日本大百科全書(ニッポニカ) 「進行性筋ジストロフィー」の意味・わかりやすい解説
進行性筋ジストロフィー
しんこうせいきんじすとろふぃー
筋肉それ自体に遺伝的な問題があって筋肉が萎縮(いしゅく)し、筋肉の力が弱くなる疾患の総称で、PMD(progressive muscular dystrophy)とも略称される。ジストロフィーとは、栄養状態が悪いとか、成長・発育状態が悪いといった意味をもっている。
PMDは進行性に悪化する。その代表的なものがデュシェンヌDuchenne型筋ジストロフィー症で、頻度がもっとも高く、伴性潜性遺伝で、原則として男子のみに症状が現れる。通常、病気は5歳くらいまでに始まるが、初期には主として腰の筋肉が冒され、腰の力が弱くなる。そのため、出生後初めて立ったり、歩き出す(開始年齢は普通1歳前後)のが遅れること、床からの特有な立ち上がり方(登攀(とうはん)性起立)をすること、腰を振って歩く歩き方(いわゆるアヒル歩行)などによりPMDが発見されることが多い。10歳前後で起立や自力歩行ができなくなり、20歳くらいで心不全、呼吸器感染などにより死亡することが多かったが、近年の医療技術の進歩により、延命が可能となった。
これに対してベッカーBecker型は、発病初期の症状はデュシェンヌ型に似ているが、これは良性であり、発病がやや遅くて進行は緩徐で、天命を全うすることが多い。そのほか、主として顔面、肩、上腕の筋肉が冒される顔面・肩甲・上腕型、腰や肩の筋肉が冒される肢帯型もある。これらはデュシェンヌ型とは遺伝形式も異なり、男女いずれにもみられる。発病が遅くて進行も緩徐である。まれではあるが、瞼(まぶた)が下がり眼球の動きが悪くなる眼筋型、四肢末梢(まっしょう)(手や足)の筋肉が冒される遠位型、母胎内ですでに発病している先天型もある。
特徴のある症状から診断されるが、筋電図、血液の酵素測定(とくにクレアチン・フォスフォキナーゼが高値となる)、筋肉の組織検査(筋生検)などはPMDの診断の助けになる。
PMDの治療には有効な薬剤がないので、生活指導、リハビリテーションによる残された筋肉の機能の活用と維持がたいせつである。
[海老原進一郎]