酢酸クロム(読み)さくさんクロム(英語表記)chromium acetate

改訂新版 世界大百科事典 「酢酸クロム」の意味・わかりやすい解説

酢酸クロム (さくさんクロム)
chromium acetate

酸化数ⅡおよびⅢの化合物が知られている。

化学式Cr(CH3COO)2。無水和物および1水和物が知られており,いずれも赤色結晶冷水にはわずかに溶けるが,熱水にはよく溶ける。空気中では酸化されやすい。空気を断って酢酸クロム(Ⅲ)を還元するが,クロム(Ⅲ)塩水溶液に酢酸アルカリを加えて濃縮すると1水和物Cr(CH3COO)2・H2Oが得られる。これは四つのCH3COO⁻が二つのCrを橋架けしている[Cr2(CH3COO)4(H2O)2]のような複核錯体である。

化学式Cr(CH3COO)3。ふつうには,塩基性塩Cr3(CH3COO)78OH12のほうがよく知られている。水酸化クロム(Ⅲ)を酢酸と熱するか,クロム(Ⅲ)塩水溶液に酢酸ナトリウムを加えて熱すると条件によって各種の塩基性塩の結晶が得られる。いずれも緑色の結晶であるが,すべて三核錯体を含み,たとえば[Cr3O(CH3COO)6(H2O)3]⁺などであることが知られている。正塩は,つくったばかりの水酸化クロム(Ⅲ)を当量氷酢酸に溶かして6水和物Cr(CH3COO)3・6H2Oの青紫色結晶として得られる。これは[Cr(H2O)6](CH3COO)3のような錯塩である。水に溶け,水溶液は緑黄色を呈する。
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化学辞典 第2版 「酢酸クロム」の解説

酢酸クロム
サクサンクロム
chromium acetate

】酢酸クロム(Ⅱ):Cr(CH3COO)2(170.08).クロム(Ⅱ)塩水溶液に酢酸アルカリを加えて濃縮すると一水和物が得られる.一水和物は赤色の結晶.普通に酢酸クロムといえばこのものをさす.密度1.79 g cm-3.冷水に難溶だが,熱水に易溶.水溶液は空気中で酸化されて Cr3+ を生じ紫色を呈する.100 ℃(真空中)で無水物となる.無水物は赤褐色の粉末.ほかのクロム(Ⅱ)塩の製造,ガス分析の酸素吸収剤などに用いられる.[CAS 628-52-4:Cr(CH3COO)2・H2O]【】酢酸クロム(Ⅲ):Cr(CH3COO)3(229.13).水酸化クロム(Ⅲ)を酢酸で中和すると六水和物として得られる.青紫色の結晶.水溶液は緑黄色.ほかに数多くの塩基性塩が知られている.媒染剤,皮なめし,写真材料,繊維の光安定剤,オレフィン重合触媒酸化触媒などに用いられる.[CAS 1066-30-4:Cr(CH3COO)3・6H2O]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報