頭部外傷と高次脳機能障害

六訂版 家庭医学大全科 の解説

頭部外傷と高次脳機能障害
(外傷)

 高次脳機能障害とは、医学的には大脳皮質連合野と呼ばれる、人間で高度に発達した脳の領域損傷により出現する症状です。脳の個々の大脳皮質の領域は、連合線維という連絡によって互いに密接に結合しています。

 たとえば、指をけがして血が出た時の「指の痛みとその部位からの赤色の液体流出」という情報は、大脳皮質の感覚野と視覚野に送られたあと連合野に伝えられ、これまでに蓄積された情報と比較されて、「指のけが」と判断され、言葉の反応や行動などが起こることになります。

 ただし、大脳皮質連合野の局在や機能の詳細についてはまだわかっていないことが多く、運動麻痺視覚障害などの「一次性大脳皮質」の損傷による後遺症に比べると、CTなどの画像検査から診断することは難しい場合が多いといえます。

 表5に示すような、高次脳機能障害の具体的な症状が認められる場合や、脳の広範な損傷がみられるびまん性軸索損傷(せいじくさくそんしょう)と診断されている場合、脳挫傷(のうざしょう)が広範囲あるいは複数の部位に認められる場合に、高次脳機能障害が問題になります。神経細胞脱落のため、頭部CTやMRIで脳萎縮(いしゅく)や脳室拡大の所見がみられることもあります。

 高次脳機能障害は、このように複雑な連合野の障害のため、ある部分の脳損傷により症状が出現していても、ほかの損傷を受けていない部位の神経細胞とシナプスが形成されるなどのメカニズムにより、回復が期待できる場合があります。ただし、回復の個人差は大きく、回復の程度や時期の予想は難しいといえます。一般的には、高齢者よりも若年者のほうが症状の改善の見込みがありますが、受傷数カ月から半年をへると、そこからの改善の可能性は低くなります。

 高次脳機能障害については、脳神経外科あるいはリハビリテーション科で、画像検査のほか神経心理学的検査(認知機能検査など)、患者さんの行動観察や家族申告の聴取によって、診断と指導が行われます。

 社会的には、「記憶障害、注意障害、遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい)、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活および社会生活への適応に困難を有する」場合に、高次脳機能障害に対する支援が必要と考えられています。


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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