改訂新版 世界大百科事典 「電離圏電流」の意味・わかりやすい解説
電離圏電流 (でんりけんでんりゅう)
ionospheric electric current
電離圏には大気の分子・原子とともに電離によって生じたイオンや電子(自由電子)が共存しており,電離圏に電場などの起電力が発生すると,イオンや電子が運動するため電荷の流れすなわち電流が生じる。電離圏は電気伝導性をもっているわけである。地球の上層大気中に電気伝導領域が存在することは,1878年にスチュアートB.Stewartが地磁気日変化の原因として示唆しており,1902年にはA.E.ケネリーとO.ヘビサイドが電波の反射層として示唆している。電離圏を伝わる電波が屈折・反射するのは,電波によって電離圏中に電子の振動電流が生じるためである。電離圏中の電波の伝搬理論が発展し,その成果は無線通信の発達に寄与している。地表で観測される地球磁場の主要成分は地球流体核内の電流がつくる永久磁場であるが,これに重畳して1日程度から1秒程度の時間スケールで変動する変化磁場成分が観測される。変化磁場のかなりの部分は電離圏電流がつくる磁場であると考えられている。
電気伝導度
媒質における電流の流れやすさを表す量として,生じた電流密度(単位断面積を単位時間に流れる電荷量)と起電力となった電場(単位長当りの電位差)との比,すなわち電気伝導度を用いる。電離圏の電気伝導度は,電荷を担う電子の密度(正イオンの密度に等しい)に比例するほか,電場の振動周波数,大気分子・原子との衝突周波数および荷電粒子が地球磁場のまわりを旋回する周波数の大小関係にしたがって複雑に変化する。電離圏の電気伝導度は,地球磁場の効果のために電場が磁場に平行な場合と電場が磁場に垂直な場合とで値が異なる異方性をもっている。特に電場が磁場に垂直な場合の電離圏電流は,電場に平行な成分(ペデルセンPedersen電流)と同時に電場と磁場の両方に垂直な成分(ホールHall電流)をもつのが特徴的である。先に述べた地磁気変化程度の比較的ゆっくりとした現象に対する電離圏の電気伝導度は高度約90~130kmの範囲で比較的高くなっており,電気伝導層を形成している。
変化磁場の電流と起電力
変化磁場のうち規則的に変動するものには,1太陽日を周期とする静穏日変化(Sq)と太陰日(月の南中から南中までの1日)の半日を周期とする太陰日変化(L)がある。SqおよびLの原因として電離圏ダイナモ(発電機)の効果が考えられている。電離圏の大気が1太陽日(Sq)あるいは太陰半日(L)の周期で潮汐運動をするとき,発電機と類似の原理により,地球磁場を横切る運動によって誘導起電力が発生し,電離圏の電気伝導層に電流が生じるという考え方である。変化磁場のうち高緯度地域においてオーロラの出現と同時に激しく変動する極域地磁気あらしは,磁気圏における電磁気現象により発生した起電力の影響が磁力線に沿って極域電離圏に伝えられ,オーロラが発生すると同時に強い電離圏電流が生じることによるものと考えられている。
執筆者:松浦 延夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報