質保証制度(読み)しつほしょうせいど

大学事典 「質保証制度」の解説

質保証制度
しつほしょうせいど

アメリカ合衆国

アクレディテーション] アメリカの質保証では,合衆国憲法で教育に関する権限は連邦政府ではなく州に帰属するものとされており,大学の設置認可は州によって行われる。ただし,設置認可の厳格性は州によって差があるため,設置認可だけでは大学の質の保証は十分とはいえない。こうしたアメリカ固有の状況のなかで,非政府のボランタリー組織によるアクレディテーション(accreditation)が発展した。アクレディテーションとは,これを実施する組織が独自に基準を設定し,その基準に適合した大学またはプログラムを認定し,その認定校のリストを社会に公表することで,大学またはプログラムの質を保証するシステムである。

 アクレディテーションには大学全体を対象とする機関別アクレディテーション(institutional accreditation)と,特定の専門分野を対象とするプログラム・アクレディテーション(programmatic accreditation)がある。機関別アクレディテーションを実施する組織にはそれぞれ管轄州を持つ地区アクレディテーション協会(アメリカ)(6団体)と全国の宗教関係教育機関を対象とする団体(4団体),全国の職業関連の教育機関を対象とする団体(8団体)がある。プログラム・アクレディテーション団体は2015年現在で70を超え,年々増加する傾向にある。アクレディテーションのプロセスはおおよそ,①アクレディテーションを受ける教育機関の資格要件の確認,②教育機関による自己点検(self-study)の実施,③自己点検に基づく教育機関の実地訪問,④認定の可否の決定,⑤モニタリングである。なお,アクレディテーションを受けるか否かは教育機関の判断によるもので,義務ではない。

[アクレディテーション団体の認可および承認] アクレディテーション団体自体も外部から認可や承認を受ける二様のシステムがある。第1が連邦政府による認可である。連邦政府が,朝鮮戦争からの復員兵が大学に復学するための経済的支援を行うにあたり,独自のシステムを構築せずにアクレディテーション・システムを活用したのが起源である。1965年の高等教育法制定以降,連邦政府の主要な奨学金の受給資格は,連邦政府の認可を受けたアクレディテーション団体の認定した教育機関に入学することが要件となった。民間のアクレディテーションと公的支援の連動は,アクレディテーションを定着させるとともに,連邦政府の高等教育への関与根拠ともなっている。

 第2が,高等教育アクレディテーション協議会(アメリカ)(Council for Higher Education Accreditation: CHEA)によるアクレディテーション団体の承認である。CHEAは機関別アクレディテーション団体に認定された大学を会員とする民間の機関で,連邦政府や社会に対して大学の代表者としてアクレディテーションに関する助言も行っている。アメリカではアクレディテーション団体を容易につくることが可能なので,CHEAの承認を得ることはアクレディテーション団体の社会的な信用につながっている。また多くの州で,法曹,教師などの専門職業資格の交付にあたり,当該分野のしかるべきアクレディテーション団体の認定を得たプログラムの修了を要件としている。
著者: 前田早苗

[ヨーロッパ]

[学修の承認] 欧州では学術・文化の多様性に起因する大学の多様性が尊重され,学生の大学間の移動も個人の経験の幅を広げ,情報の流通を図る観点から重視されてきた。そうした大学間の相互信頼の伝統の下で,他大学での学修の承認(recognition)が推進されてきた。

 学修の承認に係る最初の全欧的取組みは,第2次世界大戦後,民主主義をはじめとする普遍的価値を推進する目的で設立された欧州評議会(Council of Europe)による三つの協定への署名であった。「大学入学要件としての卒業証書」「大学での学修期間」「大学資格」の同等性を相互に承認する基盤となったこれらの協定は,1997年には「欧州地域の高等教育に関する資格の相互承認協定」(リスボン協定)へと発展し,協定批准国の中等教育修了者と大学生は,規定外という明白な証拠がない限り,他の批准国でも同等に扱われるべき原則が共有されてきた(2016年現在,53ヵ国が批准)。この協定の実質化に向けて,欧州評議会とユネスコは他国の教育制度および学位・資格に関する情報提供を行う各国情報拠点のネットワーク(European Network of Information Centres: ENIC)を構築した。欧州共同体(現在の欧州連合)も,学修の相互承認とカリキュラム改善に取り組むことを条件に留学のための学生奨学金を大学ネットワークに提供するエラスムス計画補助金事業を1987年に開始するとともに,学位や学修期間の承認に係る助言や情報提供を行う各国学術承認情報センター(National Academic Recognition Information Center: NARIC)のネットワークを設置した。

[アクレディテーションの導入] 高等教育の拡大による多様化とグローバル化は,相互信頼の前提の下に学修を承認してきた欧州の質保証の伝統に抜本的な転換を迫った。教育大臣等によって1999年に署名されたボローニャ宣言は,3サイクルの学位制度および欧州単位互換累積制度(European Credit Transfer and Accumulation System: ECTS)の導入による欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)の確立と質保証における透明性の向上を目指すものであった。このボローニャ・プロセスへの対応として,各国は2000年前後からアクレディテーション機関の設置に乗り出し,2003年には適格認定の相互承認に合意した機関による欧州アクレディテーション・コンソーシアム(European Accreditation Consortium: ECA),2005年には欧州高等教育質保証協会(European Association for Quality Assurance of Higher Education: ENQA)を結成した。そして2007年からは,ENQA,欧州学生組合(European Students' Union: ESU),欧州高等教育機関協会(European Association of Institutions in Higher Education: EURASHE)および欧州大学協会(European University Association: EQA)が共同で策定した「欧州高等教育圏質保証基準及びガイドライン」(Standards and Guidelines for Quality Assurance in the European Higher Education Area: ESG)に基づくアクレディテーション機関の登録制度(European Quality Assurance Register for Higher Education: EQAR)が運用されている。
著者: 深堀聰子

[ロシアの質保証]

[国家認証] 特別な法的地位を有するモスクワ大学とサンクト・ペテルブルグ大学を除く,国公私立のすべての高等教育機関とその附属機関を対象とし,過去5年間の実績にしたがって,それぞれの種別(ウニベルシテート,アカデミヤ,インスティチュート)としての妥当性,専攻と教育課程の水準,卒業までの教育の内容と質が連邦国家教育スタンダードに見合ったものであるかどうかなどについて審査を行い,正規の教育機関として認証された場合に認められる地位を国家認証(ロシア)(ガスダールストゥヴェンナヤ・アクレディターツィヤ(ロシア))という。高等教育機関を新設する際のライセンスとは区別される。

 国家認証を受けたい大学や付属機関がロシア連邦教育科学省のロシア連邦教育科学分野管理局に申請書を提出すると,同局の監督の下に専門家による審査委員会が結成され,国家認証のための審査が行われる。連邦教育科学分野管理局の下部機構である全国教育領域認証エージェンシー(ロシア)は,年度ごとに国家認証を受けた高等教育機関のリストをウェブサイトに公開している。国家認証を受けていない高等教育機関は,卒業生に国の定める正規の教育修了資格(ディプロマ)や学位を授与することはできない。

[社会的認証] 社会団体,職業団体,組合,協会などがそれぞれ独自の尺度にしたがって高等教育機関の評価を行うことを,社会的認証(ロシア)(アブシェーストゥヴェンナヤ・アクレディターツィヤ(ロシア))と呼んでいる。社会的認証を受けることは高等教育機関にとっては名誉なこととなるが,国からの保証を得るための根拠にはならない。近年はさまざまな民間団体が高等教育機関を評価・格付けする「社会的レイティング」と大学ランキングも流行している。
著者: 澤野由紀子

[アメリカ合衆国]◎前田早苗著『アメリカの大学基準成立史研究―「アクレディテーション」の原点と展開』東信堂,2003.

参考文献: 福留東土「第10章 米国におけるアクレディテーションのアウトカム評価」,羽田貴史・米澤彰純・杉本和弘編著『高等教育質保証の国際比較』東信堂,2009.

参考文献: 喜多村和之著『新版大学評価とは何か―自己点検・評価と基準認定』東信堂,1993.

[ヨーロッパ]◎米澤彰純「ヨーロッパにおける高等教育の質保証」,前掲『高等教育質保証の国際比較』東信堂,2009.

参考文献: ウルリッヒ・タイヒラー著,馬越徹・吉川裕美子監訳『ヨーロッパの高等教育改革』玉川大学出版部,2006.

参考文献: 欧州地域の高等教育に関する資格の承認に関する協定:http://www. coe. int/en/web/conventions/full-list/-/conventions/treaty/165

参考文献: 欧州高等教育圏質保証基準及びガイドライン:http://www. enqa. eu/wp-content/uploads/2015/11/ESG_2015. pdf

[ロシア]◎全国教育領域認証エージェンシー:http://www. nica. ru/

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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