文字どおりには人の身体の内部を指すが,拡張された意味では,家族成員など血のつながりのある親族,あるいは血縁はなくても比較的近い親類や姻戚など,一族の中に含められる者をいう。血縁を基盤とする親族的ネットワークのことである。古来日本人は,こうした親族組織を基礎単位にして社会生活を営んできた。たとえば,いちばん小さい身内である家の者は,自給自足する生活の拠点を構成していたし,また冠婚葬祭は,同じ地域の人が手伝ったものの,身内の者が中心になって行うものとされていた。婚儀では親類に披露するために宴を設けたのであり,葬儀ではもっぱら親類が集まって亡き人を送るのがしきたりであった。だが今日では,身内にかわって職場の上司や同僚,先輩や友人などが主客となって結婚披露宴を開いたり,葬儀にしても,告別式を会社葬や団体葬の形でとり行われたりするケースも増えてきた。身内という存在の社会的意義が薄れてきている証拠である。しかしその反面,日本の社会そのものが,身内を拡散したような形で疑似血縁的に構築されているのも事実である。というのも,日本で身内という言葉は,疑似血縁的な組織成員のことを指している場合が多いからである。いわゆる〈やくざ〉の世界において,配下となった子分たちのことを身内と称するのは,その典型である。そこでは,疑似親子関係ないし疑似兄弟関係で結ばれた者どうしが身内を構成している。そうした身内には,一定の組織秩序の下で家族同様の振舞いをすることが期待される。家長的な親分の庇護とそれにこたえる子分の忠誠とが求められるのである。このような傾向は,やくざに限らず一般に日本のいろいろな集団組織においても見られる。法社会学者の川島武宜が〈日本社会の家族的構成〉として指摘した点である。日本では身内になぞらえて仲間集団や職場が編成される傾向が顕著だといえよう。
執筆者:浜口 恵俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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