正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」。平成13年法律第31号。DV(ドメスティック・バイオレンスdomestic violence)防止法ともよばれる。夫婦間(事実婚を含む)の暴力の防止と被害者保護のため、2001年(平成13)4月成立、同年10月一部施行された(成立当初の名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」)。
DV防止法は、「配偶者からの暴力」を、「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義し、「配偶者」には、事実婚の関係にある相手も含めている(第1条)。事実婚は、「婚姻意思」「共同生活」「届出」のうち、「届出」を欠くものと理解されている。したがって、「婚姻意思」も「届出」も欠く場合には、DV防止法の適用対象とならない。そこで、2013年の法改正で、「生活の本拠を共にする交際をする関係にある相手からの暴力及び当該暴力を受けた者」についても、DV防止法が準用されることになった(第28条の2)。
また、元配偶者からの暴力については、離婚前に身体に対する暴力またはこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を受けていて、現在振るわれている暴力が、離婚前に受けていた暴力等に引き続き受けているものである場合には対象となる。したがって、離婚前には暴力等を受けておらず、離婚後になって初めて元配偶者から暴力を受けた場合は、この法律の対象とはならない。元事実婚の関係にあった相手や元生活の本拠をともにしていた相手についても同様である。
DV防止法は、男性被害者も対象としているが、歴史的・国際的には、DVは「女性に対する暴力」ととらえられている。近代になって、公的領域(政治、職場等)と私的領域(家庭)は区別され、国家は「親密圏」である家庭には入らないものとされた。そのため、家庭内で夫が妻に暴力を振るうことは容認され、放任されていた。1960年代以降に欧米で展開された第二波フェミニズムは、公私二分論を批判し、DVを含めて、女性に対する暴力を社会問題化した。国連は、1993年に女性に対する暴力の撤廃に関する宣言を採択し、1995年の北京(ペキン)行動綱領では、各国政府に対して、女性に対する暴力廃絶のため、法律を制定することなどを求めた。
2001年の日本のDV防止法制定には、このような国連の動きが背景にあったが、市民運動も大きな力となった。DV防止法は、超党派の女性議員を中心とした議員立法として制定され、立法上の問題点を克服するために、2004年、2007年、2013年に改正されている。DV防止法では、DVとは、(1)殴る、蹴(け)るなどの身体的暴力、(2)心ない言動によって相手の心を傷つける精神的暴力、(3)嫌がっているのに性的行為を強要するなどの性的暴力を含むものとしているが、精神的暴力や性的暴力は相談や一時保護等の対象となるが、保護命令の対象とはされていない。
DV防止法は、被害者保護のために、保護命令制度を設けている(第10条~第22条)。保護命令は、被害者が、(1)配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合には配偶者からのさらなる身体に対する暴力により、または(2)配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力により、その生命または身体に重大な危害を受けるおそれ(殺人、傷害等の被害を受けるおそれ)が大きいときに、地方裁判所に申し立てることができる。被害者への接近禁止命令は、加害者に対して、被害者の住居(当該配偶者とともに生活の本拠としている住居を除く)その他の場所における被害者に対するつきまといや被害者の住居、勤務先等の通常所在する場所付近の徘徊(はいかい)を禁止する(有効期間は6か月)。被害者への電話等禁止命令は、被害者の申立てにより、接近禁止命令と同時にまたはその発令後に発令される。未成年の子供や親族等に対しても、被害者は接近禁止命令を申し立てることができる(15歳以上の子供や親族等はその同意が必要)。退去命令は、加害者に対して、被害者とともに生活の本拠としている住居から退去することおよび当該住居の付近を徘徊することを、2か月間禁止する。退去命令は、被害者の身辺整理や転居先確保等の準備作業のために設けられたとされている。接近禁止命令も退去命令も再度の申し出ができる。保護命令違反に対しては、懲役または100万円以下の罰金に処せられる。
DV防止法は、都道府県に対して、婦人相談所等の施設において、「配偶者暴力相談支援センター」としての機能を果たすことを義務づけている(第3条~第5条)。売春防止法が都道府県に設置を義務づけている婦人相談所が、センター機能をあわせもち、DV被害者保護の中心的役割を果たしている(市町村も、設置する適切な施設においてセンター機能を果たすことができる)。センターは、相談、指導、一時保護、自立のための援助、保護命令制度利用の援助、その他の援助を行う。
DV防止法は、何度かの改正によって充実してきているが、課題もある。2014年の内閣府の調査によると、約5人に1人が配偶者から暴力を受けたことがあると回答している。とくに、女性は約4人に1人が被害にあっており、約10人に1人は、何度も受けている。このように、DVの現状はなかなか改善されていない。そのため、人権教育や啓発などDVがおきないような取組みが必要である。また、DVがおきてしまった場合の取組みとして、DV防止法には、次のような課題がある。(1)被害者が保護命令を受けるためには、原則口頭弁論や審尋が行われなければならないが、被害者に危険があり緊急の対応が必要なときに一方当事者の申立てに基づいて迅速に発令される緊急保護命令が制度化されていないこと、(2)保護命令は、被害者保護を目的としているので、被害者は別途加害者に婚姻費用(生活費)や養育費を請求しなければならず、総合的な被害者救済ができるような仕組みがないこと、(3)加害者更生のための取組みが制度化されていないこと、などである。
[神尾真知子 2015年6月17日]
『ジェンダー法学会編『講座 ジェンダーと法 第3巻 暴力からの解放』(2012・日本加除出版)』▽『辻村みよ子著『概説 ジェンダーと法――人権論の視点から学ぶ』(2013・信山社出版)』▽『榊原富士子監修、打越さく良著『改訂 Q&A DV事件の実務――相談から保護命令・離婚事件まで』(2015・日本加除出版)』
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