電路を開閉する装置。サーキットブレーカーcircuit breakerともいう。電路の「開」操作の際には、開放電極間に高電圧が発生し電流遮断を困難にする作用がある。遮断器はその作用に耐え、電路電流遮断を可能とした開閉装置である。したがって、遮断器は通常の負荷電流と、短絡や地絡などの故障中に流れる大きな故障電流の遮断もできるようにしているものである。一方、負荷電流程度の小さい電流しか遮断できないものを負荷開閉器(負荷スイッチ)とよび、遮断器と区別している。
電力系統は、発電機、変圧器、送電線などの多数の機器から構成されている。これらの一部を停止したいときは、停止したい発電機なり送電線なりの電流を遮断器により遮断し、電力系統から切り離すこととなる。また電力系統に短絡や地絡などの故障が発生すると、大きな故障電流が流れる。これを放置すると、故障した部分の被害が拡大されるばかりでなく、健全な部分も大電流による熱的、機械的なストレスによって損傷するおそれがある。さらに故障を放置しておくと電力系統の安定状態が破れ、大停電に発展するおそれも生ずる。以上のため、故障部分を遮断器によってできるだけ速やかに切り離す必要がある。切り離す時間が速ければ速いほど電力系統の安定性が増すので、遮断時間は逐次短縮されている。たとえば150キロ~500キロボルトに使用されている大型遮断器でも電流を遮断する時間は30ミリ~60ミリ秒程度になっている。
[岡村正巳・大浦好文]
電路の開閉は、一般に二つの導体の接触と乖離(かいり)によって行われる。ただし高電圧または大電流での開閉では、導体を乖離しても導体間にアークが発生し消滅しない。つまり電流を遮断できない。このため遮断器は、発生したアークに対して強力な冷却消イオン作用を働かせてアークの消滅を行わせる必要がある。遮断器は、アークを消滅させる方法によって次のように分類することができる。
(1)油遮断器 絶縁油中にある消弧室とよばれる絶縁筒の中にアークを発生させる。消弧室内はアーク熱により油が分解して水素ガスを発生するが、その高い熱電導率による強い冷却作用と、密閉室内の発生ガスにより加圧された新鮮な油をアークに吹き付けることによって消弧(アーク放電を消滅させること)させる。
(2)空気遮断器 15~30気圧の高圧空気を導体間に発生したアークに吹き付けて消弧させる。
(3)ガス遮断器 絶縁性能のよい六フッ化硫黄(いおう)ガスをアークに吹き付けて消弧させる。
(4)真空遮断器 10-8ミリ水銀柱程度の高真空容器中に乖離すべき2導体を置く。高真空はきわめて高い絶縁耐力をもっているため、この中で導体を乖離させれば消弧は速やかに行われる。
(5)磁気遮断器 発生したアークをアーク自身の電磁力により絶縁板中の細隙(さいげき)に送り込み、アークの長さを増大させることや、絶縁壁に押し付けることによる冷却効果でアーク電圧を高めて消弧させる。
一般にこれらの遮断器は高電圧電路に用いられるが、6キロボルト級の電路には、磁気遮断器、真空遮断器、油遮断器などが多く使用され、60キロボルト以上の電路には、ガス遮断器、空気遮断器、真空遮断器などが使用される。
電力系統には交流系統と直流系統とがあり、交流は半周期ごとに電流が0となるので、その瞬間に消弧の機会がある。しかし、直流は電流が0となることがないので、遮断しにくくなる。このため電圧3000ボルト以下の遮断器ではアーク電圧を高めることにより電流を減少させて遮断している。高電圧直流送電用の遮断器では、逆電流を重ね合わせて電流零点をつくり、交流遮断器を利用して遮断する方法(
)と、抵抗を逐次挿入して電流を絞っていく方法などが用いられている。故障電流遮断器としては、このほかにヒューズがある。これは過大電流の通過による発熱で自らが溶断して電流遮断するようになっている。遮断器に比較して構造はきわめて簡単であり安価でもあるが、電流遮断のつど、ヒューズの取り替えを要するなど欠点も多い。
[岡村正巳・大浦好文]
交流600ボルト、直流250ボルト以下の回路には、ノーヒューズブレーカーまたは配線用遮断器とよばれる一種の小型磁気遮断器が多く使用される( )。一般の遮断器は、故障電流の遮断はできても、故障電流が流れたことを検出する機能はもっていない。このため、故障発生をみつける継電器(リレーともいう)と組み合わせて使用される。それに対し、ノーヒューズブレーカーは、遮断器と継電器の機能をあわせもったもので、ブレーカー自体が故障電流を検知して遮断する。これと類似したものに、400ボルト以下の低圧回路に使用される漏電遮断器がある。
[岡村正巳・大浦好文]
遮断器は故障電流の遮断が可能なスイッチであるが、遮断できる能力には限界があり、設計時に決定される。その能力(定格遮断容量)は、三相回路の場合回路電圧(定格電圧)と遮断可能な短絡電流(定格遮断電流)とで次式のように表される(単相回路ではは不用)。
遮断器は、短絡故障がすでに発生している電路を閉操作する場合もある。このときは遮断器閉操作と同時に短絡電流が流れるため、遮断器はただちに電流遮断しなければならない。遮断器閉操作から電流遮断するまでの時間は、きわめて短時間(普通は1秒以内)であるため、まだ閉操作が継続中の場合が多い。すなわち閉操作と遮断操作が同時に行われるが、このときは遮断操作が優先され、投入操作を継続していても、遮断が安全に行われ、ふたたび投入されることのないように設計されている。この機能を引き外し自由機能とよび、遮断器が保有すべき重要な機能の一つとされている。
[岡村正巳・大浦好文]
電力回路に接地や短絡事故が生じたとき流れる過大電流は,機器や周囲の事物へ災害を及ぼす。遮断器はこのような場合に故障した個所を安全かつ速やかに切り離して危害を最小限に止めるために用いられる保護装置である。過大電流を遮断する装置は遮断器のほかにヒューズも用いられる。また遮断器は電気回路の常時電流を開閉するのに用いられる開閉器の作用を代行させることもできる。一般に過大電流の流れている回路では遮断しようとする部分に強力なアーク放電が発生するから,これを速やか,かつ安全に消滅させることが必要である。遮断器の主要構造は,連続電流を流す接触子対と,これを取り囲む消弧装置,接触子を操作する操作機構および絶縁・機械的支持部分などからなる。具備すべき主要性能として,(1)定格電流を連続通電しても各部分が所定の温度上昇限度以内であること,また故障電流のような大電流が短時間流れても電気的,機械的に支障のないこと(通電性能),(2)故障電流を所定の時間内に安全に開閉できること(遮断・投入性能),(3)対地および同相端子間が所定のインパルスおよび商用周波耐電圧値をもつこと(絶縁性能),(4)外部から与えられる指令に応じて可動接触子が所定の移動動作を行うこと(操作性能)がある。
アークに対して強力な冷却・消イオン作用を働かせ,開放された接触子間に十分な絶縁を保たせることが必要である。これを消弧といい,用いられる媒質により分類すると,(1)油中で開閉が行われ,アークによる油の分解ガスの主成分である水素の消弧力を利用する油遮断器,(2)アークに圧縮空気を吹き付けて消弧を行わせる空気遮断器,(3)開閉が六フッ化硫黄SF6のような不活性ガス中で行われるガス遮断器,(4)真空中にアークを拡散させて消弧する真空遮断器,(5)開閉を大気中で行う気中遮断器(これには磁界によりアークを引き延ばして消弧する磁気吹消遮断器や,低圧用のノーヒューズ遮断器が含まれる)となる。
執筆者:中西 邦雄
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