負・課・仰(読み)おおす

精選版 日本国語大辞典 「負・課・仰」の意味・読み・例文・類語

おお・す おほす【負・課・仰】

〘他サ下二〙
[一] (負・課) 「おう(負)」に対する使役形で、「負わせる」の意。
① 背に負わせる。物などを持たせる。
万葉(8C後)一八・四〇八一「片思ひを馬にふつまに於保世(オホセ)もて越辺(こしへ)にやらば人かたはむかも」
源氏(1001‐14頃)蜻蛉「さまざまにせさせ給ふことは多かりけれど、〈略〉ただこの人におほせたる程なりけり」
② 責めを負わせる。罪をかぶせる。責任を持たせる。かこつける。
書紀(720)大化元年八月(北野本訓)「他(ひと)貨賂(まひなひ)を取りては、二倍(ふたへ)して徴(はた)らむ。遂に軽さ重さを以て罪科(オホセむ)
※源氏(1001‐14頃)乙女「もろともに罪をおほせ給ふは、恨めしき事になむ」
③ (名を負わせるの意で) 名をつける。
古事記(712)上「名を負(おほせ)て、稲田宮主須賀之八耳神と号(なづ)けたまひき」
④ 受けさせる。こうむらせる。また、特に「手おほす」の形で、傷つける。
※後撰(951‐953頃)離別・一三一一「をしと思ふ心はなくてこのたびは行く馬にむちをおほせつるかな〈よみ人しらず〉」
徒然草(1331頃)八七「走りかかりつつ斬り廻りけるを、あまたして手おほせ、打ち伏せて縛りけり」
⑤ (物を出す義務などを負わせるの意で) 物などを出すことを命ずる。課税する。課役する。
※書紀(720)皇極元年九月(図書寮本訓)「復、諸国(くにくに)に課(オホセ)て、船舶(ふね)を造ら使む」
⑥ (債務を負わせる、負財させるの意で) 借りさせる。貸す。
※俳諧・竹馬狂吟集(1499)一〇「つゐにはわたす大はん若きゃう おほせたる六百貫をせめられて」
[二] (仰) ((一)から出たもので、「ことばを負わせる」というところから、言いつける、命令するの意となり、上位者から下位者に命ずるのが普通であるところから、尊敬語意識が生じた。また、上位者のことばを、言いつけられたものとする気持からか、一方では単に「言う」の尊敬語としての用法も生ずる)
① (尊敬語意識を含むことも多い) 上位から下位に向かって言いつける、命令する。お言いつけになる。御命令になる。
(イ) 単独で用いる場合。
※古事記(712)中「伊迦賀色許男の命に仰(おほ)せて、天の八十毘羅訶(やそびらか)を作り、天神地祇の社を定め奉りたまひ」
※徒然草(1331頃)五一「大井の土民におほせて、水車を造らせられけり」
(ロ) 「仰せ給ふ」の形で用いる場合。「給ふ」は上位から下位へ与える意で、「仰す」について命令する方向をはっきりさせたものか。中には、「仰せ」が動詞連用形か名詞か判別しにくい用例もある。御命令下される。
※古事記(712)中「又 百済の国に『若し賢(さか)しき人有らば貢上(たてまつ)れ』と科(おほせ)賜ひき」
(ハ) 「仰せらる」の形で用いる場合。→おおせられる
② 「言う」の尊敬語。おっしゃる。「のたまう」に比べ、これの方が下位者に言いかける、問いかける気持を含み、また、中世初期ごろには敬意も強かったようである。
(イ) 単独で用いる場合。
※延喜廿一年京極御息所褒子歌合(921)「さきにおほするなむ、例忠房舌をまき頭をたれて」
(ロ) 「仰せ給ふ」の形で用いる場合。
※竹取(9C末‐10C初)「御子の君〈略〉かしこき玉の枝を作らせ給ひて、官(つかさ)も賜はむとおほせ給ひき」
(ハ) 「仰せらる」の形で用いる場合。→おおせられる

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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