改訂新版 世界大百科事典 「駄賃稼」の意味・わかりやすい解説
駄賃稼 (だちんかせぎ)
他人の荷物を輸送してその運び賃を稼ぐ駄賃稼は,室町後期から京都,大津などで知られるが,広く各地に広まるのは江戸時代に入って各地が商品流通にまきこまれていくことによってである。地域の経済の特質によって,当然地方的な遅速の差がある。五街道の宿場の継送り荷物の輸送のなかにも,御定駄賃や荷主と馬方の相談で決める相対駄賃の輸送もある。そして幕府,諸藩の設ける宿場のない脇街道や農民の販売する農産物のある地帯では,買集め商人の集める商品輸送のための駄賃稼が発生する。そのほか海の湊,舟運のある川の河岸(かし)には,1879年の《共武政表》を見ても多数の駄馬のあることが知られる。ただし海湊のうち浦賀,鳥羽,美保ヶ関,能登福浦などの風待港には駄馬がない。向背地に商品の産出地や消費地のあるとき,湊・河岸は駄賃稼の中心点の一つとなる。明治・大正期にかけて汽車が荷物輸送の中心となった後も,多くの停車場は荷馬車・駄馬による駄賃稼の拠点となっていた。
→中馬(ちゅうま)
執筆者:古島 敏雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報