国際業務を営む銀行の健全性を維持するための国際統一基準。日本を含む主要28か国・地域の銀行監督当局と中央銀行で構成するバーゼル銀行監督委員会(通称、バーゼル委員会Basel Committee on Banking Supervision)が定めるため、こうよばれる。金融システム不安を防ぐと同時に、各国の銀行の競争条件をそろえるねらいがあり、自己資本比率や流動性比率などを基準に健全性を評価するという特徴をもつ。バーゼル規制ともよばれる。また、バーゼル委員会が国際決済銀行(BIS(ビス))内に事務局をもつため、BIS規制ともいわれる。なお、バーゼル合意は経済・金融情勢の変化にあわせて過去に二度の大幅改定を経ており、最新のバーゼル合意はバーゼルⅢとよばれる。
1980年代に金融のグローバル化が進み、国際業務銀行が破綻(はたん)すると、他行がドミノ倒しのようになり金融システム危機を招くおそれがあった。このため1988年にバーゼル委員会は自己資本比率を柱とする規制導入で合意(バーゼルⅠ)。世界の多くの国際業務を行う銀行に対して1992年末(邦銀は1993年3月末)から適用した。また、国際業務を営んでいない中小金融機関にも、金融システム維持の観点から、一定の猶予期間をおいて適用された。自己資本比率は貸出債権、株式、債券など元本割れのリスクのある資産額(リスクアセット)を分母とし、資本金、引当金、準備金、株式などの含み益、劣後ローンなどの自己資本を分子として計算する。このうち自己資本は、普通株や優先株などで調達した資本金、準備金、剰余金などの純資産にほぼ等しい中核的自己資本(Tier1)と、会計上は負債に計上される補完的自己資本(Tier2)からなる。債権などが回収できなくなった場合、自己資本を取り崩して穴埋めするため、自己資本比率が高いほど健全性が高いといえる。バーゼルⅠでは、自己資本比率を8%以上(うち中核的自己資本は4%以上)とするよう求めた。基準未達成でも罰則はないが、格付けの引き下げ、資金調達コストの上昇、株価下落などにみまわれ、事実上、銀行業務は大幅な制約を受けることになる。バーゼル委員会はデリバティブの普及など金融が高度化・複雑化したため、2004年に融資先企業の信用力に応じて貸出債権のリスクをきめ細かく定める新たなバーゼル合意(バーゼルⅡ)を公表し、2006年末(邦銀は2007年3月末)から導入した。さらにリーマン・ショックなどの教訓を踏まえ、2010年にバーゼルⅢを公表した(最終的な合意は2017年)。バーゼルⅢでは、中核的自己資本を普通株や内部留保からなる「普通株等Tier1(狭義の中核的自己資本、コアTier1ともいう)」と優先株などの「その他Tier1」などに分けて定義。想定外の損失に直面しても経営危機に陥らないよう、「狭義の中核的自己資本」、これに内部留保の蓄積を促す資本保全バッファーを加えた「中核的自己資本」、さらに「その他Teir1」や「補完的自己資本(Tier2)」を加えた「総自己資本比率」の三つの自己資本比率を段階的に一定比率以上とするよう厳格化。また、急な資金の引き出しに備える流動性比率規制や、過大なリスクをとらないよう抑制するレバレッジ比率規制などの指標も導入した。バーゼルⅢは当初2021年末から適用する計画であったが、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)やロシアのウクライナ侵攻の影響で、日本では大手銀行や一部の地域銀行など国際統一基準金融機関では2024年3月末から、ロシア向け債権を多くもつヨーロッパの金融機関は2025年から適用を開始し、世界的インフレやウクライナ侵攻の影響などを見極め、リスク計測手法を見直したうえで、最終的な完全実施を2028年に延期した。
[矢野 武 2023年4月20日]
「バーゼル規制」のページをご覧ください。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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