摂食障害(読み)せっしょくしょうがい(英語表記)eating disorder

翻訳|eating disorder

知恵蔵の解説

摂食障害

拒食症(anorexia nervosa)と過食症(bulimia nervosa)があり、思春期・青年期の女性に多い。拒食症者は食事の量を非常に制限し、かなりやせた状態になっても体重が増えることを強く恐れる。栄養失調から生理が止まり、低体温、低血圧などの身体症状が現れても本人の危機意識は乏しい。むしろ、やせ細った体形によって自分自身の価値を支えているところがある。体力は衰えるが、学業、スポーツなどに打ち込み、活動的であろうとする。過食症は、自然な空腹感よりも心理的な飢餓感が背景にあり、食べ始めると止まらない。その一方で体重の増加を防ぐため、無理な嘔吐や下剤の乱用が見られる。過食を恥ずかしく思い、抑うつ的で自己嫌悪感が強い。拒食と過食の両方の障害を繰り返したり、拒食から過食へ移行することも少なくない。治療には家族と専門家との連携が重要。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

摂食障害

極端に食事を制限したり、過食し吐くことを繰り返したりするなど食行動の異常を特徴とする精神疾患。自己評価の低さや対人関係の問題などが背景にあるとされ、患者の9割以上が女性といわれる。厚生労働省の2011年の調査では、摂食障害で医療機関を受診した患者は推計で1万2千人。未受診の人も多く、「氷山一角」(同省)とみられる。患者すべてではないが、自傷行為など衝動的な行動を伴うことがあり、万引きもその一つと専門家はみる。心の健康について解説する厚労省ウェブサイトでも問題行動の例として紹介されている。患者の不安などが食行動に表れる病気なので、治療には心理面のサポートが欠かせない。

(2015-02-26 朝日新聞 朝刊 1社会)

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デジタル大辞泉の解説

せっしょく‐しょうがい〔‐シヤウガイ〕【摂食障害】

食物を取る量と回数偏りが生じ、拒食症または過食症となる障害。二つの症状が交互に現れることもある。家族・学校・職場などにおける人間関係のストレスから発症することが多い。青年期の女性に多く、また先進国に多い。治療は心理療法行動療法が中心であり、補助的な薬物療法にも効果が認められている。

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百科事典マイペディアの解説

摂食障害【せっしょくしょうがい】

拒食(不食)症,過食症,異食症の3つの総称。異食とは通常の食品としては異常なもの,たとえば生米や粘土,線香,チョークなどを好んで食べたり,酢を飲用したりする状態をいう。異食は,患者数としては極めて少ないが,拒食および過食は神経性食欲不振症において,しばしば見られる。 拒食症とは,特に身体的な障害がないにもかかわらず,まったく食事を受け付けなくなり,骨と皮だけの状態になってしまうもの。若い女性に多いが,一部には男性の患者もいる。本人が〈太りたくない〉という強い意思をもっているため,痩せている状態でも,非常に元気で,自分を痩せているとは思わない。食べたものを排泄するために,下剤や浣腸を使ったり,自分で喉(のど)に手を入れて吐くなどの行動をとるようになり,極度の栄養失調になる場合もある。なお,その一部は,過食症に移行する。 過食症には,それまで拒食していた人が,急に大量の食べ物を摂るようになるケースと,それとは関係なく,無性に食べたくてめちゃくちゃに過食するケースがある。いずれも自分ではコントロールがきかず,欲求を抑えきれずに過食し,それを吐き,また食べるという,食べては吐くを繰り返す患者もいる。 摂食障害の原因はさまざまだが,過激なダイエットや,肉親の死などの精神的ショック,家庭内の問題や母子関係・対人関係・生活環境の変化などによる過度のストレス等があげられる。飽食の時代にあって,特に若い女性の〈痩せたい〉願望からくる過度のダイエットによって摂食障害を起こすケースが急増している。また,ストレスから発症するケースも多く,英国の故ダイアナ妃が自ら摂食障害であったことを告白して話題になった。 真面目で神経質,完璧主義,傷つきやすい,人に気をつかう等の性格の人がなりやすいとされる。 摂食障害による過食や嘔吐(おうと)の繰り返しによる合併症として,虫歯,歯のエナメル質の侵食,唾液腺炎,低カリウム血症などを併発することもあり,慢性の栄養失調の結果,冷え性,低血圧,貧血,骨粗鬆症無月経,無排卵等を起こすこともある。 治療は,身体面と心理面の両方からの治療が必要である。身体面での治療法としては,薬物療法および栄養指導が行われる。薬物療法は極度の栄養失調に陥っている場合に補助的に行うもので,注射などでアミノ酸製剤や栄養剤などを補給し,その後,抗不安薬や抗鬱(うつ)剤などを利用する。心理面の治療には,家族療法,行動療法,集団療法,認知行動療法等が行われる。摂食障害では,家族との関係に問題を抱えている場合も多く,治療にあたっては,家族の協力が不可欠である。家族療法は,そうした家族の関係を重視した治療法であり,家族に対するカウンセリングなども重要なポイントとなっている。
→関連項目アダルト・チルドレン

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家庭医学館の解説

せっしょくしょうがい【摂食障害 Eating Disorder】

[どんな病気か]
 一般に拒食症(きょしょくしょう)といわれている神経性食欲不振症(しんけいせいしょくよくふしんしょう)、過食症(かしょくしょう)など、身体的な病気がないのに食事がとれなかったり、また逆に食欲のコントロールができずに食べすぎてしまう病気を総称して、摂食障害といいます。
 なにかショックなことがあって、食欲が一時的に落ちたり、逆にやけ食いをしてしまったりするのは多くの人にみられる現象ですが、摂食障害という場合は、単なる一過性の反応ではなく、かなり長い間、食事に関する問題が続き、しかも、体型や体重に対する強いこだわりがあるのが特徴です。
■神経性食欲不振症(拒食症)
 神経性食欲不振症では、節食や激しい運動などにより、適正な体重の15%以上のやせがみられ、月経も止まります。それだけやせても、もっとやせたいと思ったり、少しでも太ると自分は醜(みにく)いと思いつめるなど、体重しだいで自己評価が大きく左右されるので、毎日の生活が、体重の心配を中心に回るようになってしまいます。
 本人は十分食べているつもりでも、食事の内容が野菜などに偏(かたよ)っており、必要な栄養を満たしていないことがよくあります。食事量が少ないと胃腸の動きが悪く、便秘(べんぴ)になりやすいため、つねに腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)があり、ますます食事量が減ってしまいます。
 摂取する栄養が少ないと、貧血(ひんけつ)(酸素をからだの隅々に運ぶ赤血球(せっけっきゅう)が少ない状態となり疲れやすい)、白血球(はっけっきゅう)減少(感染しやすくなる)、低血圧、低体温などさまざまな弊害が出ます。手のひらが黄色くなったり、体毛が増えたり、頭髪が抜けることもあります。低体重が続くと、女性ホルモンがでにくくなり、若い女性でも閉経後の女性と同じようなホルモン環境になるので骨粗鬆症(こつそしょうしょう)にもなりやすいといわれています。
■過食症
 過食症では、短時間の間に大量の食物を食べてしまいますが、これが単なるやけ食いとはちがうのは、背後に、拒食症と同じように、「やせていないと自分は醜い」という思い込みがあるため、過食の後、うつ状態におちいったり、体重を元に戻すために自分で嘔吐(おうと)したり、下剤(げざい)を必要以上に使ったりする点です。症状が重い時期には、毎日1日中、過食、嘔吐をくり返すといった状態になります。
 拒食症による栄養失調の状態が長く続いた後に、過食症になることもありますし、そうでないこともあります。過食だけでなく、アルコールを飲みすぎたり、その他の薬物乱用も同時にみられることもあります。
 過食症の人の体重は、嘔吐や下剤乱用の程度によりさまざまですが、かなり低体重になった場合は、拒食症と同様の合併症への注意が必要です。
 嘔吐や、下剤を大量に使っていつも下痢(げり)をおこしている場合は、胃液・腸液とともにカリウムが大量に失われ、低カリウム血症(「カリウムと代謝異常」の低カリウム血症)になります。心臓はカリウムの値に敏感で、不整脈などをおこしやすいので、注意が必要です。慢性的に嘔吐していると、歯のエナメル質が失われたり、唾液腺炎(だえきせんえん)になることもよくあります。
[治療]
 治療としては、精神面の治療とともに、からだの治療を行ないます。外来では、精神療法、家族療法などとともに、さまざまな検査をしたり、栄養士による栄養指導を行ないます。必要に応じて、婦人科や内科などとも連携をとりながら治療します。
 体重低下が著しい場合や、抑うつ感や希死念慮(きしねんりょ)(自殺願望)が強い場合は、入院治療をすることもあります。
 摂食障害は、食事に絡む症状なので、他の家族に対してもストレスをおこしやすい疾患です。それまでの家族関係が原因で発症することも多いのですが、毎食の食事のしかたで争っていては、家族関係の改善には時間がかかってしまいます。家庭内のストレスが非常に大きい場合は、やはり専門家に相談し、本人の課題と家族の課題をはっきりさせ、少しずつ解決していくほうがよいでしょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

食の医学館の解説

せっしょくしょうがい【摂食障害】

《どんな病気か?》


〈思春期の心理的葛藤が摂食障害というかたちで現れる〉
 摂食障害(せっしょくしょうがい)は、心理的な原因によって食行動に異常をきたす病態の総称で、ものが食べられなくなる「拒食症(きょしょくしょう)」(神経性食欲不振症)と、衝動的にムチャ食いする「過食症(かしょくしょう)」(神経性過食症)に大きくわかれます。
 拒食症の子どもは、ふとることに対して強い恐怖心があり、生命に危険なほどやせていても、「またふとるかもしれない」などという思い込みから食べることができません。
 過食症の子どもは、通常の食事量をはるかに超えて食べ続け、自分ではそれを制御できません。そして体重が増加しないよう、吐(は)いたり下剤を飲むなどの不適切な代償行為をくり返します。
 ともに十代の女性に多くみられ、思春期のさまざまな心理的葛藤(しんりてきかっとう)が摂食障害というかたちで現れると考えられています。
 摂食障害の子どもに、ただ食べることを強制しても問題は解決しません。心理的な原因になっている心配ごとや悩みを取り除くとともに、食事に対する恐怖心を、少しずつやわらげていくことが治療の課題になります。

《関連する食品》


 栄養面で問題が大きいのは拒食症の場合です。拒食症の子どもは、肉類は口にしないがサラダなら食べるというように、食べものに対して強いこだわりをもっており、やせるのに都合のいい食品をとろうとします。
〈拒食症はビタミンA、Eやカルシウム不足に注意を〉
○栄養成分としての働きから
 とくに成長期の場合、本来なら、たんぱく質をはじめ、各種ビタミン、ミネラルの補給が必要なのですが、まずは本人が食べたいもの、食べられるもので、可能なかぎり栄養を補給させます。
 注意したいのは、カルシウムや、体に脂肪分といっしょでないと吸収されにくいビタミンA、Eの不足です。カルシウムはコマツナ、ダイコンの葉、とうふ、ビタミンA(カロテン、レチノール)はレバーやウナギ、コマツナ、ニンジン、またビタミンEはウナギ、カボチャ、アボカドなどに含まれています。
〈過食症はカリウム補給がポイント〉
 過食症で下剤をひんぱんに使用している場合には、下痢(げり)により大量のカリウムが失われ、不整脈を起こしやすくなります。トマトやアボカド、バナナなどで補給してください。
 うつ状態をともなう場合、ビタミンB1(強化米、カレイ、ダイズ)や、ナイアシン(カツオ、サバ、鶏ささみ)は、精神安定に効果があります。

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大辞林 第三版の解説

せっしょくしょうがい【摂食障害】

食行動の異常の総称。神経性食欲不振症、拒食・過食・異食など。食行動異常。
口腔咽頭の悪性腫瘍の術後、脳血管障害、筋疾患など様々な原因で食事がうまくできなくなる状態。口に入れた食物が胃に到達するまでの過程で問題が生じる嚥下障害と同時に起こる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

摂食障害
せっしょくしょうがい
eating disorder

心理的な要因から正常に食べることができなくなる病気。厚生労働省の指定する難病の一つで、正式には中枢性摂食異常症という。体重増加を恐れて食べない「拒食症」と、ストレスから食べることをやめられなくなる「過食症」が二大症状で、交互に症状が現れることもある。
 拒食症は標準体重の80%以下のやせ状態が3か月以上続き、低体温や冷えを始めさまざまな症状が出る。低栄養からホルモン異常、さらに女性の場合には無月経もみられる。過食症は大量の食べ物を短時間に衝動的に食べる発作が起き、食後は後悔や自責意識にとらわれる。いずれも患者の9割は女性で、10代、20代が多い。厚生労働省の調査では、医療機関を受診している患者は推計1万2000人であるが、潜在患者が少なくない。さまざまなストレスが原因になり、誤ったストレス解消方法で起きる病気であるが、実際の発病プロセスははっきりしない。
 治療はまず、現れる症状に対応しつつ、根本的には心理療法を行う。2013年(昭和25)10月、厚生労働省は新年度から、心療内科および精神科外来、救急体制のある総合病院10か所程度を、摂食障害の治療・研究の拠点病院「治療支援センター」として指定する方針を明らかにした。[田辺 功]

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