改訂新版 世界大百科事典 「鍍金時代」の意味・わかりやすい解説
鍍金時代 (めっきじだい)
マーク・トウェーンとウォーナーCharles D.Warnerとの共作小説《鍍金時代The Gilded Age》(1873)の題名に由来するこの名称は,1865年に終わった南北戦争から90年ごろまで,約4分の1世紀のアメリカ社会を指す。きんぴか時代,金箔(きんぱく)時代とも呼ぶ。この時代は,農業中心だったアメリカが工業化,商業化の傾向を強め,物質的には空前の繁栄を示し,人々が一攫千金の夢にかられて,ドル獲得に狂奔した時代であった。しかし,その反面,経済の急成長のひずみとして,政財界が癒着し,政治は極度に腐敗し,社会不正,道徳の堕落は社会のすべての階層にまで及んだ。アメリカ史上まれにみる繁栄と腐敗が背中合せに出現した時代である。そもそも,この名称は〈黄金時代the golden age〉のもじりであり,〈鍍金の黄金時代〉としたほうが実体に近い。
〈今日の物語〉という副題のついた小説《鍍金時代》は,そうした時代風潮をユーモラスに風刺,批判するとともに,アメリカの明るい未来を信じて疑うことのない,この時代の楽観主義を代表するセラーズ大佐という魅力的な人物を創造したことで,文学史上記憶されている。マーク・トウェーン一家に実際に起きた事件と身内の者をモデルにしたといわれる物語は,土地投機で一財産作ろうとするホーキンズ家の西部での夢とその夢の挫折,さらには西部に向かう途中一家が引き取ったみなし児の少女ローラの波乱に富んだ生活--若い娘として不幸な恋愛をし,最後は自分を裏切った男性を射殺するというメロドラマティックな事件を,首都ワシントンを舞台に描いている。文学作品としては,構成などの面でいくつか欠点があるが,南北戦争後のアメリカ社会を知る貴重な文献である。なお,マーク・トウェーン以外にも,この時代に批判的な文学者は多く,ヘンリー・B.アダムズは《デモクラシー》(1880)と題した匿名の小説で政界の腐敗を問題にしたし,ホイットマンの《民主主義の展望》(1871)も,この時代の風潮を鋭く批判している。
執筆者:渡辺 利雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報