ディーゼル機関ともいう。主として軽油,または重油を燃料とする圧縮点火式・容積型の内燃機関。シリンダー内をピストンが往復する往復動型がもっぱらで,ロータリー型は実用化されていない。
ドイツのR.ディーゼルは,N.L.S.カルノーが1824年の論文で言及した理想サイクルの熱機関を実現しようと志し,空気のみを圧縮して高温にし,そこに燃料をふき込み,等温燃焼させる方法,すなわちディーゼルエンジンの原理について92年に特許を得た。しかし,その後96年に彼がアウクスブルク機械製作所とクルップ商会の協力の下に商品化した機関は等温燃焼ではなく,等圧燃焼の4サイクル機関であった。また,良好な燃焼を得るためには燃料を細かく霧化することが重要であるが,当時は燃料を高圧縮するポンプの精密加工技術がないため,彼は圧縮空気で燃料をふき込む方法(空気噴射式機関)をとらざるをえなかった。
このように当初のディーゼルエンジンは空気圧縮機付きで,かつ低速のため,馬力当りの重量,容積が大きく,定置機関,舶用機関として発達し,2サイクル式,複動式機関も開発され,大型・大出力化された。ディーゼルは各種の液体燃料,灯用ガス,微粉炭をも適用すべく実験を行い,また圧縮空気を用いずに燃料を数百気圧でシリンダー内に噴射する考えも特許にしているが,実用には至らなかった。この無気噴射機関は1910年にイギリスで実現し,20年ころより空気噴射式機関にとって代わっていった。また,この無気噴射方式への努力は,予燃焼室機関(1909)および渦流室機関(1926)などの副室式機関をも誕生させた。これらの副室式機関は直接噴射機関に比べて混合気形成が短時間で行えるため,高速回転に適し,機関の軽量化を可能にし,自動車駆動への道を開いた。ただし実際には,経済性を最重視する中・大型商用車では熱効率の高い直接噴射機関がもっぱら用いられ,また近年,乗用車にも一部で利用されるようになっている。なお,現在のディーゼルエンジンは低速機関ではほぼ定圧燃焼であるが,中・高速機関では定容と定圧の複合した燃焼となっている。
一端を閉じたシリンダーにピストンをはめ,シリンダー内にとり入れた空気をピストンにより断熱圧縮して高温にし,その中に燃料を噴射すると燃料は自発火して燃焼し,シリンダー内は高温・高圧のガスとなる。このガスが膨張するときの仕事をピストン・クランク機構により外部にとり出した後,燃焼ガスを排出させ,シリンダーに新しい空気を入れ,ガス交換を行う。この一連の過程(これをサイクルという)を繰り返すことにより,連続的に動力を得るのがディーゼルエンジンの原理である。
図1に示すように,4サイクル機関と2サイクル機関がある。ピストンがシリンダー内を往復する際の最上・最下位置を上死点,下死点,その距離およびピストンの運動を行程と呼ぶが,4サイクルディーゼルエンジンでは1サイクルが吸入,圧縮,膨張,排気の4行程(クランク軸2回転)からなる。2サイクルディーゼルエンジンでは圧縮,膨張の2行程(クランク軸1回転)のみからなり,ガス交換は膨張行程の終りから圧縮行程の始めにかけて行われる(これを掃気という)が,このために空気を圧縮する掃気ポンプが必要となる。
ディーゼルエンジンでは燃料の自発火を起こさせるため圧縮比は高く,通常14~23の間にとられ,圧縮終りでシリンダー内での空気は40気圧以上,600℃程度になる。燃料噴射ポンプで数百気圧に加圧された燃料は,クランク回転角で上死点より20度程度前に噴射弁の噴口から燃焼室内に噴射される。その後,燃焼終りまでの過程は4期に分けて考えることができる。すなわち,第1期(着火遅れ期間)では噴射された燃料の微小液滴は高温空気により加熱され蒸発し,その蒸気は空気中に拡散し混合気ができる。第2期(予混合燃焼期間,または無制御燃焼期間)では第1期で準備された混合気が自発火し,急速に燃焼するため圧力が急激に上昇する。第3期(制御燃焼期間)では燃焼室内が高温,高圧になっているため,噴射された燃料は直ちに着火し,噴射ノズルの先端から火炎が噴出する形で燃焼が進む。したがって,この期間では燃料の噴射率(単位時間当りの噴射量)により燃焼を制御することができる。第4期(後燃え期間)は噴射終りから燃焼終りまでの期間をいい,この期間が長引くほど燃焼ガスの膨張比が小さくなるので熱効率が低下する。第3,4期は燃料蒸気と酸素との拡散混合につれて燃焼が進むから拡散燃焼期間である。
前述の第2期で圧力の上昇が激しくなると,ディーゼルエンジン特有の打音(ディーゼルノック)が生じ,騒音の原因となるだけでなく,構造部材に過大な応力を与えるので好ましくない。これを避けるには,(1)第1期の着火遅れ期間を短くすることと,(2)着火遅れ期間中の噴射量を減らすことにより第2期で急激に燃える混合気の量を低減させればよい。(1)には,着火性のよい燃料の使用,圧縮比の増大,過給,噴射時期の変更などにより噴射時の圧縮温度,圧力を上昇させることや,燃料噴霧の当たる壁面の昇温などが有効であり,(2)には燃料噴射の初期で噴射量を絞ることが有効である(燃料の着火性の良否の尺度としては,通常,セタン価が用いられる)。
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと同様,シリンダーブロック,シリンダーヘッド,シリンダー,ピストン,ピストンリング,連接棒,クランク軸,フライホイール,軸受,弁機構などを有するが,ガソリンエンジンが燃料と空気の混合気を吸入圧縮し火花点火するのに対し,ディーゼルエンジンは空気のみを吸入圧縮し,燃料を噴射し,自発火させる点が根本的に異なる。したがって,ディーゼルエンジンでは気化器と点火装置の代りに燃料噴射ポンプと燃料噴射弁が必要となる。出力の調節はガソリンエンジンでは混合気の量を絞り弁により変えて行うのに対し,ディーゼルエンジンでは空気の吸入量は一定のままとし,燃料の噴射量を変えて行う。比較的単純な用途には単気筒機関も用いられるが,複数気筒を一列,またはV型に並べた列型やV型機関が多用されており,機関の冷却は空冷式より水冷式が多い。
燃焼室の形式は単一の燃焼室からなる単室式機関(直接噴射機関)と,主室と副室および連絡通路からなる副室式機関(間接噴射機関)があり,後者は小型高速機関(乗用車,小型トラック用など)に,前者はより大型の機関に用いられている。ディーゼルエンジンの燃焼には燃料の微粒化と空気との混合が重要であるが,単室式のうち大型低速機関では燃焼に時間的余裕があるので高圧噴射による微粒化のみに頼れる。しかし,高速機関ではこれだけでは不足であり,吸入空気にシリンダー中心軸回りの旋回流を与えたり,ピストンの上下運動に伴って生ずる半径流などを積極的に利用する。副室式としては渦流室式と予燃焼室式が現在実用されている。前者はシリンダーの上部の渦流室中にピストンの圧縮行程で強力な渦を作り,この中に燃料を噴射し,渦流室内でできるだけ十分な燃焼を図るものである。後者では圧縮行程で主室から噴口を通して予燃焼室に空気が押し込まれ,この中に燃料を噴射すると,その一部が燃焼し,圧力が主室より高くなるため未燃焼部分が主室に噴出し,空気とよく混合し,ここで主たる燃焼が行われる。これらの副室式機関では強いガス流動を利用するので,直接噴射式より絞り損失が大きく,また燃焼室面積が大きく,熱損失も大きいので,熱効率が劣り,冷間時の始動性も劣る。また,副室は高温になるため耐熱性が問題になる。一方,ガス流動により空気と燃料の混合が促進されるため直接噴射式よりも高速回転に適し,また運転中は副室が高温になるため着火遅れが短く,圧力上昇率,最高圧力も低い。窒素酸化物NOxの排出量も低く,また燃料の性質にも鈍感である。また空気利用率がよい(より多くの燃料が燃焼できる)ので同一行程容積の無過給の直接噴射機関より高出力が得られる。
燃料噴射ポンプとしてはカムにより駆動されるプランジャーで燃料を圧送するプランジャーポンプが用いられる。大型機関ではシリンダーごとにプランジャー1個の噴射ポンプを用いるが,それ以外では,通常,シリンダーの数だけのプランジャーを一列に配列した列型ポンプが用いられる。小型の副室式機関ではプランジャー1本で加圧した燃料を各シリンダーに分配する分配型ポンプも多用されている。
噴射量の調節は,通常,列型では外周に斜めの切欠きを設けたプランジャーをラックにより回転させることにより,また分配型ではプランジャー上を軸方向にスライドできるコントロールスリーブの位置を変えることによりプランジャーの有効行程を変えて行う方法がとられる。噴射ポンプにはエンジン回転数(または負荷)に応じて噴射時期を調節する進角装置や,エンジンの回転数を一定の値,またはある範囲内の任意の値に制御したり,過回転を防止したりする役目をもつ調速機が設けられている。燃料噴射弁はノズル,針弁,ノズルホルダー,ノズルスプリングなどからなっており,噴射ポンプのプランジャーで加圧され,噴射管を経て噴射弁に圧送された燃料は,スプリングの力に打ち勝って針弁を押し上げ,噴射される。とくに高圧噴射用には噴射ポンプと噴射弁が一体となったユニットインジェクターが用いられる。
このほか,ディーゼルエンジンには潤滑装置,冷却装置,始動装置,空気清浄器,吸気管,排気管,消音器,また必要に応じて過給機,中間冷却器,逆転装置,吸振装置など各種の付属装置が設けられている。
間欠燃焼式であり,自力で始動できないが,回転数,回転力を敏速に増減できるなどガソリンエンジンと共通の特徴をもつ。
ガソリンエンジンと比較した場合の長所としては次のような点がある。(1)熱効率が高い。これは圧縮比が高いことと絞り運転(出力調節のため絞り弁により吸入空気量を減らすこと)をしないことによる。自動車用ガソリンエンジンの最高熱効率は30%,ディーゼルエンジン(直接噴射)のそれは38%程度で,舶用ディーゼルエンジンでは50%を超すものもある。ディーゼルエンジンは熱機関のうちでもっとも熱効率が高い。(2)大型,大出力にできる。舶用機関ではシリンダー内径が1mを,出力が5万馬力を超すものもある。ガソリンエンジンではノッキングの発生がシリンダー径を制限するが,ディーゼルエンジンではこのような制限はなく,逆に小型にすると噴射燃料が燃焼室壁にすぐぶつかり燃焼がむずかしくなる。またディーゼルエンジンは燃焼および機関の強度上過給に適しているので,過給により高出力化できる。(3)基本構造としては電気系統が不要であり,使用燃料の揮発性も低く安全である。また構造ががんじょうで信頼性,耐久性に優れている。(4)2サイクル機関の場合,空気のみで掃気を行うので,掃気の吹抜け損失があっても,それが直接には燃料の損失や排ガス中における未燃炭化水素HCの増加を意味しない。(5)そのほか,一酸化炭素COおよびHCの排出量が少ない,燃料に対する柔軟性がある,断熱化に対する適合性があることなどもディーゼルエンジンの長所である。
一方,ガソリンエンジンと比較した場合の短所としては次のような点があげられる。(1)高速化が困難である。最高毎分回転数は,例えば乗用車用の場合,ガソリンエンジンでは6000,ディーゼルエンジンでは5000程度である。これはディーゼルエンジンは圧縮比が高く,ガス圧力が高いこと,またこの圧力に耐えるためピストンやクランク軸などもがんじょうに(したがって重く)作られているので,摩擦損失が大きく,その値が高速で急増することによっている。(2)無過給エンジンでは機関重量,または容積当りの出力が低い。その理由は,ディーゼルエンジンでは圧縮空気中に燃料を噴射して燃焼させるため,シリンダー内の空気をすべて燃焼に利用できず,過給機関は別としてシリンダー容積当りに得られる有効な仕事が少ないことと,上記短所の(1)で述べたようにエンジンが重くて低速であることによる。(3)振動,騒音,回転力変動が大きい。これはシリンダー内圧力と圧力上昇率が高いことによる。(4)このほかの短所として,高負荷時に黒煙が出る,また低温始動時に白煙や無負荷・低負荷運転時に刺激性の青煙が排出される傾向があることなどがあげられる。
ディーゼルエンジンは,熱効率が高いことから,主として経済性が重視される分野で活躍している。すなわち,舶用主機・補機,トラック,バス,乗用車,建設機械,農業機械,鉄道車両,産業車両,軍用車両(戦車など),発電などである。
ディーゼルエンジンのうちきびしく排出ガス規制の対象となっている自動車用について述べる。日本ではCO,HC,NOxのほか黒煙濃度が規制されている。ディーゼルエンジンは空気過剰の状態で燃焼が行われるため,ガソリンエンジンに比し,COおよびHCの排出濃度ははるかに少ないが,NOxは同程度排出されるので,その低減がもっとも重要課題となる。NOxは空気中の窒素と酸素が高温にさらされて反応して生成されるので,一般に良好な燃焼状態ほど多量に排出される。すなわちNOxの発生量は燃焼が高温なほど,またその持続時間が長いほど多く,また空気と燃料の混合比のある値で最大値をとる。NOxを低減しようとすると一般に燃焼が悪化し,出力,熱効率の低下,CO,HCの増加,低温始動性の悪化や黒煙濃度の増加などをきたすので,これらをいかにくい止めるかが重要になる。NOxの低減には燃料噴射時期の遅延や燃焼室の改良など,エンジン自体を改良するいわゆるエンジンモディフィケーションと,排気ガスの一部を吸気に戻す排気再循環が有効である。上述の燃焼悪化に対しては燃焼室,噴射系,吸・排気系の変更による燃焼の最適化が計られている。また変化するエンジンの回転数と負荷に応じて燃料噴射時期を精度よく,かつ敏速に制御し,また排気再循環も適時に,しかも必要最小限となるように制御することなども重要である。これらの要求に対し,今後電子制御がますます実用化されていく傾向にある。排気再循環を行うと排気中のすすが吸入空気を介して潤滑油に混入し,潤滑油の早期劣化とエンジン摺動部の摩耗が問題となる。また,ブローバイガス還元装置を装着した場合には,吸気マニホールド内壁に付着したオイルにすすが堆積し,吸気マニホールドを閉塞して性能を低下させる。前者に対してはオイルフィルターの改良や摺動材料の改良などが行われ,後者に対してはオイル分離装置を設けて対策が行われている。
HCの低減については,燃料噴射ノズル先端部の容積の低減や燃料の正常でない噴射の抑制などが対策手段となっている。黒煙は,主として燃料が酸素と出会わないまま高温にさらされ,熱分解により遊離した炭素粒子が排出されるものである。その低減には空気流動の強化と高噴射率化などにより空気と燃料の混合の促進が有効であるが,NOx低減対策との兼合いが重要となる。黒煙を主成分とする微粒子の除去には排気管の一部に補集装置を設ける方法も開発されつつあるが,補集された微粒子の処置方法に難点がある。
執筆者:染谷 常雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
燃料として、ガソリンよりも気化性が悪く、気化器では容易に気化できない石油燃料(灯油、軽油、重油など)を用いる往復動内燃機関。
[吉田正武]
1893年ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルが考案したが、高圧縮比の機関をつくる技術が確立されておらず、1897年にいたって製作された。この機関は側弁式で、燃料は、高圧空気でシリンダー内に噴射される空気噴射であった。高圧縮に耐えるために重い機関になり、燃料を噴射する際に圧縮空気を必要とするため用途は据付け用に限られていた。その後、弁配置が頭上弁式になってから熱効率も高くなり、大型オットーガス機関と同等の性能をもつようになった。1905年ごろにブランドセッターG. Brandsetterが開発した高圧空気を用いない燃料だけを噴射する無気噴射ポンプ方式はその後改良され、ロバート・ボッシュ社によって1930年ごろから量産された。このポンプを用いると空気圧縮機は不用になり、小型のディーゼルエンジンに多く用いられた。2行程方式をディーゼルエンジンに適用する場合、掃気は空気だけでよく、2行程ガス機関でおこる逆火の心配もないため有望であった。1920年ごろにはスイスのズルツァー社が発電用の3000キロワット程度の2行程ディーゼル機関をつくっていた。その後、発電用、大型船舶用の1000キロワット以上の大型機関が2行程ディーゼルエンジンになった。これらはすべて掃気用の空気ポンプをもち、クランク室圧縮の機関は大型2行程ディーゼルエンジンではほとんどない。
ディーゼルと同じ1893年ごろドイツのヒューゴ・ユンカースHugo Junkersは、一つのシリンダーの両端にある対向したピストンが同期して中央に向かって動いて圧縮し、中央で噴射された燃料が燃焼する2行程ディーゼルエンジン(対向ピストンエンジンといわれる)をつくった。吸気はシリンダーの一端で行われ、排気は他端で行われる。ガスがシリンダー内を一方向に流れるのでユニフローエンジンともいわれる。このエンジンは高い効率のため飛行機用も含めて長く広く使用された。
掃気用送風機は機械駆動の容積型またはターボ圧縮機で、過給はあまり行われなかった。その後、より高出力を得るためと高い熱効率を得るために、排気タービンで駆動するターボ過給機による過給が実用化され、現在では高圧過給による大型2行程ディーゼルエンジンは熱効率50%に近く、1シリンダーで6000キロワット程度になっている。燃料は大型ディーゼルエンジンでは重油であるが、中型、小型ディーゼルエンジンでは、回転数を高くするため、着火性のよい軽油を用いており、小型自動車用ディーゼルエンジンでは200キロワット程度の出力で最高回転数が毎分4500回転に達している。
[吉田正武]
基本構造は、シリンダー、シリンダーヘッド、ピストン、クランク軸、コネクティングロッド(コンロッドともいう)、カム軸、吸排気弁機構、はずみ車などからなる。燃料供給装置は、燃料供給ポンプ、燃料フィルター、燃料噴射ポンプ、燃料噴射弁からなる。多くは燃料噴射ポンプと燃料噴射弁の間を高圧用の燃料噴射管でつなぎ、ポンプのプランジャーをカムで駆動し、噴射弁は所定圧力になると、ばねに打ち勝って開く自動弁である。ポンプは、気筒数だけプランジャーのある列型と、少数のプランジャーから圧縮された燃料を分配器で各気筒の噴射弁に供給する分配型がある。また一部にはポンプと噴射弁が一体になりカムで駆動される一体型噴射装置があり、非常に高い噴射圧力を可能にしている。とくに自動車用では排気浄化と熱効率向上のために、20世紀末ごろから超高圧力での噴射を可能にし、噴射を高精度かつ自由に制御できるコンピュータ制御の噴射装置が主役になっている。この装置では高圧の燃料供給ポンプから全シリンダーに共通の燃料パイプ(コモンレールという)に燃料が送られ、各シリンダーの電子制御の噴射ノズルから、コンピュータで指示された燃料量が指示された時期とパターンで噴射される。燃料は燃焼室に噴射される。燃焼室がシリンダー、シリンダーヘッド、ピストン頂部に囲まれた単室式機関の場合、直接噴射式といわれる。また燃焼室が前記燃焼室のほかに連絡口でつながっているシリンダーヘッド内の燃焼室(副室という)からなる副室式では、燃料は副室に噴射される。これを間接噴射式という。排気清浄化と熱効率向上のために直接噴射が主になっている。
ガソリンエンジンと異なり、吸気絞り弁はなく、つねにシリンダー内に十分に空気を吸入し、容積比で20分の1程度に圧縮し、空気の温度も500~700℃になる。燃料はこの高温高圧空気中に噴射され気化し、自発点火するので、出力は燃料噴射量で調整する。潤滑装置は、ピストンとシリンダーの間、各部のベアリングなどに潤滑油を送るもので、油ポンプ、油フィルター、油溜(あぶらだめ)からなる。とくに大型ディーゼルエンジンではピストンの冷却にも潤滑油が用いられ、潤滑油冷却装置をもつ。冷却装置は、多くの水冷式の場合は水循環ポンプ、ラジエーター(空気冷却のものと水冷のものがある)、温度調整器からなり、大型船舶用ディーゼルエンジンでは海水で直接冷却する場合がある。始動時のシリンダーが低温で、噴射された燃料の気化が悪いときの点火源として高温の熱栓をもつ機関が小型機関に多い。大型の機関でとくに流動性の低い重油を用いる機関では燃料の予熱装置を用いる。
現在のディーゼルエンジンには4行程式と2行程式の両方があり、ピストンも単動式と複動式(ピストンの両側に燃焼室をもつ)がある。自動車用、耕うん機など農業用の小型機関では4行程の比較的高速の機関が多く、単動式に限られる。出力は数キロワットから200キロワット程度である。大型バス、トラック用でもほとんどが4行程の単動式である。船舶用の高速機関では4行程機関と2行程機関がともに使用され、2行程機関は掃気送風機をもち、両方とも過給機を取り付けている。大型の船舶用エンジンはほとんどが2行程機関で、高過給の複動式も多い。出力は1シリンダーで6000キロワット程度に達し、必要な馬力に達するまで気筒数を多くする。
ディーゼルエンジンと同じように空気だけを圧縮し、燃料を噴射する機関がある。これは、起動時に燃焼室の一部(焼き玉(だま)といわれる)を外から加熱、赤熱状態にし焼き玉の中に燃料を噴射し、高温の壁からの熱で気化燃焼させるもので、焼き玉機関とよばれる。
ディーゼルエンジンは、高い燃焼圧力に耐えられるように強くつくられるので重くなるが、ガソリンより低質の燃料が使用でき、熱効率が高く、燃料消費量が少ないので運転経費が安い。したがって、単位重量当りの出力がとくに要求される場合を除いて船やトラックなどの輸送分野で広く用いられている。また、熱効率が高いためにCO2排出率が小さいので、排気清浄化とCO2対策で乗用車用エンジンとして高圧過給、排気再循環、排気処理などを組み合わせた新しいディーゼルエンジンが、21世紀初めごろから広く使用され始めた。
[吉田正武]
『斉藤孟監修『自動車工学全書5 ディーゼルエンジン』(1980・山海堂)』▽『富塚清著『内燃機関の歴史』新改訂版(1984・三栄書房)』▽『鈴木孝著『ディーゼルエンジンと自動車――影と光 生い立ちと未来』(2008・三樹書房)』▽『John Robert DayEngines ; The Search for Power(1980, The Hamlyn Publishing Group Ltd.)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…しかし,ガソリンエンジンでは圧縮比が高くなるとノッキングを発生しやすくなるため,ほとんどのもので圧縮比は10以下にとどまっている。空気のみを圧縮するディーゼルエンジンではノッキングの心配がないので,圧縮比が20を超えるものもある。ロータリーエンジンの場合も,ハウジング内に閉じ込められたガスの最大容積と最小容積との比によって圧縮比を定義できる。…
…しかし,反面,変動する運転条件下で良好な掃気を行うことは困難であり,混合気の素通り損失のため燃料消費率の増大や排気中の未燃炭化水素の増加をきたす。
[特徴と用途]
内燃機関のうち,ガソリンエンジンとともに広く使用されているディーゼルエンジンと比較した場合,長所としては,(1)重量または容積当りの出力(比出力)が大きい(これはおもに燃焼の際の爆発圧力が低いため,軽量にできることと,高速回転できることによる),(2)運転が静粛で,回転力の変動も少ない(主として燃焼が比較的緩やかな火炎伝播によるため,圧力上昇率が低いことによる),(3)高速回転できる(おもに混合気を燃焼させるため,混合気形成に時間を必要としないことによる),(4)排気ガス対策の有効な手法がある(触媒コンバーターや排気再循環などが有効に使える),(5)製造コストが比較的低い(ディーゼルエンジンで必要な高圧燃料噴射ポンプが不要で,爆発圧力が低いため,構造が比較的簡単であることによる)などがあげられる。一方,短所は,ノッキングが発生するため,ディーゼルエンジンよりも圧縮比を低くおさえなければならないことと,出力調節が吸気の絞りによるため,絞りの損失が生ずることにより,熱効率が比較的低いことである。…
…また,かつてのスコップに代わる蒸気ショベル,蒸気トラクターや蒸気ローラーなども登場し,パナマ運河などの大土木工事の成功も,これらの機械の利用に負うところが大きい。内燃機関の利用は,20世紀に入って,アメリカでガソリンエンジンがキャタピラ式トラクターに導入されたのに始まるが,その後,ディーゼルエンジンがこれに代わり,掘削機,トラクターおよびグレーダーの動力源として重土工作業を飛躍的に発展させた。また,ゴムタイヤの発達により,ダンプトラック,ワゴンおよびモータースクレーパーなどが出現し,土砂の高速運搬が可能となった。…
…このほか,容積形内燃機関で円滑な円運動を実現する試みは数多くあるが,現在実用になっているのはF.ワンケルにより発明された火花点火式のロータリーエンジンのみである。 一方,R.ディーゼルはN.L.S.カルノーの理想サイクルの実現を目ざし,92年圧縮点火機関,すなわち今日のディーゼルエンジンに関する特許をとり,97年に単筒4サイクル水冷エンジンを実現した。燃焼室における燃料の霧化は当時の工作技術では圧縮空気に頼らねばならず,空気圧縮ポンプなどで重くなり,ディーゼルエンジンは定置機関や船用機関として発達した。…
※「ディーゼルエンジン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新