萩原朔太郎の第2詩集。1923年(大正12)刊。1917-23年の時期の作品55編を収録。自序で〈感覚でない,激情でない,興奮でない,ただ静かに霊魂の影をながれる雲の郷愁〉〈遠い遠い実在への涙ぐましいあこがれ〉を歌うといっているように,詩集の基調は憂鬱の情緒にあった。〈青猫を書いた頃は,私の生活のいちばん陰鬱な梅雨時だった〉と後年の文章〈青猫を書いた頃〉で回想しているが,この背景には19年見合結婚した上田稲子との生活の失敗もあった。詩の中で幻の女との墓場のにおいのする愛欲がしきりに歌われるのもそれとかかわりがあろう。不安な情感や欲情を盛るにふさわしい語り口のくふうがあって,口語自由詩の歴史に重要な位置を占める詩集である。
執筆者:大岡 信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)の詩集。1923年(大正12)新潮社刊。1917年から1922年の間に発表の詩から55編を選んで収め、ほかに詩論『自由詩のリズム』をつける。第一詩集『月に吠(ほ)える』の後半に現れた疲労感は、いっそう色濃くなって『青猫』一巻を覆っているが、これを表現するのに、口語の歯切れの悪さを逆用したりして、「韻律美によって構成される音楽的陶酔感」を招来せしめている。「おるがんをお弾きなさい 女のひとよ/あなたは黒い着物をきて/おるがんの前に坐(すわ)りなさい/あなたの指はおるがんを這(は)ふのです/かるく やさしく しめやかに 雪のふつてゐる音のやうに/おるがんをお弾きなさい 女のひとよ。」(「黒い風琴」)。芸術的価値においては『月に吠える』を遠く越えている。
[久保忠夫]
『『鑑賞日本現代文学12 萩原朔太郎』(1981・角川書店)』
…同じく《スバル》で活躍した高村光太郎は,口語を駆使して書かれた最初の重要な詩集《道程》(1914)を刊行,生命の爆発的燃焼と倫理的な意志にもとづくその理想主義的作風は,大正詩の新たな出発を鮮やかに告げた。一方,白秋門の萩原朔太郎は《月に吠える》(1917)や《青猫》(1923)によって近代人の孤独な自我の内景を表現し,〈“傷める生命”そのもののやるせない絶叫〉とみずからいう世界を言語化した。彼の親友室生犀星は《抒情小曲集》《愛の詩集》(ともに1918)を出して,同じく大きな影響を与えた。…
※「青猫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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