日本大百科全書(ニッポニカ) 「飲水行動」の意味・わかりやすい解説
飲水行動
いんすいこうどう
脊椎(せきつい)動物が渇きを覚え、水を探し出し、口から体内に摂取する行動をいう。体内の水が欠乏するためにおこる一次的飲水と、食事に伴う飲水や習慣による飲水のように体内の水の欠乏とは直接には関係ない二次的飲水とに分けられる。一次的飲水は次のようにおこる。脊椎動物の体液の浸透圧は一定に保たれており、水を与えずに動物を飼育したり、実験的に高張食塩水を血液中に注射したりして、細胞外液の浸透圧を増加させると、視床下部にある浸透圧受容器がこれを感知し、飲水行動が引き起こされる。また、出血などにより体液量が減少した場合には、左心房壁などにある容積受容器あるいは頸(けい)動脈洞にある血圧受容器でこれを感知して、渇きを覚え、飲水行動が引き起こされる。このとき、体液量の減少は同時に、腎臓(じんぞう)の傍糸球体細胞からレニンの分泌を促す。このレニンが血清中でアンギオテンシンⅡangiotensin Ⅱを生成し、アンギオテンシンⅡは視床下部に働いて飲水行動を引き起こす。主として体表から水を摂取する両生類を除き、脊椎動物には基本的にこのような機構が備わっている。
水中にすむ魚類では、つねに口中に水があるので延髄の嚥下(えんげ)中枢レベルで飲水を制御しているのに対し、陸上動物では、飲水に関する中枢が視床下部を中心とした、神経情報とホルモンなどの液性情報の統合中枢へ移行し、単純な反射ではなく、より複雑な行動が行えるように進化している。また、二次的飲水である食事や習慣による飲水行動は、体内時計が関与する時刻学習によっておこり、予知的行動の側面をもつ。
[和田 勝]