電気自動車(読み)でんきじどうしゃ(英語表記)electric automobile

精選版 日本国語大辞典 「電気自動車」の意味・読み・例文・類語

でんき‐じどうしゃ【電気自動車】

〘名〙 電動機原動機とする自動車蓄電池などの電力源を積載し、それによって電動機を回転させる。構造が簡単で容易に運転でき、有毒ガスを発生しない利点をもつ。
※現代大辞典(1922)〈木川・堀田・小堀・阪部〉科学用語「電気自動車は近来次第に発達して来たが、〈略〉動力用としては重力の大なる蓄電池が必要で」

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デジタル大辞泉 「電気自動車」の意味・読み・例文・類語

でんき‐じどうしゃ【電気自動車】

蓄電池などの電力源を積載し、モーターを原動機とする自動車。排ガスを出さない。EV(electric vehicle)。

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改訂新版 世界大百科事典 「電気自動車」の意味・わかりやすい解説

電気自動車 (でんきじどうしゃ)
electric automobile

原動機として電動機を利用した自動車。歴史はガソリン自動車よりも古く,1873年にイギリスのR.デビッドソンによって製作された四輪トラックが最初といわれる。ガソリン自動車の普及に伴い衰退したが,1960年代に入って,内燃機関がもたらす排気ガスや騒音などの公害問題がクローズアップされたこと,さらに73年の第1次オイルショックを契機として,さまざまなエネルギーの利用が可能な電気自動車が注目され,半導体技術や電子技術の急激な発達を背景として研究開発,試作が行われるようになった。

 電動機は内燃機関と比較して小型で構造も簡単であり,ピストンのような往復運動部分がないため回転も円滑で,静粛な運転が可能である。出力の調整は,ガソリン自動車がスロットルバルブの開閉によってシリンダーに送る混合気量を加減して行っているのに対し,電気自動車では蓄電池からの電力を制御して電動機に加えることによって行う。駆動系を除いた他の基本的な構造は一般の内燃機関自動車と同様な構成をとるものが多い。

 電気自動車は,動力源となる蓄電池によって走行性能が決定される。電気自動車用蓄電池に要求される性能は,(1)エネルギー密度(単位重量当りのエネルギー量)が高い,すなわち1充電当りの走行距離が長いこと,(2)出力密度(単位重量当りの出力)が高い,すなわち大きな電力を瞬時にとりだせ加速性能がよいこと,(3)充放電の繰返しサイクル寿命の長いこと,(4)保守取扱いが容易なこと,(5)信頼性,安全性が高く無公害であること,(6)低コストであることなどがあげられる。現在,電気自動車用として種々の蓄電池が研究開発されているが,主流を占めるのは鉛蓄電池である。鉛蓄電池は極板に比重の大きい鉛化合物を用いているので重量の点で不利な面が多く,そのため極板を多孔質にしたり,高分子材料と積層にするなどして軽量化をはかると同時に,出力効率の向上,容積効率の向上が進められている。このほか,極板に鉛化合物を用いず,銀,カドミウムニッケル,亜鉛などを組み合わせ,水酸化カリウムなどを電解液に用いるアルカリ電池や,その他の物質の電気的化学的な組合せからなる新型電池が研究開発されている。また,2種類以上の,特性の異なる電池を組み合わせて適宜使いわけ,発進加速性能および1充電当りの走行距離の向上をはかる試みもなされており,これはハイブリッド電池システムと呼ばれる。

 これまでに開発された電気自動車のうちの9割以上は直流電動機を使用しており,そのうち直流直巻電動機を採用するものが半数以上を占めている。次いで多く採用されているのが直流分巻電動機である。直流直巻電動機は速度制御が比較的容易で,始動トルクが大きいため発進性能や加速性能に優れた特性が得られるが,反面,上り坂などでは走行速度が低下する欠点がある。直流分巻電動機は,負荷が増加しても回転数の減少は少なく,上り坂などでも一定速度で走行でき,また下り坂などでは発電機として働かせて電力を蓄電池に戻す,いわゆる回生制御が容易である特徴をもつが,始動トルクは直巻電動機に比較して小さい。最近では交流電動機の採用実績も増加している。

 電気自動車は,制御システムによって電源電圧が制御され,走行速度が調整される。制御システムは,電気自動車の用途や要求性能および用いる電動機の種類,特性,性能に合わせ最適のシステムが採用される。直流電動機の場合には,抵抗制御方式,電圧切替制御方式,チョッパー制御方式の三つが,単独あるいは適宜組み合わされて用いられる。抵抗制御方式は,蓄電池と電動機の間に直列に数個の抵抗器を入れ,スイッチで切り替えて電圧を変化させ速度制御する方式,電圧切替方式は,数個の蓄電池の接続方法を並列や直列接続に切り替えて電源電圧を変化させる方式である。この両者は,ともに構成が簡単であるが速度制御が段階的になるため,構内車両やゴルフカートなどの比較的低速の車両に採用されている。チョッパー制御方式は半導体素子を用いて,電動機に加える電源の断続を速い周期で繰り返しながら時間比を変化させ,電圧や電力の平均値を変えて電動機の回転数を制御する方式である。この方式は保守性や信頼性が高く,なめらかな運転ができ,効率もよいため採用例が増えている。交流電動機の場合には,蓄電池の直流を周波数変換機(インバーター)を用いて交流にして,その周波数を変化させて速度制御を行う。このほか,単一種の電動機のみを用いるのでなく,特性の異なる電動機を併用するシステムや,内燃機関と組み合わせるなど他の原動機と併用するシステムも研究,実用化されており,これらはハイブリッド駆動システムと呼ばれる。

 現在電気自動車は,排気ガスや騒音をきらう構内車,早朝の牛乳配達車,運搬車,シティカーなどに内燃機関自動車と補完し合う形で使われている。
自動車
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電気自動車」の意味・わかりやすい解説

電気自動車
でんきじどうしゃ
electric vehicle

外部電源から車載のバッテリーに充電した電気を用い、電動モーターを動力源として走行する自動車。英語の頭文字を用いてEVと表記されることが多い。

 ガソリンや軽油などの化石燃料を使わないことから、地球温暖化の元凶とされる二酸化炭素(CO2)や、人体に有害な窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、ディーゼル排気微粒子(DEP)などの物質を排出しない自動車(ZEV(ゼブ):Zero Emission Vehicle。ゼロ・エミッション車ともいう)として普及が望まれている。また、枯渇が心配されている石油資源に頼らない自動車としても期待されている。

 電気自動車の販売はすでに始まっているが、現在のところ、一回の充電で連続走行が可能な距離を伸ばすことと、充電インフラ整備の拡充が課題となっている。

 そこで一回の充電での連続走行を伸ばす高性能バッテリーの開発が急がれているが、一方で、排ガスが出ないという利点から、都市部での短距離移動に電気自動車を限定的に用いるという考え方もある。インフラ整備の面では、駐車場に設置した太陽光発電装置との連携も始められている。

 電気自動車は化石燃料を使う従来の自動車に比べて部品点数が大幅に少なく、バッテリー、モーター、インバーター(制御系)など、3種の重要構成部品はすべて外部の専門会社から調達が可能である。また、構造が簡単であることから低いコストでの生産が可能であり、工業技術が未熟で、自動車生産の経験がない新興工業国にも新規参入の機会がある。また、ベンチャー企業からの新規参入も始まっているなど、電気自動車の普及によって自動車産業自体にも変化が訪れることが予想されている。

 歴史的には、電気自動車は19世紀後半にガソリン車が発明される以前から実用化されており、ガソリン車の普及が始まってからも、騒音が少なく取扱いが楽であることから市街地の移動手段として使われていたが、ガソリン車の台頭等により衰退したという経緯がある。

[伊東和彦]

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百科事典マイペディア 「電気自動車」の意味・わかりやすい解説

電気自動車【でんきじどうしゃ】

原動機として蓄電池を電源とする電動機を用いた自動車。1873年に英国で四輪のトラックが製作されたのが最初といわれる。ガソリンカーの登場によって衰退したが,1960年代以降,内燃機関の排気ガスによる公害,オイルショックなどを契機に見直され,高性能の電気自動車の開発が続けられている。 電動機は内燃機関と比べて構造が簡単で故障・振動・騒音が少なく,運転・整備が容易で,有害なガスを発生しないなどの利点がある。反面,走行性能を左右する蓄電池の重量が大きく,容量に制限があり,充電に手数を要するなどがネックとなっている。従来は主として鉛蓄電池を用いていたが,ニッケル‐水素電池を使った実験車では1回の充電の走行距離も200kmを超えるようになっている。さらに蓄電能力の高いリチウム・イオン電池も開発され,また水素と酸素の化学反応により電気をとりだす燃料電池も開発中と,電気自動車の性能向上の動きが活発化している。これは,米国カリフォルニア州の排気規制法が2003年から新車の10%を無排気ガス車とすると義務づけたことにもよっている。
→関連項目クリーンエネルギー自動車自動車低公害車

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電気自動車」の意味・わかりやすい解説

電気自動車
でんきじどうしゃ
electric automobile; electromobile

電動モータで走行する自動車。電源はおもに二次電池を使い,充電を繰り返して動かす。ほかに架線から電気を取り入れるトロリーバス,自己発電式のものがある。電池式の歴史は古く,1873年にはイギリスの R.ダビッドソンにより実用車がつくられた。日本では第2次世界大戦前にも少し使われていたが,実用にはならず,子供の遊戯用が中心であった。戦後はガソリン不足のため見直され,1949年には 3300台もあった。しかし1回の充電走行距離が約 60kmと短く,速度も時速 50~60kmと遅く,登坂能力や積載能力もガソリン車に劣るため,燃料事情の好転とともに衰微し,わずかに牛乳・新聞配達車,工場構内車として残るだけとなった。ところがガソリン,軽油,天然ガスなど,化石燃料から排出される二酸化炭素 CO2 が地球規模での公害問題となってきたため,排出ガスと騒音がなく,運転が容易で安全性の高い電気自動車の再開発が検討されるようになった。走行距離,走行性能,価格などの問題を改善するため,ガソリンエンジンやディーゼルエンジンと電動モータを組み合わせた,ハイブリッド車が実用化されている。

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世界大百科事典(旧版)内の電気自動車の言及

【自動車】より

…加えて馬車業界との利害の対立を生み,政治的問題へと発展,65年には自動車の交通規制を目的とした赤旗法が制定され,96年に同法が廃止されるまでイギリスにおける自動車の発達は止まり,その中心はフランス,ドイツ,アメリカなどに移っていった。 蒸気自動車とともに初期には電気自動車も盛んに用いられた。その歴史は必ずしも明確ではないが,1873年イギリスのR.デービッドソンによる四輪トラックが最初といわれており,80年代にはフランスで本格的な電気自動車が製作されている。…

※「電気自動車」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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