資本規制(読み)しほんきせい(英語表記)capital control

翻訳|capital control

日本大百科全書(ニッポニカ) 「資本規制」の意味・わかりやすい解説

資本規制
しほんきせい
capital control
capital regulation

政府や中央銀行が自国通貨の暴落預金の流出などによる金融システム危機を防ぐため、お金の流れに規制をかける措置。おもな規制としては、(1)国内資本の海外への流出を防ぐための海外送金の制限、対外投資の規制、外国為替(かわせ)取引の制限、(2)海外からの急激な資本流入を抑えるための短期外資流入の規制、外国為替取引の規制、海外からの国内株式や国内債券への投資課税、(3)取り付けによる銀行破綻(はたん)を防ぐための銀行休業、預金引出し制限、小切手の換金禁止、給与の一部の強制預金、大口預金者への損失負担、などがある。とくに三つ目の手法は預金封鎖とよばれる。資本規制は、国際社会からの信用が失墜するうえ、国民の財産権を侵害する措置であるため世論の強い反発を招き、政権の弱体化や崩壊につながることもあるが、歴史的には、金融危機に陥った多くの国が最終手段として採用してきた。

 大恐慌時の1933年にアメリカの大統領フランクリン・ルーズベルトがバンクホリデー(一斉銀行休業日)を設けたほか、1997年からのアジア通貨危機に際し、1998年にマレーシア政府が資本規制を実施した。また、債務不履行(デフォルト)を宣言したアルゼンチン政府は2001年に預金引出し規制を行い、国民の大規模暴動が発生した。このほか2006年のタイでの短期外資流入規制、2008年のアイスランドの海外投資制限、2009年のブラジルでの海外からの投資課税、2013年のキプロスの銀行臨時休業など多くの事例がある。2015年には財政危機に陥ったギリシア政府が銀行の一斉休業、預金引出し制限、海外送金制限などを実施した。日本では昭和恐慌時の1927年(昭和2)に大蔵大臣高橋是清(これきよ)の要請で銀行が一斉休業したほか、第二次世界大戦後のインフレを抑えるため、幣原喜重郎(しではらきじゅうろう)政権は1946年(昭和21)に新円切替えと同時に預金封鎖を実施した。なお広義には、バーゼル合意に基づく自己資本比率規制なども資本規制に入るとする考え方がある。

[矢野 武 2016年3月18日]

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