ヘビサイド(英語表記)Oliver Heaviside

改訂新版 世界大百科事典 「ヘビサイド」の意味・わかりやすい解説

ヘビサイド
Oliver Heaviside
生没年:1850-1925

イギリス電気工学者。電気回路に関する演算子法を考案し,また電離層存在を指摘したことで著名。彫刻師の子としてロンドンに生まれた。学校にはいかず,独学でJ.C.マクスウェル電磁気学を学んだ。1870年にGreat Northern Telegraph Co.に勤め,四重電信法を研究したが,耳がほとんど聞こえないためにまもなく退職せざるを得なかった。ヘビサイドの《電磁気学》には,電気回路中でエネルギーがどのように伝播(でんぱ)するかが述べられており,表皮効果の理論,電話ケーブルにインダクタンスを分布させることの利点エレクトレットの可能性などが扱われている。彼は演算子法を初めて電気回路の解法に応用し,今日のラプラス変換による解法の先駆けを行った。ヘビサイドの理論は,その後の通信工学にきわめて重要な役割を果たしたが,時代に先行していたがゆえに当時は十分に理解されなかった。ヘビサイドは1902年に電離層の可能性を,A.E.ケネリー独立に指摘した。この業績は,電離層のうちのケネリー=ヘビサイド層に彼の名をとどめている。電気素子の〈インダクタンス〉の呼称もヘビサイドの提唱に基づくものである。彼は電気単位の標準化にも熱心であった。ヘビサイドは電気工学の完成者の一人であり,M.ファラデー,マクスウェルとともに,電気学分野でイギリスが生んだ巨人であった。ヘビサイドは内気で,孤独であり生涯独身であった。

 C.ホイートストンは彼のおじであったが,ヘビサイドの研究には興味を示さなかった。ヘビサイドは,その貧しくつつましい生涯を養老院で終えた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘビサイド」の意味・わかりやすい解説

ヘビサイド
へびさいど
Oliver Heaviside
(1850―1925)

イギリスの物理学者、電気工学者。ロンドン生まれ。通信工学の分野では、1902年ごろ大気の上層に電磁波を反射するイオン層の存在を予想、この電離層は「ケネリ‐ヘビサイド層」とよばれる。二重通信の可能性の提案などの業績がある。物理学ではマクスウェル電磁波論の研究から運動物体の電気力学を展開し、高速粒子に対し古い質量保存則の不成立に注意するなどの貢献をした。応用数学の面でのベクトル解析への寄与、ヘビサイド演算子法も著名であり、電磁気学の「ヘビサイド単位系」の提案もある。

[藤村 淳]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘビサイド」の意味・わかりやすい解説

ヘビサイド
Heaviside, Oliver

[生]1850.5.18. ロンドン
[没]1925.2.3. トーケー
イギリスの電気工学者,物理学者。叔父の C.ホイートストンのすすめで独学。電信会社に勤めたが (1870) ,耳が悪くなって退社し (74) ,電気の理論的研究に専念した。独自の数学的表記法である演算子法を使って研究を行なったため,1892年の『電気学論文集』 Electrical Papersは自費出版を余儀なくされたが,そのなかで,電波伝搬,電信に関する先駆的な研究を展開するとともに,マクスウェルの電磁気学理論を首尾一貫した物理学理論へと整理した。 1902年,上層大気中に電磁波を反射する電離層が存在し,このため電波が発散せずに地球の曲面に沿って進行すると予想した。この直後に,同じことをアメリカの A.ケネリーも論じたので,長い間電離層はケネリー=ヘビサイド層と呼ばれていた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ヘビサイド」の意味・わかりやすい解説

ヘビサイド

英国の電気学者。マクスウェルの電磁理論を研究,電磁波伝搬についての数学的業績を残す。1902年A.E.ケネリーと独立に電離層(ケネリー・ヘビサイド層)の存在を予言。また微分方程式を解くヘビサイドの演算子法を創始した。
→関連項目アップルトン演算子

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のヘビサイドの言及

【演算子法】より

…関数に対する微分や積分の演算を記号的,あるいは代数的に行い,微分方程式を形式的に解く手法を演算子法という。19世紀の終りころに,イギリスの工学者O.ヘビサイドが電気工学におけるいろいろな現象を記述する常微分方程式や,電信方程式と呼ばれる偏微分方程式を解くのにこの手法で成功をおさめて以来,演算子法はまとまった一つの理論となった。しかし,彼の議論は数学の対象としうるほどの厳密さを備えていなかった。…

【電離圏】より

…しばしば慣例により電離層の語を電離圏と同義に用いることがある。 電離層の存在が示唆されたのは,1902年ケネリーA.E.KennellyとヘビサイドO.Heavisideによってである。1901年G.マルコーニが大西洋を隔てて無線電信用の電波を受信することに成功したことが契機となり,そのときの電波の伝わり方を説明するため,彼らは地球の上層大気中に電波を反射する電気伝導層,すなわち電離層が太陽の紫外線により生成されているという説を立てた。…

※「ヘビサイド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

グレーゾーン解消制度

個々の企業が新事業を始める場合に、なんらかの規制に該当するかどうかを事前に確認できる制度。2014年(平成26)施行の産業競争力強化法に基づき導入された。企業ごとに事業所管省庁へ申請し、関係省庁と調整...

グレーゾーン解消制度の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android