財政赤字を穴埋めするため、中央銀行が政府の国債などを直接引き受けること。中央銀行が通貨を発行し、国の財政赤字を直接補填(ほてん)する行為であり、中央銀行が国家財政に資金を供給する(ファイナンスする)という意味の名称である。(国債の)マネタイゼーションともいう。
歴史的には、第一次世界大戦後のドイツや1980年代のブラジル、アルゼンチンなどで行われ、政府の財政規律を失わせると同時に、中央銀行の通貨発行に歯止めがかからなくなり、悪性インフレを引き起こす結果となった。国の通貨や経済政策への信認を大きく損なうことにつながるため、主要先進国は法制度として財政ファイナンスを禁じている。日本でも、「国債の市中消化の原則」に基づき、財政ファイナンスとみなされる日本銀行による国債の直接引受けは、財政法第5条によって、特別の事由がある場合を除き、禁止されている。ただし日本銀行の金融調整の結果として日本銀行が保有する国債などのうち、償還期限が到来した国債などは「財政法第5条但書」規定に基づき、国会の議決を経た金額の範囲内で、国による借換えに応じることができるとしている。
2013年(平成25)、日本銀行総裁の黒田東彦(くろだはるひこ)(1944― )は年2%の物価上昇目標を設定すると同時に、大量の国債を市中から買い入れて通貨を供給する量的・質的金融緩和(異次元金融緩和)政策に乗り出した。2021年(令和3)時点で、日本銀行が保有する国債は発行残高の4割を超えている。これについて、政府と日本銀行は「2%の物価上昇目標という歯止めがかかっており、財政ファイナンスではない」としているが、経済学者や野党、経済界の一部からは「財政ファイナンスであることは明らかで、けっして健全な財政政策とはいえない」との批判が出ている。
[矢野 武 2022年1月21日]
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