中国、甘粛(かんしゅく)省南東部の地級市。2市轄区、清水(せいすい)県など4県と張家川(ちょうかせん)回族自治県を管轄する(2016年時点)。常住人口331万1700(2015)。この地域は流域としては渭河(いが)の上流になるが、東を六盤(りくばん)、隴山(ろうざん)両山脈によってくぎられて盆地(天水盆地)となり、関中(かんちゅう)を西からうかがう位置にあると同時に、陝西(せんせい)省から甘粛、四川(しせん)両省へ向かう際の入口にあたる。秦(しん)はここを基盤として東方へ進出し、天下を統一すると隴西(ろうせい)郡を置いた。漢以後も天水郡、秦州などが置かれ、西北地区の死命を制する地として重要視された。1913年天水県となり、中華人民共和国成立後、市街地の部分を市とした。
渭河の灌漑(かんがい)を利用して農業が発達し、小麦や綿花の生産が盛ん。また陝西、甘粛、四川3省への交通が交わる地点にあたり、伝統的に商業が発達している。現在は隴海(ろうかい)線が通るほか、軍民共用の天水空港がある。手工芸では彫漆が著名であり、電子部品、機械、毛織物などの工業もおこっている。文化財としては、南北朝時代から開削された麦積山石窟(ばくせきざんせっくつ)が有名で、2014年には「シルク・ロード:長安‐天山(てんざん)回廊の交易路網」の構成資産として、世界遺産の文化遺産に登録されている(世界文化遺産)。
[秋山元秀・編集部 2017年6月20日]
熊本県北部、玉名(たまな)郡にあった旧町名(天水町(まち))。現在は玉名市の南東端部を占める。旧天水町は1954年(昭和29)小天(おあま)、玉水(たまみず)の2村が合併して新たに天水村を設置、1960年町制施行。地名は両村の住民からの公募によった。2005年(平成17)玉名市に合併。旧町域は、開析の進んだ更新世(洪積世)前期火山岩の金峰(きんぽう)火山地からなる東半域と、その東半域の各斜面に発達した諸小河川の運んだ土砂の堆積(たいせき)地と、その地先に造成された干拓地とからなる西半域とに大別される。この対照は土地利用面でも、東半域のミカン、オレンジ園、西半域の水田、メロン、イチゴ畑となって現れている。とくにミカンは、1782年(天明2)小天(おあま)村に導入された温州ミカン(うんしゅうみかん)が品種改良を繰り返しながら、ここより県下各地に普及していったもので、「ミカンの里」としての呼称は単なる観光標語ではなく、その歴史に基づいたものである。貝塚・古墳、火の神祭りで知られる少彦名命神社(すくなひこなのみことじんじゃ)、対明(みん)貿易をしのばせる唐人川(とうじんがわ)筋、明国人林均吾(きんご)の墓、旧干拓堤防の石塘(いしども)、また小天温泉には夏目漱石(そうせき)の名作『草枕(くさまくら)』ゆかりの漱石館などがあり、古代から近代までの各時代の文化がうかがえる。
[山口守人]
雨水と等しい意味に用いられることがある。天水は,自然に賦存する水と人間が接触する最も原初的な水利形態である。島嶼部,例えば南西諸島では,多くの家で屋根の雨水を貯水槽に受けて,天水を飲用としている地域がある。それは飲用水として使える河川や池が少ないだけでなく,井戸水も水質・水量の両面からみて水事情が悪いからである。なお,わら屋根の場合は,雨水を集めにくく,木の幹を伝わる雨水を集めている所がある。
天水の用例については,水稲を主とする東洋の灌漑農業に対して,小麦を主とするヨーロッパの天水農業と言ったりする。また,灌漑農業地域でも,自然の降雨のみによって水稲を栽培している水田のことを天水田と呼んでいる。近年,土地改良事業が進展しているので,天水田はよほどの低湿地か山間傾斜地の水田でないとみられず,水稲の収量も多くはない。
執筆者:白井 義彦
中国,甘粛省南東部,渭河上流の一中心都市。人口115万(2000)。秦州の俗称でも知られる。古く西域と中原地方を結ぶ交通および中原の防衛要地として重要であった。今日も隴海(ろうかい)鉄道(連雲港~蘭州)沿線にあり,また蘭州,西安,四川地方への公路が走っている。古くからの農産物集散地であるが,解放後,付近での鉄鉱石,石炭の開発により,紡織などの軽工業のほかに鉄鋼・機械工業も発展してきた。南東約50kmの麦積山(麦積山石窟)には,多数の仏像をもつ大小約200の石窟がある。
執筆者:小野 菊雄
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