レスポンデント条件づけ(読み)レスポンデントじょうけんづけ(その他表記)respondent conditioning

最新 心理学事典 「レスポンデント条件づけ」の解説

レスポンデントじょうけんづけ
レスポンデント条件づけ
respondent conditioning

動物の行動には,行動を自発emitするオペラント行動operant behavior と,刺激によって誘発elicitされるレスポンデント行動respondent behaviorがある。レスポンデント条件づけは,刺激と刺激を時間的に接近させて呈示することによって,その関係を学習させる条件づけconditioningの方法である。条件づけを二分法的に分類したスキナーSkinner,B.F.により命名され,オペラント条件づけと対置される手法である。レスポンデント条件づけは,古典的条件づけclassical conditioning(Miller,S.,& Konorski,J.,1928),または発見者の名を冠してパブロフ型条件づけPavlovian conditioningともいわれる。

【条件づけの方法】 パブロフPavlov,I.P.(1927)は,イヌを使った有名な唾液条件づけ実験において,食物をイヌの口に入れたときに生じる唾液分泌反射が,本来それを引き起こさない刺激(中性刺激neutral stimulus)によって誘発されることを発見した。この現象は,特定の条件下で動物が学習した結果としての反射(反応)であると考えられ,今日では条件反応conditioned response(CR)といわれる。この例における食物など,唾液を生得的に誘発する刺激を無条件刺激unconditioned stimulus(US)といい,USにより引き起こされる反射性の唾液分泌は無条件反応unconditioned response(UR)といわれる。ベルの音のような中性刺激とUS との対呈示を繰り返すと,やがてベルの音が唾液分泌を誘発するようになり(これがCRである),この場合のベルの音を条件刺激conditioned stimulus(CS)という。

【条件づけの種類】 レスポンデント条件づけに大きく影響する要因の一つに,CSとUSを呈示する際の時間的配置が挙げられる。図には代表的な六つの手続きを示した。最も効果的な条件づけの手続きは延滞条件づけdelay conditioningといわれ,USの呈示がCSの開始に遅れて呈示される。このうち,CSの呈示が先行し,US呈示までの時間がすぐであれば,短い延滞条件づけshort-delay conditioning(①)といい,それらの間隔が長い場合は,長い延滞条件づけlong-delay conditioning(②)という。条件反応の強さは延滞時間に反比例し,CSとUSの間隔が短いほど効果的である。しかし,それらの間隔がゼロであればいいというものではない。CSとUSが同時に呈示される場合は,同時条件づけsimultaneous conditioning(③)といわれるが,短い延滞条件づけに比べ条件づけは弱い。パブロフの実験を例に取れば,ベルの音と食物が同時に呈示されると,イヌはまずは目の前の食物に反応し,CSに気づくのが遅くなると考えられる。つまり,それだけCSがUSの到来を予測する信号として機能するようになるのが遅れる。CSとUSの間に何も呈示されない時間が設定される場合を,痕跡条件づけtrace conditioning(④)という(なお,①,②,④はまとめて順行条件づけforward conditioningとよばれる)。CSとUSの間隔が広がるほど条件づけの程度が弱まる。これは,CSがいったん呈示されなくなった後にUSが開始されるので,条件づけが成立するためにはCSの刺激残効(つまり記憶痕跡)が保持されていなければならず,その保持力は時間経過とともに減衰すると考えられているからである。したがって,CS-US間隔の条件づけの程度に及ぼす妨害効果は,長い延滞条件づけに比べ,痕跡条件づけにおいて大きい。

 一方,CSがUSの後に呈示される場合は逆行条件づけbackward conditioning(⑤)といわれる。この場合,たとえUSとCSの呈示間隔が短くとも,短い延滞条件づけや同時条件づけに比べ条件づけは困難である。それゆえ,条件づけの成立にとって,CSとUSの時間的接近だけではなく,両者の配置順序が大事であり,CSがUSの有効な予告信号となる場合に円滑に条件づけが進行する。CSは呈示されず,USのみが一定の間隔で呈示される特殊な手続きを時間条件づけtemporal conditioning(⑥)という。条件反応はUSの呈示間隔に対応して生起することから,時間間隔がCSとなっていると考えられる。

【条件づけの統制法】 CSとUSが結びつくこと(連合association)を基礎として条件づけが成立するが,USによって何度も反応が誘発されれば,設定したCS以外の他の刺激(境刺激も含め)がその反応を引き出す確率が増すことがある。条件反応に類似した様相を示すことから,擬似条件づけpseudoconditioningといわれ,鋭敏化sensitizationもその一つである。このような可能性を排除するために,条件づけ実験ではランダム・コントロールrandom controlといわれる統制手続きが用いられる。その一つに,CSとUSの両者が呈示されるが,条件づけを成立させないほど長い刺激呈示間隔で与える方法があり,これは完全な非対呈示手続きexplicitly unpaired procedureといわれる。しかし,この手続きでも「完全な」統制条件にはならない可能性がある。なぜなら,CSは少なくともCS呈示後のしばらくの間はUSが生起しないという情報を与えるからである(この種の学習を制止条件づけinhibitory conditioningという)。もう一つの手続きに,真にランダムな統制手続きtruly random controlがあり,これはCSとUSが一定の試行の連続的まとまり(セッションといわれる)を通して,対呈示の機会を除去するようランダムに呈示される。それでもなお,設定したCSが中立だとはいえず,他のさまざまな影響が関与する可能性も指摘されている(Papini,M.R.,& Bitterman,M.E.,1990)。それゆえ,条件反応生起の査定に際しては,ランダム・コントロールを用いたとしても,因果関係の慎重な分析が必要とされる。

【条件づけの現象】 レスポンデント条件づけにおいては,それまでに対呈示されたことがないが,CSによく似た刺激に対して条件反応が引き起こされる。これは,条件づけが拡大・一般化する効果であることから,般化generalizationといわれる。ウサギの瞬膜条件づけでは(Moore,J.W.,1972),1200Hzの純音をCS,目の近くに与えられる電気ショックをUSとして,数百回の対呈示を行なった。URは目の表面の角膜保護のために瞬膜を広げるという反応である。やがて高い比率でCSが瞬膜反応(CR)を誘発した(条件づけの成立)。テストとして,400Hzから2000Hzまでの純音をショックなしでランダムに呈示したところ,元のCSである1200Hzの音が最も高い割合でCRを誘発した一方,800Hzや1600Hzにはその3分の2,CSからさらに離れた400Hzや2000Hzには3分の1ほどのCRが観察された。つまりCRはCS以外の音に般化したのである。CSを頂点として,そこから離れるほど割合が低くなる勾配が見られることから,般化勾配generalization gradientといわれる。

 般化と正反対なのが弁別discriminationであり,特定の刺激には反応するが,それ以外の別の刺激には反応しないという区別が学習された結果である。弁別は分化条件づけdifferential conditioningにより達成される。前述の例において,1200Hzの音にはショックを呈示し,1600Hzの音には対呈示がなければ,やがて1200Hzには瞬膜反応が生じ,1600Hzに対しては反応が生じなくなる(弁別の成立)。

 複数のCSを用いて条件づけを行なうと興味深い現象が見られる。パブロフは音と光という中性刺激を組み合わせ(複合刺激という),食物をUSとして条件づけを行なった。すると,どちらの刺激も十分にUSとの対呈示の機会があったにもかかわらず,音刺激が光よりも強い条件反応を誘発した。発見したパブロフがこれを隠蔽overshadowingと名づけた。この場合,CSを別々にUSと対呈示して条件づけを行なうと,いずれも相応の条件反応を誘発することから,どちらかがとくに弱いCSであったわけではない。しかし,それらを組み合わせて呈示した場合,(おそらく目立ちやすさに差が生じて)いずれかのCSによるCRの喚起力が強く,一方が他方の条件づけを覆い隠したように見えるので,隠蔽といわれる。

 類似した現象にブロッキングblocking(阻止)があり,この現象を初めて観察・報告したのはケーミンKamin,L.J.(1969)である。第1段階で,複合刺激の要素の一つ(たとえば音)をCSとして,US(たとえば電気ショック)と対呈示する。条件づけが確立した後に,第2段階として,複合刺激の別の要素である光を加えて音とともにCSとし,条件づけを行なう。テストにおいて条件づけの程度を調べると,第2段階で付け加えられた光に対してはほとんど条件づけが見られなかった。前記の第2段階から始めて,音と光の複合刺激で条件づけを行なった統制群では,どちらの刺激も十分に条件反応を誘発した。この現象は音と光を入れ換えても同様に生じる。

 隠蔽と阻止は,レスポンデント条件づけの理論の展開にとって重要な役割を果たした。多くの研究者はこれらの現象を獲得(学習)の「失敗」とみなしている。レスコーラRescorla,R.A.とワグナーWagner,A.R.(1972)は,特定の刺激がUSとの連合強度associative strengthをどれだけ獲得するかが重要だと考えた。複合刺激の一方の要素が一定の連合強度を獲得すれば,他方の要素が強度を獲得する能力が損なわれるというものである。分配連合強度shared associative strengthとして知られるこの原理(レスコーラ-ワグナーモデル)は,ある刺激への条件づけは,同時に呈示された刺激の強さや目立ちやすさに反比例することを示唆している。前述の隠蔽の例では,CSとして目立ちやすい音が,そうではない光よりも,連合強度の多くの取り分をすばやく獲得した結果,光に対する条件づけが弱かったと考えられる。また阻止の例では,すでに連合強度の大部分を獲得した音が,次に複合刺激として同時に呈示された光への条件づけを妨害し,結果的に光刺激の条件反応の獲得が弱かったと考えられる。

 CSとUSの対呈示という条件づけに先立って,CSが「単独」で何度も呈示されると,そのCSの条件反応を誘発する力が弱められることが知られており,これを潜在制止latent inhibitionまたはCS先行呈示効果CS preexposure effectという。同一刺激の繰り返し呈示によって反応が減衰する馴化habituationと潜在制止の大きな違いは,繰り返し呈示されたCSの効果の測定方法にある。馴化の実験では刺激を呈示している時に出現する反応の変化だけを測定するが,潜在制止は次の段階におけるレスポンデント条件づけの獲得が(遅れた,つまり制止されたものとして)測定される。この現象は,CSを先行して呈示したことによって,ある種の馴化が生じ,実験対象はその刺激に反応しなくなったと考えられる。前記のレスコーラ-ワグナーモデルでは,この潜在制止を予測できないとされる。CSを単独で繰り返し呈示するだけならば,CSは当然ながら USを予期しないので条件づけは起こらない。つまり学習は生起しないことから,続くCSとUSの対呈示の結果としての条件づけプロセスにはなんの影響も与えないはずである。

 潜在制止を説明するためには,CSを先行呈示することによって,CSの性質が変容することを仮定する必要がある。その一つに注意理論があり,これによれば,CSの目立ちやすさは(先行呈示のような)経験を通じて変化し,CSに対して実験対象が注意を払わなくなることによって,後の条件づけ効果を低下させるというものである(Mackintosh,N.J.,1975)。

【消去と回復】 パブロフ(1927)が発見した重要な現象の一つが消去extinctionである。これはUSを伴わずに,CSだけを繰り返し呈示すると(実験的消去),やがて条件反応は減少していく。消去はある意味で,条件反応の「獲得」と逆の現象である。たとえば,唾液条件づけの獲得の後に,ベルの音(CS)は呈示されるが食物(US)が与えられないと,ベルの音に対して唾液反射は誘発されなくなる。しかし,注目すべきことは,消去の手続きによって条件反応が見られなくなったとしても,獲得されたCSとUSの連合が取り消されたのではないことである。パブロフは,消去手続きを受けた動物がなんの事象も与えられない期間をおくだけで,再び呈示されたCSに対してCRが回復することに気がついた。このような条件反応の再出現を自発的回復spontaneous recovery (自然回復)とよんだ。パブロフはまた,CRが回復する二つ目の手続きを述べている。食物への唾液反応を消去した後で,同じように唾液を誘発する酢を,イヌの口へ2~3滴たらした。次にCSを呈示すると,CRがかなり回復していた。これは脱制止disinhibitionとよばれる。また,単独では唾液分泌を誘発しない他の中性刺激を呈示するだけでも,この現象が見られる。イヌが訓練されている部屋にパブロフが入って近づき,イヌのそばで2分間ほど話しかけた。続いてCSを呈示すると,相当量の唾液反応が誘発され,やはり脱制止が観察された。これは,ベルの音をCSとした例において,もはや唾液を誘発しないほどに消去を進行させても,明るい光のような新しい刺激がベルの音の2~3秒前に呈示されれば,そのCSが再び唾液反応を引き出すということである。パブロフはまた,初めの条件反応獲得訓練で使われたUSを信号(つまりCS)なしで呈示することによっても,消去されたCSが唾液反応誘発力を回復させることを報告している。これは復活reinstatementとよばれる。

 パブロフは,CRの生起を一時的に妨げる対立的な過程が発達することによって消去が生じると考えていた。この過程を制止inhibitionとよび,自発的回復,脱制止,復活は,制止の影響を取り除き,CRの再出現を許す操作であると考えた。現在においても,これらの現象に対する完全な説明はなされていない。消去手続きをいくら行なってもレスポンデント条件づけの経験を消し去ることができないことは確かである。消去を含むさまざまな手続きを実験対象に与えれば,その時点において実験対象は以前の実験対象と同じではないことに注意しなければならない。【さまざまな条件づけ事態】 梅干しを見ると自然に唾液が出るように,われわれ人間の日常生活において,レスポンデント条件づけは無意識のうちにもしばしば生じている。また,野生動物の日々の営みの中にも,かつて天敵に襲われたことのある場所では警戒するといった,レスポンデント条件づけの例を見ることができる。レスポンデント条件づけは,消化腺に関するパブロフ(1897)の研究の中から見いだされたが,その後,ヒトを含む多くの動物種を対象にさまざまな実験事態preparationで,レスポンデント条件づけの実験が行なわれてきた。

 たとえば,ケイソンCason,H.(1922)はヒト成人を対象として,光刺激に対する瞳孔の収縮反射や,顔の筋肉への微弱電流に対する眼瞼の瞬目反射を,音刺激に条件づける研究を報告している。とくに瞬目条件づけeyeblink conditioningは,今日最も盛んに研究されている実験方法の一つとなっており,ヒトだけでなく,ウサギを対象とした研究も多い(なお,ウサギの場合は,眼瞼よりも瞬膜nictitating membraneの開閉を条件づけの指標とすることが一般的である)。

 また,ワトソンWatson,J.B.とレイナーRayner,R.(1920)のアルバート坊やの研究は,情動反応のレスポンデント条件づけ,すなわち条件性情動反応conditioned emotional responseがヒトにおいて生じることを示した実験報告である。この実験のように,嫌悪刺激をUSに用いて学習性の不安情動を形成することを,恐怖条件づけfear conditioningという。たとえば,ラットの恐怖条件づけでは,音CSと電撃USを用いて訓練した場合,音CSを呈示したときに観察される凍結反応(不動反応)freezingをCRとして測定する。また,安定して生じているベースライン行動(餌を報酬とするレバー押し行動など)をCSがどの程度抑制するかを指標として,誘発された恐怖不安反応の大きさを推定する方法(条件性抑制conditioned suppression)もある。

 ヒトを対象とする実験では,倫理的配慮から,恐怖や不安のような強い情動を喚起する刺激が用いられることは少なく,比較的弱い感情喚起刺激が用いられることが普通である。こうした感情の条件づけaffective conditioningの研究では,中性刺激を呈示してから感情喚起刺激(たとえば,騒音や微弱電流のような不快刺激や,美しい映像や好ましい音楽のような快刺激)を与える操作を繰り返し行ない,測定された心拍や皮膚電気反応の変化から条件づけの成立を確認する。また,被験者自身による感情評価(刺激に対する感情報告や,刺激間の選択反応などによる)から,条件づけを測ることも行なわれており,この方法を評価的条件づけevaluative conditioningという。なお,中性刺激も感情喚起刺激もともに単語である場合には,意味の条件づけconditioning of meaningとよばれることがある。

 ところで,飲食物を摂取した後に身体内部の不調症状が生じると,当該飲食物をそれ以後は摂取しないようになる。この味覚嫌悪学習taste aversion learningは,味覚刺激をCS,不調症状をUSとして形成されるレスポンデント条件づけだと考えられるため,条件性味覚嫌悪conditioned taste aversionともよばれる。しかし,味覚嫌悪学習は獲得が容易で(1回の経験で生じる),消去しにくく(当該食物の忌避は長期間に及ぶ),連合選択性があり(身体内部の不調症状を引き起こす操作の代わりに,身体末梢への電撃を用いた場合には,味覚嫌悪の形成が困難),長遅延学習が可能である(飲食物摂取から不調症状まで数時間が経過していても学習される),などの特徴を有している。また,飲食物に味覚刺激だけでなく嗅覚刺激も含まれていた場合には,味覚刺激は嗅覚刺激の嫌悪学習を阻害するどころか,むしろ嗅覚嫌悪が増強される(隠蔽効果とは逆の現象が生じる)。こうした特徴から,ガルシアGarcia,J.(1988)は,味覚嫌悪学習はレスポンデント条件づけではなく,別種の学習であると論じた。しかし,不調症状が弱い場合には味覚嫌悪獲得に数試行を要し,消去も速やかであること,持続時間の長い電撃を用いると味覚嫌悪学習が可能であること,長遅延学習が可能といえども,飲食物摂取と不調症状の間には最適な時間間隔があり,それを過ぎると学習が難しくなることが指摘されている。また,味覚刺激の存在による嗅覚嫌悪学習の増強は必ずしも生じるわけでなく,しばしば隠蔽効果が見られる。こうしたことから,現在では,味覚嫌悪学習と一般的なレスポンデント条件づけとの違いは,質的なものではなく,量的な差にすぎないとする立場が主流である。

【高次条件づけhigher-order conditioning】 CSとUSの対呈示操作によって,CSに対してCRを条件づけた後,CSを新たな中性刺激と対呈示する(USは与えない)と,その刺激もCRを誘発するようになる。たとえば,「音刺激→餌」試行を繰り返し行なった後,「光刺激→音刺激」試行を繰り返すと,音刺激だけでなく,光刺激も唾液分泌を引き起こすようになる。このとき,最初の条件づけを1次条件づけfirst-order conditioning,それに基づいて形成された条件づけを2次条件づけsecond-order conditioningという。なお,2次条件づけ期に,補習訓練refresher trainingとして時折1次条件づけ操作を混ぜて実施することがあるが,この場合,補習訓練の試行数が多くなりすぎると,かえって2次条件づけ形成を阻害することがあるので注意が必要である。前記の例でいえば,「光刺激→音刺激」試行での訓練に加えて補習訓練として「音刺激→餌」試行を混ぜて実施すると,光刺激は「音刺激の後に到来するはずであった餌が来ないこと」を予測する信号となりかねない。つまり,2次条件づけ手続きではなく,条件性制止conditioned inhibition手続きになってしまう。

 2次条件づけを基にして,さらに別の刺激にCRを条件づけると3次条件づけthird-order conditioningとなる。パブロフ(1927)は,唾液反射では2次条件づけまでしか形成できないが,肢への電撃をUSに用いた防御性屈曲反射では3次条件づけが可能であるとした。なお,1次条件づけではURを基にCRが形成されるが,2次条件づけや3次条件づけではCRに基づき新たなCRが形成されるため,2次条件づけ以上をまとめて高次条件づけとよぶ。

 前述のように,2次条件づけの実験は,CS1とUSを対呈示する第1段階と,CS2とCS1を対呈示する第2段階からなる。この順序を逆にして,まずCS2とCS1を対呈示してから,CS1とUSを対呈示する。その後,CS2を呈示するとCRが観察されることがある。これを感性予備条件づけsensory preconditioning手続きという。

【第2信号系と言語】 バブロフはヒトの高次神経活動を理解するためには,通常の条件づけによる第1信号系とは別にヒト固有の言語機能である第2信号系second signal systemを構想した。第1信号系が現実の信号であるのに対し,第2信号系は信号の信号としての機能をもつ。したがって,第2信号系は1次信号の言語による抽象化である。たとえば赤いランプを条件刺激とし,冷たい氷を無条件刺激として血管収縮反応を条件づけた後に,実際のランプではなく「赤いランプ」という言語刺激を呈示すると,やはり血管収縮反応が生じる。二つの信号系は相互に興奮あるいは制止を行なう。したがって,言語刺激によって内臓反射を起こすことも可能である。言語は1次的には発声器官から皮質に達する運動感覚刺激であり,脳内に形成される第2信号系の連鎖系列と考えられた。さらに,第2信号系が第1信号系の運動出力につながらない場合が内言であり,これが思考の基本であるとパブロフは考えた。また,精神疾患を二つの信号系の不適切な相互関係によるものと考えた。 →オペラント条件づけ →般化 →弁別学習 →連合学習理論
〔石田 雅人〕・〔中島 定彦〕

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