日本大百科全書(ニッポニカ) 「道徳と宗教の二源泉」の意味・わかりやすい解説
道徳と宗教の二源泉
どうとくとしゅうきょうのにげんせん
Les deux sources de la morale et de la religion
ベルクソン最後の主要著作。1932年刊。カントや社会学派に対して、発生論的見地、個人価値賞揚の観点から行った人類の文化的営為への省察の書。人間は社会的動物であり、いわゆる主知道徳は多分に社会的利益衝動の合理的定式化である。が、そのかなたにもう一つの普遍道徳の源があり、それは、カントが人間に不可能とした「超知性的直観」力をもつ「特権的個人」が「愛の活力(エラン・ダムール)」としての神との合体を通じ、「開いた魂」をもって人類を包摂しつつ行う理性的情熱の営為であり、カント的定言命令もその「知的翻訳」の一つではあるが、しかし本質において前者は、厳格道徳とはほど遠い全人格的な「歓(よろこ)び」に満ちた存在論的・形而上(けいじじょう)学的躍動であると、指摘する。
[中田光雄]
『平山高次訳『道徳と宗教の二源泉』(岩波文庫)』