気体放電のもっとも進展したもので、高温度の陰極から熱電子が放出されることで維持される種類の放電をいう。大気中のアーク放電では放電路が弧状(アーク)になるため、弧光放電または単にアークともいわれる。気体の圧力が高く電流が数アンペア以上と大きい放電はほとんどアーク放電となる。気体の圧力が低く電流が数百ミリアンペアと比較的低い場合でも、陰極が高温になりやすい場合や、陰極に熱電子放射物質が塗布されている場合(熱電子を放出しやすい)はアーク放電となる。蛍光灯は後者の例である。アーク放電はグロー放電に比べて、陰極での電圧降下が少ない特徴をもつ。すなわち、グロー放電の陰極電圧降下は50ボルト以上、ときには数百ボルトに達するのに対し、アーク放電では20ボルト以下と小さい。また、アーク放電の陰極の温度は、十分な熱電子を供給するために一般に1000℃以上となり、3500℃に達することもある。高圧力気体中でのアーク放電では放電路のガスの温度が非常に高くなり、数万℃に達する場合もある。
[東 忠利 2024年6月18日]
大気中のアーク放電を応用した炭素アーク灯は、古くは照明灯、探照灯、映画映写灯として使われ、現在は主として耐候試験用光源として使われている。ナトリウム蒸気中のアーク放電を利用した低圧および高圧ナトリウムランプ、種々の金属ハロゲン化物中のアーク放電を利用したメタルハライドランプなどは道路、広場、グランド、体育館、工場などの照明光源として使われている。低圧水銀蒸気中の放電による紫外線を蛍光体により可視光に変換する蛍光ランプ(蛍光灯)は、照明用光源の中心として生活必需品となってきたが、高効率のLED(発光ダイオード)ランプに置き換えられつつある。殺菌灯は、低圧水銀蒸気からの紫外線をそのまま利用するものである。水銀の高蒸気圧中のアーク放電を利用したものが水銀ランプで、蒸気圧が10~30気圧程度と高く、アーク長が数ミリメートルの高圧水銀ランプは、半導体や電子回路の製造の際の露光用光源として使われている。水銀の蒸気圧を150気圧以上にし、アーク長を1~1.5ミリメートル程度にした超高圧水銀ランプは、映像プロジェクターの光源として使われている。高圧キセノンガス中のアーク放電を利用したキセノンランプは探照灯、映画映写灯として使われていた。また、アーク放電は加熱源としても使われ、金属の溶融、溶接、切断、加工などにも利用されている。
[東 忠利 2024年6月18日]
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電弧放電,または単にアーク,電弧ともいう。放電電流が数百mA以上の場合によく見られる形式の放電。アーク放電では,陰極部が強くしぼられている(図のa)。陰極部の電流密度はふつう103A/cm2以上で,107A/cm2という測定例もある。電極間の電位(図のb)を見ると,陰極に接する厚さ10⁻6~10⁻3cm程度の陰極降下部で電位が急激に変化する。電位の傾斜の緩やかな部分が陽光柱に対応する。陽極の直前でも電位の急変する場合が多い。ギャップの長さを減らすと陽光柱が短くなる。陽光柱を事実上失ってもアーク放電は成立する。このとき放電電圧は数V~30Vで,グローの場合よりはるかに低い。これがアーク放電の本質的な特徴である。一般に,放電の電流を増加させると,ついには安定なアークが生じ,さらに電流を増しても他の放電に変わらないというたいせつな性質がある。アーク放電は,かつてはアーク灯に使われており,現在では蛍光灯,アーク溶解炉,溶接などの電気加工,イオン源発生などで利用されている。
執筆者:杉沼 義隆
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弧光放電,電弧放電ともよばれている.コロナ放電やグロー放電のような持続放電の最終段階の放電形式で,放電形式としては安定なものである.いかなる放電でも,放電電流を大きくすればアークに移行する.その特徴は両極間が弧状の火炎でつながったように見え,電流密度が大きいこと,強い発光と発熱を伴い,電圧降下が低いことなどである.炭素またはタングステンを電極として使用すれば高温が得られる.金属の発光分光分析,高融点金属材料の融解にも用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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