非特異性多発性小腸潰瘍症

内科学 第10版 の解説

非特異性多発性小腸潰瘍症(非特異性腸管潰瘍)

(1)非特異性多発性小腸潰瘍症(nonspecific mul­tiple ulcer of the small intestine)
概念
 非特異性多発性小腸潰瘍症はわが国で提唱された数少ない消化管疾患であり,その長期経過も報告された(崎村,1970).本症では,小腸を主座とした難治性潰瘍性病変がその本態であるところからCrohn病腸結核との鑑別が問題となる.本症の特徴は①幼若年に発症,②慢性持続性の潜・顕出血主徴とし,③病理学的には下部小腸に輪走ないし斜走する近接して多発する浅く,境界明瞭な潰瘍である(崎村,1970).④消化管病変は,小腸のみにとどまらず,十二指腸大腸にも特徴的病変を形成しうる(松井ら,1989).このため本症は全消化管疾患と考えられる.その成因は不明であるが,家族内発生例の存在から遺伝的素因(劣性遺伝)の関与が疑われている.
病理
 病変部位は回腸末端を除く中部から下部回腸が主座である.Crohn病にみられるような腸管の癒着や著しい変形は認められないが,偽憩室や狭窄形成はまれではない.肉眼的には腸管潰瘍は斜走ないし輪走し,多発する潰瘍の深さはさまざまである(崎村,1970;Matsumotoら,2004).潰瘍の境界は鋭利で,形は線状ないし菱形を呈する.潰瘍間の粘膜はほぼ正常であり,炎症性ポリープや敷石像などは伴わない.組織学的には潰瘍は浅く(Ul-Ⅰ~Ⅱ),粘膜下層の炎症細胞浸潤と線維化は軽度である.潰瘍縁粘膜の固有層には毛細血管の増生と拡張がみられ,線維芽細胞の増生が認められる.炎症は粘膜下層までに限局している.
臨床症状
 初発年齢は10~20歳である.貧血を主症状とし,浮腫や発育障害は蛋白喪失や貧血と相関する.徐々に腹痛とタール便も加わるが,発熱や下痢・圧痛などの炎症所見は伴わない.
検査成績
 検査所見として,持続する便潜血,低蛋白血症,低色素性貧血がみられ,CRPや赤沈値促進などの炎症所見は陰性か軽度陽性にすぎない.本症の小腸X線像の特徴は回盲弁より40~150 cm口側に近接して多発する辺縁硬化像,管腔狭小化,Kerckringひだの偏側性欠如である(図8-5-11,8-5-12).圧迫像や二重造影で輪状,斜走ないし菱形のニッシェが描出される.潰瘍が多発すれば偽憩室形成も生じる.
治療
 治療は,臨床症状(貧血や腹痛)に対する対症療法となる.本症の潰瘍は,栄養療法(完全静脈栄養あるいは経腸栄養)で容易に治癒して出血が停止する.外来では経腸栄養療法を用いる.小腸狭窄による腸閉塞が生じれば腸切除が必要となる.最近では内視鏡的拡張術も有効な場合がある.切除後再発が高率で,再切除率も高いので,切除範囲は狭くする.本症は徐々に進行する疾患であるが,長期的な視野から治療に当たれば,その予後は悪くない.[松井敏幸]
■文献
松井敏幸,飯田三雄,他:非特異性多発性小腸潰瘍症の長期経過.胃と腸,24: 1157-1169, 1989.
Matsumoto T, Iida M, et al: Non-specific multiple ulcers of the small intestine unrelated to non-steroidal anti-inflammatory drugs. J Clin Pathol, 57: 1145-1150, 2004.
崎村正弘:“非特異性多発性小腸潰瘍症”の臨床的研究-限局性腸炎との異同を中心として-.福岡医誌,61: 318-340, 1970.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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