カドミウム(読み)かどみうむ(英語表記)cadmium

翻訳|cadmium

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カドミウム」の意味・わかりやすい解説

カドミウム
かどみうむ
cadmium

周期表第12族(亜鉛族元素)に属する元素。1817年ドイツのシュトロマイヤーによって発見された。当時の医薬品である炭酸亜鉛を熱して亜鉛華をつくっているとき、本来無色であるはずの亜鉛華が黄色を呈することから、不純物として含まれていたカドミウムを発見した。このため亜鉛華のギリシア語名kadmeiaからカドミウムと命名された。

[中原勝儼]

存在と製法

天然にはほとんど亜鉛に伴って産し、カドミウム単独の鉱物はきわめてまれである。主として亜鉛製錬の際の副産物として得られる。電解法による亜鉛製錬での沈殿物は、亜鉛のほかにかなりの量の銅を含んでいる。これを硫酸に溶かし、亜鉛を加えて銅を除き、ついで電解してカドミウムを取り出す。また蒸留法による亜鉛製錬での煙灰酸化焙焼(ばいしょう)し、硫酸に溶かし電解によってカドミウムを取り出す。精製には減圧蒸留する。

[中原勝儼]

性質

青みを帯びた銀白色、光沢のある金属。軟らかく、ナイフで容易に削れる。延性、展性に富み、加工しやすい。水銀とはアマルガムをつくりやすい(100グラムの水銀に18℃で5.17グラム溶ける)。空気中に放置すると表面が酸化されるが、これが保護膜となり内部は侵されない。空気中で強熱すれば赤色の炎と褐色の煙を出して燃えて酸化物CdOとなる。熱すればハロゲンともよく反応するが、水素、窒素炭素などとは直接反応しない。希硝酸には容易に、熱塩酸には徐々に溶ける。冷硫酸にはほとんど侵されないが、熱硫酸には溶ける。亜鉛と違ってアルカリ水溶液に溶けない。

[中原勝儼]

用途

仕上げ面がきれいで、耐食性がよいので、通信機材料その他のめっきに用いられる。ビスマスに添加して低融点合金、銀、ニッケル、銅などとともに軸受合金に、また、はんだや歯科用アマルガムに用いられる。硫化物はブラウン管の発光体として、また硫化物、ヒ化物などは種々の顔料として用いられる。

[中原勝儼]

注意点

カドミウム化合物やカドミウム蒸気は有毒であるから吸入しないようにしなければならない。しかも微量ずつでも体内に蓄積するので注意しなければならない。富山県神通(じんづう)川流域および群馬県安中(あんなか)市でのイタイイタイ病は、亜鉛製錬工場などから排出されたカドミウムの汚染によって生じたものとされている。

[中原勝儼]

『畑明郎著『イタイイタイ病――発生源対策22年のあゆみ』(1994・実教出版)』『総合食品安全事典編集委員会編『食品汚染性有害物事典』(1998・産業調査会、産調出版発売)』『浅見輝男著『データで示す 日本土壌の有害金属汚染』改訂増補版(2010・アグネ技術センター)』『桜井弘編『元素111の新知識――引いて重宝、読んでおもしろい』(講談社・ブルーバックス)』



カドミウム(データノート)
かどみうむでーたのーと

カドミウム
 元素記号  Cd
 原子番号  48
 原子量   112.41
 融点    320.9℃
 沸点    765℃
 比重    8.65
 結晶系   六方
 元素存在度 宇宙 2.12(第46位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻  0.2ppm(第62位)
       海水  (/mgL-1)0.00011

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カドミウム」の意味・わかりやすい解説

カドミウム
cadmium

元素記号 Cd ,原子番号 48,原子量 112.411。周期表 12族,亜鉛族元素の1つ。2価の陽イオンをつくる。 1817年 F.シュトローマイヤーにより発見された。天然にはカドミウム 114のほか7つの同位体が存在する。親銅元素であるが,単独に鉱床をつくることなく,硫化亜鉛鉱物に付随し,亜鉛精錬の副産物として得られる。単体は銀白色の青みがかった金属で,軟らかくナイフで容易に切れる。棒,板,線あるいは粒状で市販される。比重 8.65,融点 321℃。希硝酸,熱塩酸と反応して溶ける。冷たい硫酸にはほとんど侵されない。硫化水素あるいは硫化ナトリウムにより黄色の硫化物沈殿を生じる。易融合金の成分で,リヒテンベルグ合金,ニュートン合金,アーベル合金,ウッド合金などをつくる。カドミウムメッキ,カドミウム蒸気ランプの電極,光電セル,ニッケル-カドミウム蓄電池,黄,赤の顔料などに使われる。人体には有害で,経口的に摂取されると腎臓などに蓄積して骨の脱カルシウム化 (骨粗しょう症,骨軟化症) を起したり,肺気腫,肝障害を起すとされる。イタイイタイ病の原因と確認されたのち,全国各地で汚染地が発見され,有害物質としてきびしい排出基準が定められたが,いったん汚染された場所の回復は困難である。 1980年には,要観察地域として宮城県鉛川,二迫川流域など7ヵ所があり,健康調査が実施された。排水処理法としてイオン浮選法,水酸化物凝集沈殿法などがあり,排出基準は,大気で 1.0mg/Nm3 ,水質で 0.1 mg/l ,環境基準は水質で 0.01 mg/l

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