光線で物体を照らしたときに,物体の置かれた台の上にできる暗部を影shadow,物体それ自身の表面にできるものを陰shadeといい,これらを描写する絵画の技術を陰影法と呼ぶ。これは,空間内の物体を人間の目が認識した場合のビジョン(視覚)の再現に不可欠の要素である。光学と幾何学の分野には,その科学的な投影理論の図式(陰影図法)がある。ギリシア,ローマではすでに個体の量感を出すための陰影法があったが,ルネサンス(L.B.アルベルティ)にいたり,統一的空間内に一定の光源をもつ光線をあて,物体相互の関連と,空間内を満たす空気を表現する科学的な陰影法が発展した。今日でも西洋画では,モノクロームによる陰影のみの描写訓練(素描)が写実主義の基本となっている。
→明暗法
執筆者:若桑 みどり
中国では6世紀(南北朝)ごろから,仏画や肖像画の顔や肉身に濃いくまどりをつけて,立体感を表す技法があり,それは朝鮮や日本のような中国文化圏の国にも波及した。しかし,この技法は元来光源の意識のもとに発達したものではないから,ルネサンス以後の西洋画における陰影法と同一視することはできない。また,伝統的な東洋画においては,物象が地に落とし水に映す影の描かれることはなかった。それは遠近法の場合と同様に,一定の視点のもとに自然を合理的に観察しようとする意識が,東洋画になかったためである。近世における西洋文化の東漸にともない,陰影法も東洋に紹介されたが,中国画に対する影響はとりあげるほどのものではない。日本でも陰影法は遠近法にくらべるとその影響範囲がせまいが,それでも江戸時代後期の洋風画家の間で研究され,幕末の渡辺崋山の肖像画などに摂取された。
執筆者:成瀬 不二雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…しかしその中でもバロックの彫刻は,ベルニーニ作の《聖テレサの法悦》のように,聖性の暗示,劇的効果の達成のため,周囲の現実の光を十二分に活用している。 最後に日本と中国について付言すれば,仏画や水墨山水画の場合,対象を隈取って立体感を暗示する一種の陰影法があるものの,具体的光源は想定されておらず,むしろ西洋絵画におけるような光の表現がないことが日本・中国美術の一特色であろう。ただ,桃山から江戸初期の金碧障壁画の金地の広がりは,金箔という物質に翻訳された光そのものであり,日本美術において光の効果が意識的に追求された稀有(けう)な例といえるだろう。…
※「陰影法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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