日本大百科全書(ニッポニカ) 「道徳的危険」の意味・わかりやすい解説
道徳的危険
どうとくてききけん
保険契約者の心理作用や動機に関連する危険で、主観的または人為的危険、モラル・ハザードともいう。道徳的危険は、実体的危険または客観的危険に対立する危険である。実体的危険または客観的危険とは、保険の目的物の構造・用途・所在・周囲の状況、高血圧、危険な職業への従事など、保険事故の発生率に影響を及ぼす客観的・実体的・具体的危険をいう。これに対し、道徳的危険は、たとえば、保険契約者が、故意の保険事故招致や保険事故の発生を仮装して不正に保険金請求を行おうとする意図や心理作用をいう。道徳的危険は保険契約者の心理作用や動機にかかわるものなので、これを直接把握することは困難である。そこで、保険者は保険契約者の保険契約の申込みの動機、年齢・職業・資産・収入等に比較して必要額以上の高額の生命保険契約(過当契約)、保険契約者の過去における保険事故歴などを考慮して間接的に道徳的危険の存否を判断することになる。なお、道徳的危険も告知義務の対象となる事実にあたるか否かについては見解が分かれている。
[坂口光男]