被爆地域(読み)ひばくちいき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「被爆地域」の意味・わかりやすい解説

被爆地域
ひばくちいき

1945年(昭和20)8月にアメリカによって広島、長崎に投下された原子爆弾の爆心地から一定範囲内で、放射線に起因する健康被害が想定されるとして国が定めた地域。被爆者援護法は被爆地域を、原爆投下当時の広島市、長崎市の区域内または政令で定める隣接区域内、と規定している。日本政府は広島については、原爆投下当時の広島市域に加え、放射性物質を含む黒い雨が多く降ったとされる隣接地域を被爆地域に定めている。長崎市については、爆心地から南北に約12キロメートル圏内、東西に約7キロメートル圏内の楕円(だえん)のような範囲を被爆地域と定めている。被爆地域内で原爆に遭遇した人は被爆者と認定され、被爆者健康手帳交付を受け、医療費の自己負担分が原則無料となる。なお長崎では、爆心地から半径12キロメートル圏内で原爆投下の被害にあっても、国が定める被爆地域外にいた人は被爆体験者となり、被爆者健康手帳の交付を受けられず、精神疾患とその合併症に限ってのみ医療費の一部が支給される。

 被爆地域は第二次世界大戦後、徐々に拡大されてきた。広島市、長崎市とも、原爆医療法(現、被爆者援護法)ができた1957年(昭和32)には、原爆投下時の行政区画地形に基づいて被爆地域が設定された。その後、行政区画の拡大に伴い、被爆地域は段階的に広げられた。しかし長崎市では、被爆者と被爆体験者の支援内容の格差が大きいため、長崎市は国に対して、爆心地から半径12キロメートル圏内すべてを被爆地域と認定し、同圏内で被爆した人すべてを被爆者とするよう要求している。長崎地方裁判所は2016年(平成28)2月、福島第一原子力発電所事故で年間積算被曝(ひばく)線量が20ミリシーベルトに達すると推定した地域を計画的避難区域とした点を踏まえ、被爆地域外で原爆にあった被爆体験者でも、年間積算被曝線量が25ミリシーベルトに達したと推定される場合には、被爆者と認める判決を出した。

[矢野 武 2016年9月16日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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