賈宝玉(読み)かほうぎょく(その他表記)Jiǎ Bǎo yù

改訂新版 世界大百科事典 「賈宝玉」の意味・わかりやすい解説

賈宝玉 (かほうぎょく)
Jiǎ Bǎo yù

中国,清代の小説《紅楼夢》の主人公。賈家の若君として,祖母の史氏に溺愛され,〈十二釵(さ)〉と併称される優れた女子に囲まれて成長するうち,汚れなき少女を至上のものと賛仰する一種の処女崇拝主義を培う。〈紅(赤色)〉を好み,幼年時代の放言に〈男は泥,女は水でできている〉とあるように,自己をも含め,男子は〈濁った存在〉としか映らない。在来の小説にありふれた〈才子〉像とは異なり,儒教をあがめて八股(はつこ)文の稽古に励み,科挙に通り官僚として栄達することを目標とした当時の読書人の風潮に疑問を抱くため,父の賈政からたえず訓戒を受ける。優柔不断で十二釵らを次々襲う悲劇的な運命に有効に対処できず,封建社会の重圧のなかでもがくばかり。幼時からともに育った従妹林黛玉(りんたいぎよく)をもっとも愛しているのに,愛情の表現は不器用である。天性の〈情〉の権化として,林黛玉の早世後いったん従姉の薛宝釵(せつほうさ)と結婚するものの,情縁を覚了し出家したはずであるが,未完の原作はそこに及ばない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「賈宝玉」の意味・わかりやすい解説

賈宝玉
かほうぎょく
Jia Bao-yu

中国,清の曹雪芹の小説『紅楼夢』の主人公。長安の大貴族でやがて没落する賈家の御曹子。従妹の林黛玉 (たいぎょく) との悲恋ののち,科挙に合格しながら現世の名誉や富を拒否して,崩壊しかかった家をあとに行くえをくらませてしまう。清初の文人納蘭 (のうらん) 性徳がモデルといわれたが,同じような没落貴族の家に育った作者自身の体験が,かなりの要素を占めていると考えられる。賈宝玉は天地間の霊気はすべて女に集り,男はそのかすであるという考えの持主で,したがってそのかすの支配する現在の政治,道徳などを批判する言辞をしばしば口にする。その人物像は,1954年頃から起ったいわゆる「紅楼夢論争」において論議の的となったが,結局,賈宝玉を封建道徳に対する反逆者であるとし,家を捨てるという行動も一つのレジスタンスとして意義を認めるという意見が支配的となった。

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世界大百科事典(旧版)内の賈宝玉の言及

【曹雪芹】より

…この長編は曹家の栄枯の歴史をフィクション仕立てでつづったものといえ,曹家が〈犯罪〉を招いた官界の構造を告発し,その無実を訴えんとする意図が隠されていよう。主人公賈(か)宝玉は作者の青春像の投影かとも見られる。脂硯斎ら肉親,知友の協力と励ましを受け,10年以上にわたって改訂を重ねるうち,貧困のため一子を病没させ,感傷のあまり未完のまま世を去った。…

※「賈宝玉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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