靫猿(読み)うつぼざる

精選版 日本国語大辞典 「靫猿」の意味・読み・例文・類語

うつぼざる【靫猿】

[一] 狂言。各流。大名猿引に、靫にするために猿の皮を無心するが、猿引が猿と共に殺してくれというので、命を助けてやる。三大名物(さんだいみょうもの)の一つ。
[二] 歌舞伎所作事。常磐津。能狂言物。二世中村重助作詞、四世岸沢式佐作曲。本名題花舞台霞猿曳(はなぶたいかすみのさるひき)」。天保九年(一八三八)江戸市村座初演。同名の狂言の歌舞伎化。大名を女に、太郎冠者を奴に代える。新うつぼ。
[三] 長唄。明治二年(一八六九)、二世杵屋勝三郎作曲。素唄として演奏

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「靫猿」の意味・わかりやすい解説

靫猿
うつぼざる

日本の演劇,音楽の曲名。 (1) 狂言の曲名 各流にある。太郎冠者を供に狩りに出かけた大名が猿曳き (猿回し ) に出会い,猿の皮を靫にしたいと所望し,聞かなければ弓で射るとおどす。猿曳きはやむをえず,自分の手で一打ちにしようとするが,猿は猿曳きの杖を取って芸を始める。そんな猿を殺しかねている猿曳きを見て大名も猿を哀れみ,命を助ける。猿曳きはその礼として猿舞を見せ,大名から種々の褒美をもらい,大名も猿をまねて舞う。演者は4人で,大名がシテ,猿は子方で,初舞台を演じさせる慣例がある。 (2) 義太夫節 近松門左衛門作『松風村雨束帯鑑 (まつかぜむらさめそくたいかがみ) 』5段目の景事元禄7 (1694) 年3月竹本座初演。 (3) 常磐津節 (a) 『寿靫猿』。文化 12 (1815) 年7月江戸中村座,3世中村歌右衛門初演。4世岸沢式佐作曲。 (b) 『花舞台霞の猿曳』。「新うつぼ」ともいう。天保9 (1838) 年 11月江戸市村座,4世中村歌右衛門初演。2世中村重助作詞。狂言を歌舞伎舞踊化したものだが,大名を女に,太郎冠者を色奴に変え,背景を松羽目から鳴滝八幡の野辺にするなど,歌舞伎らしい趣向を盛り込んだ。5世岸沢式佐作曲。松本五郎市振付。 (4) 長唄 明治2 (1869) 年2世杵屋勝三郎作曲。やはり狂言を三味線音楽化したもので,花見描写などに特色がある。 (5) 一中節 『空穂猿』1世宇治紫文作曲といわれる。このほか地歌に城志賀作曲の,また琵琶に水藤錦穣作曲の『靫猿』がある。

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