雑用水道(読み)ざつようすいどう

改訂新版 世界大百科事典 「雑用水道」の意味・わかりやすい解説

雑用水道 (ざつようすいどう)

人の飲用を用途目的に含めない水道総称。都市内の水需要の用途には,消火用,清掃用,水洗便所用など,飲めるほどの水質を必要としない部分がある。これら低水質でもかまわない用途向けに飲用水道とは別に設ける水道を雑用水道という。現行の上水道は飲用に安全な水を都市内に一括して供給しているが,水源の確保と浄水水質の維持の両面でそれが困難な状況に立ち至ると,必要とする水質別に水需要を分割し,供給系統を,良質さを絶対に必要とする用途と,質はともかく水量を必要とする用途に分割して考えたほうが,水資源の利用と公共サービスの維持の面で合理的になってくる。上水道普及以前には湧水,浅(深)井戸水天水,河水などを用途によって人々は使い分けていた。旧城下町が設けていた雑用水路や1960年代から横浜,大阪,東京などに建設された工業用水道も雑用水道の一形態とみなすことができる。このような用途水質別給水システムとして,再開発地区や新設の大型建物に対しては用排水系統を初めから2~3系統に分ける形で計画されているが,既存の都市に対しては現行の上水道システムのほかに雑用水道を設ける案や,さらに良質の水を配管または容器入りの形で供給する案などさまざまな形態を採りうる。日本で都市規模の雑用水道としては数十地域での工業用水道しかないが,市街地再開発地区,住宅団地,大型ビル,特定工場(清掃工場,洗車場など)の規模では70年以降多数の事例がある。とくに個別ビル単位では,水需要の30~80%が水洗便所用水と冷却用水であること,新設時の二重配管は困難でないこと,上下水道への負荷を軽減しうること,循環再利用によって上下水道料金を軽減しうることなどの要因から,その建物の便所以外からの雑排水を処理したうえ中水道と称して水洗便所用に利用している例が多い。

 雑用水道の水源には上水道水源のほか,水質的に劣る河川下流部の流水や湖沼水を利用できるが,飲用を対象にしていないので市街地内雨水や下水処理水も利用しうる。雑用水道の供給対象としては,水洗便所用水,消火用水,工場内や街路や車両の洗浄用水など直接人体に触れない用途が現在では多いが,公園の池や小川への修景用水,芝や樹木への散水用水などへも団地規模では使用され始めている。用途目的をどこまで広げるかによって必要な水質レベルは当然異なる。

 雑用水道を設けることの利点は,良質水源からの水使用量を節約できること,良質水の不足時にも生活雑用水を確保しうること,したがって,より低確率の少雨年でも都市の機能を維持しうること,飲用しうるまでの水処理を必要としないこと,下水道への水量的負荷を軽減しうることなどであり,欠点は配管費用がかさむこと,誤接合や誤使用による誤飲防止の徹底を要すること,配管の腐食閉塞と機器の汚れや不快感を除く水処理を要し,下水を水源とする場合には水処理費用がかさむことなどにある。都市の用排水システムは広範かつ長期的視点から総合的に決定されなければならないが,水資源の逼迫(ひつぱく)する地域の都市では,水の使い分けを可能とする節水型都市への体質改善を徐々に余儀なくされると考えられる。
上水道
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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