日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペインクリニック」の意味・わかりやすい解説
ペインクリニック
ぺいんくりにっく
pain clinic
痛みの診断と治療を目的とした診療施設をさし、麻酔科の専門分野の一つである。診断の対象とされる痛みは、もとの病気を治せばすぐに治まるような痛みだけではなく、慢性痛あるいは難治疼痛(とうつう)が中心である。麻酔科医、整形外科医、精神科医、脳外科医といった各科の医師や薬剤師、看護師、理学作業療法士らが集まって、患者の痛みを総合的に診断、治療しているような施設を、とくにペインセンター(ペインクリニックよりも規模が大きく、麻酔科という範疇(はんちゅう)を越えた独立した総合的な組織)とよぶ。ただし、ペインセンターの運営はときとして非常にむずかしく、日本のペインクリニックでは普通、麻酔科医が薬物療法と神経ブロックをおもな治療手段として痛みの治療を行っている。
ペインクリニックの治療対象となるものは、三叉(さんさ)神経痛、帯状疱疹(ほうしん)後神経痛などをはじめとする神経痛、顔面痛、頭痛、筋膜疾患、頸部(けいぶ)・背部・腰部における筋肉のこりを伴う痛み、五十肩、むち打ち症、悪性腫瘍(しゅよう)による痛み(癌(がん)末期の内臓痛、胸痛、癌転移による痛み)、四肢の血行障害などである。また、痛みを伴うものではないが、顔面けいれん、顔面神経麻痺(まひ)、突然性難聴などもよく対象となる。
ペインクリニックで用いられる神経ブロックは、大きく分けると治療的ブロック、診断的ブロックの二つとなる。また、ブロックを行う神経によって、体神経ブロックと交感神経ブロックとに分けられる。診断的ブロックというのは、たとえば、下肢の血行障害があり、治療として外科的に交感神経切除術を行うことが有効かどうかを決めなければならないとき、まず、交感神経ブロックを行い、その効果の有無によって手術の方針をたてるような場合をいう。
[山村秀夫・山田芳嗣]