改訂新版 世界大百科事典 「透し」の意味・わかりやすい解説
透し (すかし)
water mark
紙を光に透かして見ると濃淡の模様(または文字)が見えるものがある。このような濃淡模様を透しといい,透しを作ることをすき(漉)入れという。かつて紙すき職人が自分の製品を他と区別するため,手すき網にくふうして紙に模様が残るようにしたのが始まりである。現在の長網抄紙機では,シート形成が行われる平たんな金網の上においたダンディーロールですき入れをする。ぬれているシートが金網とともに移動するにつれてダンディーロールが回転し,湿紙の表面を平らにし,水をしぼる。ダンディーロールの元来の目的は紙の地合を改善することであったが,ロールの一部が出張っているとシートに接触したとき紙層を押しのけてその部分のパルプの量が減る。乾燥すると,そこは他の部分より光の透過性がよいので白く見える。これを白透きといい,ノートやタイプ用紙,証書などに用いられる。それに対して,ロール上の文字や模様にあたる部分を逆にへこませたダンディーロールで作るすき入れは,周囲から網のへこみのほうへ紙料が集まるのでシートの質量がそこでは増して光の透過が少なくなる。したがって紙を透かして見た場合に暗く見えるので黒透きという。日本では,黒透きは紙幣等に用いられているほかは原則として禁止されており,また白透きについては紙幣,収入印紙等政府発行の証券にすき入れてある文字や画紋と同一もしくは類似のものの使用が原則的に禁止されている(1947年公布の〈すき入れ紙製造取締法〉)。手すき紙では竹簀(たけす)を使用する関係上,編糸の模様があたかも線のように入り透し模様を作ることがある。
執筆者:臼田 誠人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報