道管(読み)どうかん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「道管」の意味・わかりやすい解説

道管
どうかん

植物の木部にある水分の通道をつかさどる組織の一種で、おもに被子植物にみられる。道管を構成する個々の細胞は道管要素とよばれ、植物体の長軸方向に長い円柱状、または多角柱状をなしている。道管要素の直径と長さはさまざまで、一般に太いものでは短く、細いものでは長い。太いものは直径500マイクロメートルにもなるのに対して、細いものは数十マイクロメートルである。この道管要素が上下に多数つながって細長い管となったものが道管で、上下の要素のつなぎ目では、タケの節(ふし)を抜いたように細胞壁が消失し、穿孔(せんこう)となっている。穿孔にはさまざまな形があり、大きく一つの穴が開いている単穿孔、梯子(はしご)状や網目状に細胞壁が残って多数の穴に分かれている階段穿孔、網状穿孔がある。

 最初の道管は、茎や根の成長点近くの伸長成長をしている部分にできる。この原生木部の道管は側壁が薄く、その内側に環状または螺旋(らせん)状の肥厚をもち、環紋道管、螺旋紋道管とよばれる。その後、伸長成長がやむと側壁全体が厚く肥厚して、機械的支持機能をも備えた後生木部や二次木部の道管がつくられる。これらは側壁に有縁壁孔をもち、その形や配列の仕方から、梯子状にみえる階紋道管、網目状の網紋道管、円形ないし多角形の壁孔が密にある孔紋道管などに分けられる。

 道管は、形のうえからも、また機能のうえからも仮道管によく似ているが、道管は、細胞壁が消失した穿孔を通して水分の流通が行われるために、仮道管に比べて効率がはるかによい。したがって、道管は仮道管が進化してできたものと考えられ、下等なシダ植物や裸子植物では仮道管のみしかもっていない。しかし、これにも例外はあり、シダ植物のワラビや裸子植物のマオウ類は道管をもつ一方、被子植物のヤマグルマスイセイジュなどは道管を欠く。後者はとくに無道管植物とよばれ、被子植物のうちでも原始的な仲間であると考えられている。

[鈴木三男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「道管」の意味・わかりやすい解説

道管 (どうかん)
vessel

導管とも書く。植物の維管束のうち木部を構成する主要素。道管は縦に細長い形をし,細胞の両端にせん孔と呼ばれる穴があいていて,しかも上下の細胞が縦に並ぶので長い管状になる。そのため,木部のもう一つの通道要素である仮道管よりも水分を能率的に通すと考えられている。せん孔はその数や並び方にいろいろなものがあり,単せん孔,階紋せん孔,孔紋せん孔,網紋せん孔と呼ばれる。道管は他の通道組織と同様,前形成層または形成層から分化する。道管になる細胞は,細胞壁に二次壁ができて厚くなり,生きた中身つまり原形質を失った,管状の死んだ細胞である。二次壁には環紋,らせん紋,網紋,孔紋などの紋様があいていて,水が通過する。道管の中を水が通る機構については,蒸散,根の水分吸収,維管束の生きた細胞の働きなどが関係するが,詳しくはわかっていないところが多い。植物の発生のはじめには仮道管が分化し,あとで道管が分化するのが普通であり,細胞壁の紋様も初めにできたものから後でできたものの順に,環紋・らせん紋から網紋・孔紋に変わることが多い。道管は大部分のシダ植物には見られないが,ワラビ,デンジソウ,イワヒバ,トクサの類に散見される。裸子植物でも松柏類,イチョウ,ソテツ類には道管はないが,系統関係が不明なマオウ,グネツム,ベルベッチアにはあることが知られている。一方,被子植物のほとんどのものが道管をもつが,原始的被子植物と考えられるヤマグルマやシキミモドキなどは道管を欠く。系統的にみて,道管は仮道管の両端にせん孔が生じることによって,仮道管から派生し,しかも異なった系統群に並行的に出現したと考えられる。さらに両端がとがり,階紋せん孔をもった細長い道管から,単せん孔をもった太く短い道管への進化の傾向が認められる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「道管」の意味・わかりやすい解説

道管【どうかん】

導管とも記す。道管細胞が縦に連なった管で被子植物の木部の主要素。水分の通路となる。道管細胞は円柱状または多角柱状で,上下両端の壁に穴があき,側壁はリグニンを蓄積して肥厚し,環紋,らせん紋,網紋などの模様をもつ。原形質は木化に従って消失。裸子植物とシダ植物は一般にこれを欠き,代りに仮道管をもつ。→維管束

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「道管」の意味・わかりやすい解説

道管
どうかん
vessel; trachea

導管とも書く。被子植物の木部において,長い細胞が縦に並び,隔膜が消失して互いにつながり,長い管になったもの。この管は根から茎や葉への水分の通路となる。管壁にはそれぞれ特有の肥厚の模様があるが,その様式によって孔紋状道管,螺旋状道管,網状道管,環状道管,階紋状道管に分けられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の道管の言及

【維管束】より

… 維管束は木部と師部からなり,内皮によって囲まれる場合もあればそうでない場合もある。木部は道管仮道管・木部柔組織・木部繊維から,師部は師管・師部柔組織・師部繊維などからできている。木部は水分が,師部は養分が移動する通路であるが,その運搬機構については詳しくはわかっていない。…

【外分泌腺】より

…外分泌腺には,たとえば,唾液(だえき)腺・胃腺・汗腺・乳腺・涙腺・皮脂腺・毒腺・麝香(じやこう)腺・塩類腺・絹糸腺などさまざまな種類のものがある。 外分泌腺はいずれも,腺上皮が上皮からずれて結合組織内に陥入してつくられる腺体と,分泌物を導出するための道管とからなる。道管は一般に腺体近くでは細いが,被蓋(ひがい)上皮に近い部分では太い。…

【仮道管】より

…維管束植物の木部を構成する細胞の一つで,道管を欠く原始的なシダ植物と裸子植物では木部の主要素である。両端がとがった細長い紡錘形で,細胞壁には肥厚した二次壁が分化して,成熟すれば細胞質を失って管状の死細胞となる。…

【木材】より

…針葉樹材を構成する主体となる大部分の細胞は,樹種や生長状態によっても差があるが,長さ1~7mm程度,幅0.005~0.07mm程度の縦長の細胞で構成されている。この細胞は仮道管と呼ばれ,樹体を支える役割を果たすと同時に,生育時には水分や養分を流動させる役割をも果たしている。広葉樹の場合には,水分や養分を流動させるのは道管と呼ばれる縦につながった管状の細胞であり,樹体を支えるのは主として木部繊維と呼ばれる長さ0.5~2.5mm,幅0.01~0.06mm程度で仮道管よりは短いがやはり縦長の細胞によっている。…

※「道管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

ベートーベンの「第九」

「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...

ベートーベンの「第九」の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android