に対する反応結果,書かれた文章,医学的検査結果なども所産指標として対象となる。

【レスポンデント行動・オペラント行動の原理と行動修正】 レスポンデント行動respondent behaviorは,先行刺激によって一義的に誘発される行動である。緊張,不安,興奮などの情動反応が行動修正の対象になることが多い。1次性嫌悪刺激と対呈示されると,環境刺激や自分自身の行動も,情動反応を誘発する条件性嫌悪刺激となる。行動修正としては,条件性嫌悪刺激と1次性嫌悪刺激との対呈示を減らしていく(レスポンデント消去),不安反応そのものの強度を低減させる,誘発される情動反応と両立不可能な不安拮抗反応の出現を増やす,などの対応を行なう。方法としては,自律訓練法,リラクゼーション法,系統的脱感作法,反応妨害型エクスポージャー法,セルフモニタリング法,社会スキル訓練などが用いられる(Bellack,A.,& Hersen,M.,1995)。

 オペラント行動operant behaviorは,刺激を手がかり(機会)として自発され,行動した直後に与えられる刺激変化(環境からの応答)によって影響を受ける。オペラント行動は,先行刺激antecedent stimulus(Aと略記)→行動behavior(Bと略記)→後続刺激consequent stimulus(Cと略記)の関係,すなわち行動伴性behavior contingencyによって成立し,変容する。修正すべき行動をターゲット行動として選択し,先行刺激と後続刺激の与え方を系統的に変化させることで,適切なターゲット行動が安定して出現し,不適切な行動が減少していく刺激条件を見いだし,それらの刺激を調整していくことになる。最終的には,自分自身で先行刺激と後続刺激を設定する自己管理self-managementに移行していく。

 行動(クラス)を増やす働きがある後続刺激を正の強化刺激positive reinforcerという。行動修正では,1次性強化(食物,飲み物,特定の音や映像など),社会的強化(褒めことば,拍手,社会的な賞賛他者からの注目),般性強化(トークン,シールなど),活動性強化(出現確率の低い行動に,出現確率の高い行動を随伴させるなど),行動内在強化(課題達成や行動遂行それ自体)が行動に与える効果を評価し,それらを適切な行動に随伴させる。

【問題行動の機能分析と行動修正】 行動修正では,まず,どのような刺激条件のもとで,どのような行動が起こっており,その結果,環境からどのような後続刺激を得るかを分析する。⑴不適切な行動に正の強化が与えられる場合 不適切な行動を行なうと,注目が得られる,欲しいものが手に入る,などが起こるとその行動は増加する。⑵不適切な行動によって嫌悪刺激がなくなる場合 嫌悪刺激が与えられている(与えられる可能性のある)状況で,ある不適切な行動をしたときに,嫌悪刺激がなくなると,その行動は増える。⑶適切な行動に正の強化が与えられない場合 行動に対して強化が与えられない場合(消去),行動は減少する。⑷適切な行動に嫌悪刺激が与えられる場合 行動は,嫌悪刺激が与えられると減少する。同時に強い情動反応が生起する。上記の「適切な行動」,「不適切な行動」は,行動修正の目標に従って相対的に決める。

 問題行動は,上記の四つのいずれかあるいは複数の行動随伴性によって生起し,持続している。したがって,行動修正では,⑴適切な行動に正の強化刺激が与えられるようにする,⑵不適切な行動に正の強化刺激が与えられないようにする。個体内では,特定の行動(クラス)が増えると,別の行動(クラス)が減る。たとえば,不安反応と主張反応は,一方が増えると,一方が減る。不適切な行動を減らすという対応だけでは,行動を一時的に減少させるに止まる。適切な行動を増やし,それを維持することで,その結果として不適切な行動を低減させ,その状態を維持することが,行動修正の基本である。行動の獲得と適切な行動レパートリーの拡張への支援と同時に,獲得されたスキルが日常環境の中で安定して出現し,機能するように環境整備を行なうことも,行動修正の目的である。

【先行刺激の機能分析と行動修正】 行動修正において,先行刺激のモダリティ・強度を変化させて,適切な行動が出現しやすいように先行刺激を機能化・最適化する。先行刺激は,同時に行動修正の文脈を与える。行動随伴性を記述した先行刺激をルールruleという。強化刺激が得られる条件を明示したルールは,強化刺激が大幅に遅延される場合でもコンプライアンスを維持するうえで重要な役割を果たす。また,他者から与えられる場合に比べ,自分で作ったルールの方が守られることが多いので,ルールの設定は本人参加のうえで決定し,行動修正の進行に応じて,内容を調整しながら進めていくことが効果的である。

 後続刺激の働きを強める先行刺激への働きかけのことを確立操作establishing operationという。これは,広い意味での動機づけを高める先行刺激の設定のことである。たとえば,カウンセリングにおいて,カウンセラーとクライエントが十分コミュニケーションを取っておくことが,カウンセラーの出す刺激の強化機能を高めるうえで有効である。

【評価・研究方法と倫理】 まず,標的とすべき行動(ターゲット行動)を定義する。機会当たり,時間当たりの行動の頻度などが従属変数として計測される。すべての行動を記録することができない場合,次のような観察・記録法を用いる。インターバル記録法interval recordingは,1分間を,たとえば20秒間隔で区切って,その時間間隔内に特定の行動が生起したか否かを記録する。時間サンプリング法time-samplingは,時間間隔終了時点で特定の行動が生起したかを計測する。これらの計測では,二人の観察者が独立に行動を記録し,特定の行動の生起-非生起の一致度を算出する。そのように計測した一致-不一致を信頼性reliabilityという。

 行動修正では,介入を実施し,その効果を明らかにするため,単なる時間経過に伴う行動の変化や変動性を除外する必要がある。そのため,独自の単一事例研究デザインが開発されてきた(Barlow,D.,Nock,M.,& Hersen,M.,2009)。

多層ベースライン法multiple baseline design 現在の行動の安定状態をベースラインとして計測し,安定状態後の介入の時期を,対象者間(課題間,行動間)でずらしていくことで,時間経過による行動の変化か介入によるものかを明らかにする方法である。最もよく用いられる方法である。

ABAB法ABAB design 介入しないフェイズ(A)と介入するフェイズ(B)とを,時間軸上で交互に適用し,その差分を検出することで,介入効果を明らかにする方法である。環境条件の直接的影響の分析など,持ち越し効果carry over effectのない行動変化過程を明示するために有効な方法である。

条件交代法alternating treatment design 介入1,介入2をほぼ同時期に,介入順序をカウンターバランスを取りながら適用することで,その効果の差を検出するための方法である。

基準変化法changing criterion design 介入のための基準を徐々に変化させていき,それに対応した行動が出現するかを分析する方法である。

 行動修正は,明確な倫理基準のもとに,本人,養育者,家族,利益擁護者への説明と合意のもとで実施される。また,社会的な価値に関係するので,行動修正の目的・方法が適切で妥当なものであるか,修正の結果が個人の生活の質を上げることに寄与したかについて,外的観点からの評価が不可欠である。研究と直接関係のない複数の人に,これらの点をリッカート尺度で評定してもらう社会的妥当性social validityが用いられる。 →オペラント条件づけ →強化 →刺激等価性 →レスポンデント条件づけ
〔山本 淳一〕

出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報

世界大百科事典内の行動修正の言及

【行動変容】より

…行動変容(または行動修正)と行動療法とは同義的または互換的に使用され,いまだ明確な統一見解はない。そのいずれの用語をとるかは,行動療法の基礎理論としてレスポンデント条件づけ法を重視するかオペラント条件づけ法(条件づけ)を重視するか,変容の対象行動が神経症以上の不適応行動か一般的人間行動か,臨床心理学的実践を先発の医学との関係でどうとらえるか,あるいは基礎理論が学習理論だけかそれに限らず実験心理学から広義の行動科学のものまで広げるかなどの違いによることが多く,しかもそれらが錯綜して無自覚的に使用されている。…

※「行動修正」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

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