奈良・平安時代に諸国において毎年作成された田租や地子稲を徴収するための帳簿。租帳ともいう。貢調使が関係帳簿とともに中央に提出した。717年(養老1)5月に大計帳,青苗簿(せいびようぼ)などの帳簿と同様に輸租帳の記載様式が諸国に頒布された。《延喜式》には当初のものから少し変更された記載様式が収められている。神田,寺田などさまざまな種類の田について田租や地子稲の徴収対象であるか否か,耕作可能か否かの面から項目別に田積が記録され,徴収された田租・地子稲の数量,口分田の受田戸数,受田人数なども詳細に書き上げられている。風水害,干ばつなどの自然災害を受けた水田は被害程度により課役減免の対象となるため,戸別の被害状況も記録された。被災戸数が多いときはこの部分を中心に別の帳簿が作られ,租帳夾名(きようみよう)帳や租帳歴名と呼ばれた。現存する唯一の輸租帳とされる740年(天平12)の遠江国浜名郡輸租帳には租帳夾名帳や租帳歴名の記載がみえる。この年,風害を受けた約550戸の戸別の被害程度を報告する必要があり,浜名郡の部分が別帳簿とされたとみられる。この浜名郡輸租帳は作成過程での作為が認められる点でも興味深い史料である。中央に提出された輸租帳は民部省主税寮で田租の損失高や耕作不能の田積が規定内であるかを中心に精査され,不備があると返却され改正を命じられた。
執筆者:舟尾 好正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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