デジタル大辞泉
「摂食障害」の意味・読み・例文・類語
せっしょく‐しょうがい〔‐シヤウガイ〕【摂食障害】
食物を取る量と回数に偏りが生じ、拒食症 または過食症 となる障害。二つの症状が交互に現れることもある。家族・学校・職場などにおける人間関係 のストレス から発症することが多い。青年期の女性に多く、また先進国に多い。治療は心理療法 ・行動療法 が中心であり、補助的な薬物療法 にも効果が認められている。
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摂食障害
食事に関する行動に異常が出る障害。体重増加への恐怖などから食事量を極端に制限する神経性やせ症、大量の食べ物を詰め込むように食べてしまい、自分でコントロール できない神経性過食症 などがある。神経性やせ症の人が反動で過食するケースもみられる。心理療法など適切な治療を受けることで、時間はかかっても回復することができる。
更新日:2022年12月5日
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せっしょく‐しょうがい‥シャウガイ 【摂食障害】
〘 名詞 〙 やせ願望と身体イメージの誤りをもつ食行動異常。拒食と高度のやせに陥る神経性無食欲症 とむちゃ食いをくりかえす神経性大食症 がある。若い女性に多い。
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摂食障害(拒食症・過食症)
どんな病気でしょうか?
●おもな症状と経過
摂食障害(せっしょくしょうがい)は、体重や体形に対する極端なこだわりや精神的な問題から、食事行動に問題がおこる病気です。
摂食障害は、一般的に拒食症(きょしょくしょう)と過食症(かしょくしょう)の二つに分けられます。拒食と過食は正反対の行動ですが、原因が同じ心の問題であることから、一つの病気と考えられ、拒食と過食の間を行き来することも珍しくありません。なお、拒食症と過食症の正式な病名はそれぞれ神経性食欲不振症(しんけいせいしょくよくふしんしょう)、神経性大食症(しんけいせいたいしょくしょう)といいます。
拒食症は、思春期以降の若い女性に多く、そのほとんどがスリムな体形にあこがれて、過激なダイエット をすることが直接のきっかけとなって始まります。
現在、女性がダイエットをすることはそれほど珍しいことではありません。多くの女性が日常的に食事量を減らしたり、ダイエットに効果があるといわれる食品や飲料を好んで口にしたりしています。
しかし、拒食症になると、減量に成功して設定した体重になっても満足できず、さらにやせる努力を続けます。周囲の人に食べることを勧められても、強く反発して食べようとしません。そうした状態が続き、これ以上やせては大変なことになると感じ始めたとしても、少しでも体重が増えることに対して強い恐怖感をもっているため、食事量を増やそうとせず、ますますやせてしまいます。
このように症状が進むと、著しい体重の減少のため、体温や血圧の低下、月経不順などに陥り、悪化すると肝機能障害 、赤血球・白血球の減少、骨量(こつりょう)の低下などが進んで生命の危険が生じる場合さえあります。実際には骨が浮きでるほどやせていても、まだ自分は太っていると主張することが多く、患者さんは自分が病気であるという意識がありません。
過食症は、拒食症と同じように精神的なストレスやダイエットをきっかけとして、いったん食べ始めると大量に食べてしまう病気です。ときどきたくさん食べて、ストレス発散をする人もいますが、過食症では短時間に、しかも大量に食べます。
さらに特徴的なことは、大量に食べたことに対する罪悪感が強く、反動で絶食したり、無理やりのどに指を押し込んで吐きだしたり、下剤を使用したりして過食した分をなんとか排出しようとします。とくに嘔吐(おうと)は吐き終わったときに「すっきりする」という快感を伴うため、習慣化しやすいといわれています。
嘔吐をくり返すと、血液中のカリウム が失われて低カリウム血症 となり、不整脈 や腎機能障害をおこします。見た目は、ふつうの体形をしているので、周囲の人が気づくのは難しい場合もあります。なお、過食症は、最初は拒食症として始まるケースが多いようです。
拒食症も過食症も食事の問題や体形・体重へのこだわりが強く、それ以外のことはほとんど考えられないような状況になり、ふつうの日常生活を送ることが難しくなります。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
摂食障害の直接の原因は、多くの場合、極端なダイエットにあります。女性をダイエットに駆り立てる社会的な要因として、やせている体を礼賛(らいさん)する社会的風潮があげられます。
若い女性向けの雑誌のグラビアを飾るのは、やせている女性モデルたちであり、それらの雑誌にはダイエットの情報が欠かさず載っています。若い女性はスリムでなければならないという強迫的な価値観にとらわれ、過激なダイエットに走ることになります。
また、女性が社会進出に伴い、多くのストレスにさらされていることもその要因となっているでしょう。
この病気は、完全主義者タイプ=他人に対しては臆病(おくびょう)でありながら、負けず嫌いな性格の女性がなりやすいとされてきましたが、最近では、過度に他人に合わせるタイプや、他人と接触をもつのを嫌がるタイプなどにもみられ、いちがいにはいえなくなっています。
直接には過激なダイエットがきっかけとなりますが、そのような行動に走る背景には、前述した社会的風潮ばかりでなく、家族関係、母子関係、学校や職場でのいじめなど本人が心の問題を抱えている場合がほとんどです。
これらの問題に気づかず、解決されないままであれば、いったんは病気がおさまってもまた再発することになります。
●病気の特徴
摂食障害の患者数は、わが国でも近年急増しています。とくに、拒食症から過食症へ移行する人や、拒食症ではなく過食症から病気が始まる人が増える傾向にあります。現在は約6万人の患者さんが日本にいると推定されています。
歴史的には、テレビが普及してきた1960年代に摂食障害が、コンビニエンス・ストアが増えてきた75年以降に過食症が増えてきたと指摘する研究もあります。一般に若い女性に多い病気ですが、最近では、小学生や主婦などにもみられるようになっています。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]入院して治療を行う [評価]☆☆☆
[評価のポイント] 標準体重より75パーセント以下の体重である場合は入院加療が勧められます。点滴により必要な栄養分やミネラルを補給し、嘔吐や自傷をしないように管理することができます。しかし、効果は外来治療と変わらないとする報告もあります。(1)~(3)
[治療とケア]認知行動療法 を行う [評価]☆☆
[評価のポイント] 拒食症/臨床研究によると、困っている問題を習慣的な行動ととらえ、生活しやすくする行動を学ぶ認知行動療法で、子どもの拒食症が改善したという報告があります。しかし、多数の研究が行われているにもかかわらず、行動療法の有用性ははっきりしていません。
過食症/認知行動療法は、ほかの心理療法よりも過食の頻度を減らす効果があることが示唆されています。(1)~(6)
摂食障害における、認知行動療法を具体的に紹介すると、まず、過食したいという衝動に駆られたときに、とるべき行動を決めておき、それをやりやすいものから順次行っていきます。とるべき行動とはレモンをかじる、風呂に入る、音楽を聞く、歯を磨くなどです。また、拒食症の患者さんは「少し食べたら、どんどん体重が増える」といった誤った考え方(認知)にとらわれています。そこで、実際にその行動によってそうなるかどうかを試して、そうならないことを確認しながら、正しい考え方に修正していきます。(7)(8)
[治療とケア]家族療法を行う [評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 拒食症/信頼性の高い臨床研究により、通常の治療に比べて、家族療法が優れているという結果は出ませんでした。(9)
過食症/認知行動療法があまり効果がない場合は、家族療法を含むその他の心理療法が行われます。(10)
家族療法は、患者さんを家族のなかの一部としてとらえ、患者さんが家族のなかではどんな存在であるのか、あるいは、家族同士の力関係はどうなっているのか、家族は互いをどう感じているのかといった、患者さんが属する家族全体を治療の対象とする視点からカウンセリング を行う療法です。家族療法では、問題を抱えている患者さんだけが病んでいるのではなく、家族がもっている機能がうまく働いていないために、家族自体が病んでいると考えます。家族全体の病理が、家族のなかでもっとも感受性の強い人にたまたま問題行動(たとえば拒食)として現れているという立場です。カウンセラー は、家族関係に変化がおこるよう、さまざまなアドバイス をして介入していきます。
[治療とケア]薬物療法を行う [評価]☆☆
[評価のポイント] 拒食症/薬物療法による、拒食症への効果は十分証明されていません。そのため薬物療法のみ行うことは避けられています。(1)
過食症/過食症の薬物療法は、唯一抗うつ薬による治療のみ推奨されています。選択的セロトニン 再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬等が使用されます。(11)
よく使われている薬をEBMでチェック
抗うつ薬
[薬用途]SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
[薬名]デプロメール/ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩)(12)~(15) [評価]☆☆
[薬名]パキシル(パロキセチン塩酸塩水和物) [評価]☆☆
[薬名]レクサプロ (エスシタロプラムシュウ酸塩) [評価]☆☆
[評価のポイント] 拒食症/信頼性の高い臨床研究によると、これらの薬では、はっきりとした有効性は確認できていません。
過食症/SSRIにより、過食の頻度を下げる可能性がいくつかの研究で示唆されています。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
決定的な治療法は見つかっていない
摂食障害の治療は大変難しいものがあります。現在、有効性が確認されている決定的な治療はなく、カウンセラーなども含めた医療現場でいろいろな治療が試行錯誤されているのが実情です。
薬など内科治療は根本治療にならない
重症の拒食症で脱水などのため衰弱が激しく動けなくなったり、体内の電解質のバランスが崩れて不整脈や筋力低下などがおこったりした場合には、点滴や一時的な栄養分の補給といった内科的な治療が必要になります。
しかし、水分や栄養分を体外から強制的に補給するだけでは、根本的な治療にはなりません。本人が、摂食行動(食事)を正常なパターンに戻そうという意思をもたない限り、内科的な治療は、ほんの一時しのぎにしかすぎません。
また、過食症では、うつ症状が強い場合などに抗うつ薬が用いられます。それによって過食の頻度が少なくなったり、うつ症状が抑えられたりする場合があります。しかし、これも一般的には初期治療や精神療法 と併用して用いられ、補助的なものです。
考え方のひずみを正す精神療法が必要
したがって、拒食症にしても過食症にしても、本人が摂食行動に対する考え方(認知)を変えるための対処方法がもっとも重要になります。認知行動療法をはじめとするさまざまな精神療法が必要とされるのはこのためです。
治療は気持ちのわかりあえる専門医で
精神療法は長期にわたるとともに、医師が患者さんの心や行動にいろいろな場面で介入する場合が多い療法です。
医師と患者さん、あるいはその家族に十分な信頼関係ができないと、摂食行動をおこすきっかけとなった精神面での問題点を明らかにはできません。
ですから、信頼のおける精神科医ないし心療内科医を見つけることも重要なポイントとなります。(1)西間三馨. 心身症診断・治療ガイドライン2002.協和企画.2002.
(2)Yager J, Andersen AE. Clinical practice. Anorexia nervosa. N Engl J Med. 2005 Oct 6;353(14):1481-8.
(3)Gowers SG, Clark A, Roberts C, et al. Clinical effectiveness of treatments for anorexia nervosa in adolescents: randomised controlled trial. Br J Psychiatry. 2007 Nov;191:427-35.
(4)Practice Guideline for the Treatment of Pactients With Eating Disorders:American Psychiatric Association.
(5)Fundudis T. Anorexia nervosa in a pre-adolescent girl: a multimodal behaviour therapy approach. J Child Psychol Psychiatry. 1986;27:261-273.
(6)Management of Eating Disorders. Agency for Healthcare Research and Quality. 2006
(7)Poulsen S, Lunn S, Daniel SI, Folke S, et al. A randomized controlled trial of psychoanalytic psychotherapy or cognitive-behavioral therapy for bulimia nervosa. Am J Psychiatry. 2014 Jan;171(1):109-16.
(8)Schmidt U, Lee S, Beecham J, et al. A randomized controlled trial of family therapy and cognitive behavior therapy guided self-care for adolescents with bulimia nervosa and related disorders. Am J Psychiatry. 2007 Apr;164(4):591-8.
(9)Fisher CA, Hetrick SE, Rushford N. Family therapy for anorexia nervosa. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Apr 14;(4):CD004780.
(10)American Psychiatric Association. Treatment of patients with eating disorders, third edition. American Psychiatric Association. Am J Psychiatry. 2006 Jul;163(7 Suppl):4-54 or at National Guideline Clearinghouse 2006 Aug 21:9318, reaffirmed 2011.
(11)American Psychiatric Association. Treatment of patients with eating disorders,third edition. American Psychiatric Association. Am J Psychiatry. 2006 Jul;163(7 Suppl):4-54.
(12)Biederman J, Herzog DB, Rivinus TM, et al. Amitriptyline in the treatment of anorexia nervosa: a double-blind, placebo-controlled study. J ClinPsychopharmacol. 1985;5:10-16.
(13)Attia E, Haiman C, Walsh BT, et al. Does fluoxetine augment the inpatient treatment of anorexia nervosa? Am J Psychiatry. 1998;155:548-551.
(14)Halmi KA, Eckert E, LaDu TJ, et al. Anorexia nervosa. Treatment efficacy of cyproheptadine and amitriptyline. Arch Gen Psychiatry. 1986;43:177-181.
(15)Walsh BT, Agras WS, Devlin MJ, et al. Fluoxetine for bulimia nervosa following poor response to psychotherapy. Am J Psychiatry. 2000;157:1332-1334.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」 EBM 正しい治療がわかる本について 情報
せっしょくしょうがいきょしょくしょうかしょくしょう【摂食障害(拒食症、過食症)】
《どんな病気か?》
〈長期にわたり、食事に問題があったら要注意〉
いやなことがあってやけ食いする、気分がすぐれなくて食欲がない。これらは一時的な現象であり、ストレスや疲れなどが原因で起こったり、二日酔いやかぜなどで体の調子が悪いときにもみられます。
しかし、摂食障害(せっしょくしょうがい) は、このような一時的な現象ではなく、長期間にわたり、食事に関する問題が生じている場合をいいます。
とくに、スタイルや体重をとても気にしている思春期の女性に多くみられます。
〈減食や栄養摂取のかたよりが体のバランスも乱す〉
摂食障害の1つに拒食症(きょしょくしょう) があります。これは、神経性やせ症ともいい、心の病気の一種です。肥満になることへの強烈な恐怖、体重は少しでも少なければいいという意識、憧れのスタイルになりたかったり、流行のお洒落(しゃれ) なファッション で飾りたい、などという気持ちが、食事の量を極端に減らしたり、かたよった食生活をさせてしまうのです。
しかし、実際は、本人が意識しているほどふとってはおらず、必要以上に意識している人がほとんどです。それどころか、活動的で積極的にスポーツをしてエネルギーを消費しているにもかかわらず、スタイルを気にしすぎるあまり“拒食症”におちいることもあります。
このケースでは、自分自身が“拒食症”だと自覚していない人がほとんどです。
このような減食、かたよった食事が続くと、ますます食べられなくなってしまいます。しかも、どんどん体重が減ってやせていき、基礎代謝(きそたいしゃ) にも支障をきたします。ときには貧血(ひんけつ) を起こしたり、また、ホルモンの分泌異常(ぶんぴついじょう) によって月経(げっけい) が止まってしまうなど、体の異常の原因になってしまうこともあります。そのほか、低血圧、低体温、手のひら が黄色くなる、頭髪が抜ける、骨粗鬆症 (こつそしょうしょう) などにつながることもあります。
〈過食・嘔吐・下痢をくり返すと、内臓にも影響をおよぼす〉
一方、過食症(かしょくしょう) では、短時間で大量の食べものを摂取します。拒食症と同様に心の病気で、拒食症とちがうところは、食べたものを意識的に嘔吐(おうと) したり、下剤を飲んで、体重を増加させないようにする、ということです。
これもスタイルや体重を意識しすぎているためにみられる症状です。
拒食症ほど極度なやせや、基礎代謝低下にともなう諸症状はみられませんが、拒食症同様に体重が減少していくと、同様のホルモン分泌異常や月経異常などの症状が現れることもあります。
また、嘔吐や下痢(げり) をくり返すことにより、胃液や腸液のカリウムが失われ、低カリウム血症のように血液に異常が現れたり、心臓や腎臓(じんぞう) の異常、とくに不整脈などが合併症としてみられます。さらに、精神的に思いつめることで、うつ病を合併することもあります。
〈正しい食生活が送れるよう、まずは精神的な治療から〉
いずれも、その原因の根底には、スタイルや体重に対する強い意識からくる悩みや葛藤、不満や不安、ストレスなど、精神的な要因があります。
そのため、治療では、身体的な症状を治療すると同時に、精神面の治療が行われます。自分で食欲や食習慣をコントロールできない以上、まずはカウンセリングなどをとおして、精神的に正しい食生活を送れるよう、指導を受けます。同時に、家庭での食事が楽しくできるように、家族が協力していくこともたいせつです。
《関連する食品》
本人が意識的に食べなかったり、また過食と嘔吐・下痢をくり返していては、きちんとした食生活を送ることはできません。現れた身体的症状に必要な栄養素を摂取することがたいせつです。
〈ビタミンUは胃の粘膜を保護する〉
○栄養成分としての働きから
やせの症状が顕著な場合は、必要なエネルギーを補給します。とくに拒食症では、ご飯を食べずにパンを食べる、肉なら鶏肉だけ、青菜だけあるいは、生野菜のサラダだけを好んで食べるなど、栄養素にしても、摂取カロリーにしても、かなりかたよりがみられます。サラダばかりでなく温野菜などもメニューに取り入れるようにすると、少ない量でたくさんの栄養を摂取できます。
たんぱく質 やビタミン、ミネラルが豊富に含まれた食品を多くとるようにしましょう。
なかでもたんぱく質はスタミナを増強するには必要不可欠です。牛乳や鶏卵、ダイズなどを中心に、消化のよい食べものから食べはじめるといいでしょう。ビタミンのなかでは、ニンニクなどに含まれるビタミンB1 が、エネルギー代謝を促進し、体力を養うために有効です。
また、過食症で嘔吐をくり返している人は、ビタミンUをとると、胃の粘膜(ねんまく) を保護することができます。ビタミンUはキャベツに多いので、やわらかく煮込んだキャベツスープなどがよいでしょう。
同時に、精神的なイライラやストレスをなくすように、カルシウム を摂取しましょう。カルシウムをとるには、牛乳、乳製品のほか、シジミなどの貝類や青菜もおすすめです。貝類はカルシウムばかりでなく、不足しがちな鉄分も多いからです。摂取しやすいように味噌汁にするなど、くふうをすることも必要です。
〈食欲を増進させるパセリ、ショウガ〉
ある程度、食生活の改善がみられたら、1日3食、食事の時間にしっかり食事ができるように、食欲をそそるようなくふうをしましょう。
たとえば、パセリやショウガなどは、独特な香りが食欲を増進させます。同時に、パセリに含まれるピネンは胃に適度な刺激を与え、消化をよくしますし、ショウガに含まれるジンゲロン は殺菌力をもち、吐(は) き気(け) などを抑えてくれる効果もあります。
パセリは水気をきってみじん切りにしたものを冷凍庫に保存すれば、いつでも手軽に利用できます。ショウガは、お酒に漬けたり、はちみつとお湯割りにしたりと、飲みもので摂取しましょう。
また、牛乳は就寝前にあたためてから飲むといいでしょう。はちみつを混ぜると飲みやすくなります。炒めものや揚げものなど、油を使う料理とニンニクの相性は抜群。栄養の吸収もアップします。蒸しキャベツなど火を通して食べる調理方法もおすすめ。空腹時の胃にやさしく働きかけます。シジミの成分が肝臓に働きかけるので、身体的な疲労を癒すのも特徴。ピリ辛風にしても合います。
○注意すべきこと
精神的な要因によって起こる摂食障害では、食事によってさらに精神的なアンバランス を生じさせることは厳禁です。
たいせつなのは、無理をしないこと。
まず最初は食べたいときに食べたいものから食べることからはじめましょう。
そして、症状が改善されてきたら、1日3食の習慣を取り戻し、なんでも食べられるようにしていくことです。
せっしょくしょうがい【摂食障害】
《どんな病気か?》
〈思春期の心理的葛藤が摂食障害というかたちで現れる〉
摂食障害(せっしょくしょうがい) は、心理的な原因によって食行動に異常をきたす病態の総称で、ものが食べられなくなる「拒食症(きょしょくしょう) 」(神経性食欲不振症)と、衝動的にムチャ食いする「過食症(かしょくしょう) 」(神経性過食症)に大きくわかれます。
拒食症の子どもは、ふとることに対して強い恐怖心があり、生命に危険なほどやせていても、「またふとるかもしれない」などという思い込みから食べることができません。
過食症の子どもは、通常の食事量をはるかに超えて食べ続け、自分ではそれを制御できません。そして体重が増加しないよう、吐(は) いたり下剤を飲むなどの不適切な代償行為をくり返します。
ともに十代の女性に多くみられ、思春期のさまざまな心理的葛藤(しんりてきかっとう) が摂食障害というかたちで現れると考えられています。
摂食障害の子どもに、ただ食べることを強制しても問題は解決しません。心理的な原因になっている心配ごとや悩みを取り除くとともに、食事に対する恐怖心を、少しずつやわらげていくことが治療の課題になります。
《関連する食品》
栄養面で問題が大きいのは拒食症の場合です。拒食症の子どもは、肉類は口にしないがサラダなら食べるというように、食べものに対して強いこだわりをもっており、やせるのに都合のいい食品をとろうとします。
〈拒食症はビタミンA、Eやカルシウム不足に注意を〉
○栄養成分としての働きから
とくに成長期の場合、本来なら、たんぱく質をはじめ、各種ビタミン、ミネラルの補給が必要なのですが、まずは本人が食べたいもの、食べられるもので、可能なかぎり栄養を補給させます。
注意したいのは、カルシウムや、体に脂肪分といっしょでないと吸収されにくいビタミンA、Eの不足です。カルシウムはコマツナ 、ダイコン の葉、とうふ、ビタミンA(カロテン、レチノール )はレバーやウナギ、コマツナ、ニンジン、またビタミンEはウナギ、カボチャ、アボカドなどに含まれています。
〈過食症はカリウム補給がポイント〉
過食症で下剤をひんぱんに使用している場合には、下痢(げり) により大量のカリウムが失われ、不整脈を起こしやすくなります。トマトやアボカド、バナナなどで補給してください。
うつ状態をともなう場合、ビタミンB1 (強化米、カレイ、ダイズ)や、ナイアシン (カツオ、サバ、鶏ささみ)は、精神安定に効果があります。
出典 小学館 食の医学館について 情報
摂食障害(心身症)
摂食障害(表1-6-5)の主たる疾患として,神経性無食欲症(anorexia nervosa,表1-6-6)および神経性大食症(bulimia nervosa,表1-6-7)が存在し,診断基準として,米国精神医学会によるDSM-Ⅳ-TR(精神障害の診断と統計の手引き)が用いられることが多い.これらの疾患の病態は,「食欲」の問題ではなく,体型や体重に対する「認知の歪み」であり,通常,精神疾患に分類されるため,厳密には心身症ではない.
しかし,特に,神経性無食欲症の場合,低体重・低栄養・脱水に伴い,さまざまな身体の異常所見・血液および尿検査の異常・生理学的検査の異常が認められ,心身症に準じて,心身両面からのアプローチが必要であり,心療内科で診療することが多い代表的な疾患である.また,低体重を伴わない神経性大食症であっても,排出行動による電解質異常などの血液検査の異常が認められ,身体面の管理も必要となる.さらに,特定不能の摂食障害に含まれる,むちゃ食い障害(binge eating disorder)では肥満症を合併することも多く,肥満症の併存疾患としても重要であるとともに,肥満症を呈した場合は心身症としての側面を兼ね備える.
以下に,内科的治療を優先すべき場合も多い,神経性無食欲症の身体面の変化について記載する.神経性無食欲症はボディイメージの障害,強いやせ願望や肥満恐怖のため,不食や摂食制限,あるいは過食しては嘔吐するため,著しいやせとさまざまな身体症状,精神症状を生じる.神経性無食欲症のうち,不食や摂食制限のみで,むちゃ食いや排出行動を伴わないものを制限型(anorexia nervosa restricting type)という.またむちゃ食いや,嘔吐・下剤や利尿剤の乱用などの排出行動を伴うものをむちゃ食い/排出型(anorexia nervosa binge eating/purging type)とよぶ.低体重,低栄養による二次的な変化として,さまざまな身体所見,検査所見が認められ,場合によっては致死的となる(表1-6-8).
治療に関しては,エビデンスレベルの高い治療法はいまだ存在せず,栄養を補う栄養療法と心理療法の一種である認知行動療法が用いられることが多い.
a.消化器系
胃排出運動の遅延は神経性無食欲症患者においてよく認められる.食後の膨満感などの訴えとなり,さらに食事忌避の理由となっていることがあるため注意が必要である.過食嘔吐のある患者においては耳下腺腫脹を主とする唾液腺腫脹が認められることが多い.これは自己誘発性嘔吐による唾液腺分泌刺激が原因といわれており,唾液腺型アミラーゼの上昇を認める.
その他,神経性無食欲症患者では,低栄養状態や高度の脱水の症例で肝酵素の上昇が認められるが,詳細な機序はいまだ不明である.多くは栄養状態や脱水の改善に伴い速やかに正常化する.また,再栄養の時期にも再栄養症候群(refeeding syndrome)として,一時的に肝酵素の上昇を認めることが多いが,経過観察のみで正常化する.
b.電解質
低カリウム血症,低リン血症,低マグネシウム血症,低カルシウム血症などが認められることが多い.低カリウム血症は経口摂取量や体液量の減少,嘔吐,下剤,利尿剤の乱用が関係している.低リン血症は飢餓状態において,経静脈的あるいは経鼻胃管による栄養投与時に認められることが多く,やはり再栄養症候群において認められる.極度の低リン血症では,横紋筋融解症など致死的な合併症を生じる危険があり,注意深いモニタリングが必要である.
c.糖代謝
低栄養による慢性的な低血糖は神経性無食欲症患者に多く認められる.さらに慢性低血糖であるため多くの患者では低血糖の自覚症状がない.そのため,突然意識障害(低血糖性昏睡)を生じ,死に至るケースも多いため十分な注意が必要である.
d.循環器系
神経性無食欲症患者において,低栄養と脱水,電解質異常によりさまざまな循環器系の合併症を生じ,突然死が少なからず生じる.特に,電解質の異常を伴わない場合でもQT間隔が延長しているケースもあり,頻拍性の心室性不整脈の危険因子となる.また,神経性食欲不振症患者では心囊水貯留や極度の徐脈を認めることもある.
e.内分泌系
神経性無食欲症患者では体脂肪減少に伴う続発性無月経などの内分泌系の異常所見が認められる.無月経と関連した所見としては性ホルモンの低下を認め,LH-RHに対するLH,FSHの反応不全も認められる.甲状腺に関しては神経性無食欲症患者においてeuthyroid sick syndromeが認められる.通常フリーT3 は低下するが,甲状腺刺激ホルモンは正常であることが多く,lowT3 症候群とよばれる.これは低栄養状態に反応してT4 からT3 への転換が減少し,代謝活性の低いリバースT3 が優先的に産生されるためであり,低体重・低栄養への適応的な反応であるため,甲状腺ホルモンの投与を行ってはいけない.
f.代謝系
神経性無食欲症においてはほかの飢餓状態とは異なり,高コレステロール血症を認める.これは胆汁酸の分泌の減少とコレステロール代謝の遅延に関連しているといわれている.
g.骨代謝系
神経性無食欲症では,低体重,低カルシウム血症,また低エストロゲン血症など骨密度を低下させる要因が存在し,病的骨折を認めることもある.
h.血液系
著しい飢餓状態では骨髄低形成を認めるとの報告があり,神経性無食欲症患者においては白血球の減少,正〜小球性の貧血がよく認められる.またまれではあるが血小板減少を認めることもある.
i.中枢神経系
神経性無食欲症患者では,大脳の委縮や脳室の拡大が認められることがある.体重回復とともに改善することが多い.[吉内一浩・赤林 朗]
■文献
Engel GL: The need for a new medical model: a challenge for biomedicine. Science, 196: 129-136, 1977.
小牧 元, 久保千春,他編:心身症診断・治療ガイドライン2006, 協和企画,東京,
2006.日本心身医学会教育研修会編:心身医学の新しい指針.心身医学,31: 537-573, 1991.
出典 内科学 第10版 内科学 第10版について 情報
摂食障害 せっしょくしょうがい Eating disorder (こころの病気)
食行動の異常に基づく原因不明の難治性の疾患です。一般的には、拒食症 ( きょしょくしょう ) 、過食症 ( かしょくしょう ) などとして知られています。
あるきっかけ(ダイエットや受験、自信を失うような失敗)で拒食となり、やせが進行しても食事をとる量が増えず、ますますやせが進行していくケースと、拒食状態がある時点から突然大量の食べ物をとるようになって過食症へ移行する2種類のタイプが知られています。過食に移行するケースでは、自己誘発性嘔吐 ( じこゆうはつせいおうと ) や下剤などの薬物乱用を伴う場合があります。
やせていることが美しいとする文化的な背景のある地域に多くみられ、約95%が女性、それも思春期・青年期の女性に多いとされます。最近、低年齢化および高齢化しているといわれ、世界的にも大きな社会問題になっています。
一般に慢性の経過をたどる場合が多く、症状は対人関係の問題や社会環境でのストレスに敏感に反応し、容易に再発することも知られています。米国の報告では、10年以上の経過で約60%が治る一方で、6~7%が死亡するといわれています。日本における最近の報告でも同様の成績が報告されており、思春期・青年期女性の疾患としては最も重症な疾患のひとつです。
原因は今のところ不明で、遺伝子の研究や脳画像解析の研究を含め、世界的にさまざまな視点から解明が試みられています。
米国の診断基準を表11 に示しました。この診断基準では、摂食障害は神経性無食欲症 ( しんけいせいむしょくよくしょう ) と神経性大食症 ( しんけいせいたいしょくしょう ) に分かれていますが、診断基準や病型分類は今後変わっていく可能性があります。
診断上で重要なのは、肥満への恐怖や身体イメージの障害などです。病識(自分が病気であると認識していること)に乏しい人が多いので、時に合併するうつ症状やパーソナリティー障害とされて見逃されることも少なくありません。身体検査では、やせや過食嘔吐、薬物乱用などの影響で二次的なさまざまな身体障害を合併します。一方で、過食嘔吐のない制限型では、やせの程度のわりに血液検査などでは異常が現れず、一般診療科で見逃される一因ともなっています。
生命予後に直接関係する検査の異常は、低血糖、低カリウム血症 や低リン血症などです。
精神疾患の合併、たとえば、境界性 ( きょうかいせい ) パーソナリティー障害やアルコールなどの薬物依存 ( やくぶついぞん ) 、うつ病 などもみられます。
疾患自体の効果的な治療方法は確立していないので、行動療法を中心にした心理療法が行われています。なかでも認知行動療法や対人関係療法の有効性がいわれていますが、やせや過食嘔吐などの部分症状に限られます。
日本では支持的な心理療法を中心に、家族療法、行動制限療法、認知行動療法、再養育療法、力動的な心理療法などが多く用いられています。やせや過食嘔吐などによる身体合併症に対する身体医学療法や、対症的な向精神薬の併用なども、時期に応じて重要な治療になります。
病気だと意識していない人も多く、治療を受けていない人が数多くいることが推定されています。摂食障害が疑われたら、精神科や心療内科で専門医を紹介してもらうとよいでしょう。病院に行きたがらない人も、何とか説得して連れて行くようにしてください。
石川 俊男
摂食障害 せっしょくしょうがい Eating disorders (子どもの病気)
自分の体型や体重に対する異常な思い込みによって、食事量を極端に制限したり(神経性食思不振症 ( しんけいせいしょくしふしんしょう ) )、過食と食事制限あるいは自発的な嘔吐を繰り返したり(神経性大食症 ( しんけいせいたいしょくしょう ) )する状態です。神経性食思不振症では標準体重の85%以下の極端なやせがみられます。思春期以降にみられ、大部分が女性ですが、男性にもみられます。
不明ですが、自分の体に対する異常なイメージをもち、体重が増えることを極端に恐れるようになります。ダイエットがきっかけになる場合もあります。性格や家族環境も発症に関係しているといわれています。家族性があることから、何らかの遺伝的素因が関与していると考えられます。
神経性食思不振症では食べないこと(拒食 ( きょしょく ) )が主症状ですが、食事後隠れて吐いたり、下剤をのんで体重を減らすこともあります。体重が減り極端にやせても、体重が増えることを拒絶します。監視下で食事をさせた場合には、走ったり階段を昇降して運動量を増やしてやせようとします。
食事に対する関心はむしろ増していることが多く、カロリーを気にしたり、他人の食事内容にまで関心を示したりします。
神経性大食症では、過食とそれに続く食事制限や自己誘発嘔吐 ( じこゆうはつおうと ) 、下剤の使用などが繰り返して起こります。やせは見られず、体重は正常範囲内です。
食思不振症では極端なやせや電解質(塩分)不足によって、脱水や低血糖、循環不全による肝腎機能不全などを起こすことがあり、まれですが死亡することもあります。脱水や低栄養状態を改善するために点滴で栄養や水分を補うとともに、心理・行動療法を行います。
再発することが多く、長期間の治療が必要になるのが普通です。
神経性大食症には心理療法や薬物療法が行われます。
榊原 洋一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」 六訂版 家庭医学大全科について 情報
せっしょくしょうがい【摂食障害 Eating Disorder】
[どんな病気か]
一般に拒食症(きょしょくしょう)といわれている神経性食欲不振症(しんけいせいしょくよくふしんしょう)、過食症(かしょくしょう)など、身体的な病気がないのに食事がとれなかったり、また逆に食欲のコントロールができずに食べすぎてしまう病気を総称して、摂食障害といいます。
なにかショックなことがあって、食欲が一時的に落ちたり、逆にやけ食いをしてしまったりするのは多くの人にみられる現象ですが、摂食障害という場合は、単なる一過性の反応ではなく、かなり長い間、食事に関する問題が続き、しかも、体型や体重に対する強いこだわりがあるのが特徴です。
■神経性食欲不振症(拒食症)
神経性食欲不振症では、節食や激しい運動などにより、適正な体重の15%以上のやせがみられ、月経も止まります。それだけやせても、もっとやせたいと思ったり、少しでも太ると自分は醜(みにく)いと思いつめるなど、体重しだいで自己評価が大きく左右されるので、毎日の生活が、体重の心配を中心に回るようになってしまいます。
本人は十分食べているつもりでも、食事の内容が野菜などに偏(かたよ)っており、必要な栄養を満たしていないことがよくあります。食事量が少ないと胃腸の動きが悪く、便秘(べんぴ)になりやすいため、つねに腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)があり、ますます食事量が減ってしまいます。
摂取する栄養が少ないと、貧血(ひんけつ)(酸素をからだの隅々に運ぶ赤血球(せっけっきゅう)が少ない状態となり疲れやすい)、白血球(はっけっきゅう)減少(感染しやすくなる)、低血圧、低体温などさまざまな弊害が出ます。手のひらが黄色くなったり、体毛が増えたり、頭髪が抜けることもあります。低体重が続くと、女性ホルモンがでにくくなり、若い女性でも閉経後の女性と同じようなホルモン環境になるので骨粗鬆症(こつそしょうしょう)にもなりやすいといわれています。
■過食症
過食症では、短時間の間に大量の食物を食べてしまいますが、これが単なるやけ食いとはちがうのは、背後に、拒食症と同じように、「やせていないと自分は醜い」という思い込みがあるため、過食の後、うつ状態におちいったり、体重を元に戻すために自分で嘔吐(おうと)したり、下剤(げざい)を必要以上に使ったりする点です。症状が重い時期には、毎日1日中、過食、嘔吐をくり返すといった状態になります。
拒食症による栄養失調の状態が長く続いた後に、過食症になることもありますし、そうでないこともあります。過食だけでなく、アルコールを飲みすぎたり、その他の薬物乱用も同時にみられることもあります。
過食症の人の体重は、嘔吐や下剤乱用の程度によりさまざまですが、かなり低体重になった場合は、拒食症と同様の合併症への注意が必要です。
嘔吐や、下剤を大量に使っていつも下痢(げり)をおこしている場合は、胃液・腸液とともにカリウムが大量に失われ、低カリウム血症(「カリウムと代謝異常 」の低カリウム血症)になります。心臓はカリウムの値に敏感で、不整脈などをおこしやすいので、注意が必要です。慢性的に嘔吐していると、歯のエナメル質が失われたり、唾液腺炎(だえきせんえん)になることもよくあります。
[治療]
治療としては、精神面の治療とともに、からだの治療を行ないます。外来では、精神療法、家族療法などとともに、さまざまな検査をしたり、栄養士による栄養指導を行ないます。必要に応じて、婦人科や内科などとも連携をとりながら治療します。
体重低下が著しい場合や、抑うつ感や希死念慮(きしねんりょ)(自殺願望)が強い場合は、入院治療をすることもあります。
摂食障害は、食事に絡む症状なので、他の家族に対してもストレスをおこしやすい疾患です。それまでの家族関係が原因で発症することも多いのですが、毎食の食事のしかたで争っていては、家族関係の改善には時間がかかってしまいます。家庭内のストレスが非常に大きい場合は、やはり専門家に相談し、本人の課題と家族の課題をはっきりさせ、少しずつ解決していくほうがよいでしょう。
出典 小学館 家庭医学館について 情報
せっしょくしょうがい 摂食障害 eating disorder(英),troubles de l'alimentation(仏),Esssto¨rungen(独)
摂食障害は神経性無食欲症と神経性大食症に大別される。
【神経性無食欲症anorexia nervosa(AN)】 体重を減少させようとする意図的な行動,著しい体重減少・体重増加に対する恐怖,身体像の障害,無月経(月経が少なくとも連続して3回欠如)などによって特徴づけられる病態である。1994年の『精神障害の診断と統計の手引き』第4版(DSM-Ⅳ)では,むちゃ食い(普通より多くの食べ物を,制御不能の感覚で摂取すること)や,自己誘発性嘔吐,下剤乱用,利尿剤乱用などの排出行動が見られる「むちゃ食い/排出型」とそれらが見られない「制限型」に分けている。「制限型」の方が回復しがたいといわれている。体重増加を防ぐための不適切な代償行動として,先の排出行動以外に過剰な運動や絶食が見られる。
圧倒的に若い女性が多く,大半は14~18歳に発症する。最近の欧米における有病率は0.12~0.37%といわれる。日本ではANの有病率は他のアジア諸国と比べて高いが,欧米と比較すると低いとされる。30歳以後の発症は遅発性といわれ,喪失体験,家庭生活の危機,身体疾患の罹患などを契機に発症することが多い。強迫的で完璧主義の性格が目立ち,性に対しては無関心ないしは拒絶的である。また窃盗を繰り返すこともある。しばしば周囲の人に大量の料理を振る舞ったり,大量の食べ物を隠していたり,食べ物を断片に切り刻んだりするなど,食に関する特異な行動が見られる。低栄養,体重減少,下剤乱用などのため身体面の診察・検査は重要である。低体温,下腿浮腫,脱毛,産毛,無月経,脱水,齲歯,徐脈,心電図変化,低血圧,低血糖,低カリウム血症,白血球減少症,肝機能障害,骨密度低下などに注意する。5年以上の経過で半数以上が回復または改善し,10~20%が慢性化するといわれている。死亡率(合併症,自殺,原因不明)は一般的に5~10%といわれており,神経性大食症より高い。標準体重の60%以下の低体重は死亡の転帰と関連していると報告されている。
【神経性大食症bulimia nervosa(BN)】 繰り返されるむちゃ食いと体重のコントロールに過度に没頭することが特徴の病態である。体重増加を防ぐための不適切な代償行動として排出行動や過剰な運動や絶食を繰り返す。DSM-Ⅳでは「排出型」と「非排出型」に分けている。体重はほとんどは標準範囲内か,やや肥満状態にある。最近の欧米における有病率は1%とされ,概してANより高い。発症は思春期後期である。ANとは異なり,性的には活発である。アルコール依存,窃盗,自己破壊的性行動,物質乱用,自傷行為などがしばしば見られ,過去に性的外傷などを経験していることもある。ANの強迫性に対して,BNは解離性の症状が見られることが多い。夜間にむちゃ食いをしてその記憶がないということもしばしば見られる。身体的には反復する嘔吐や下剤乱用のため,低カリウム血症,低マグネシウム血症,低ナトリウム血症などの電解質異常,高アミラーゼ血症,食道裂孔などに注意する。低カリウム血症は不整脈,筋力低下,麻痺性イレウスなどの原因となる。
【摂食障害の治療】 ANの患者は瘠せ願望と肥満恐怖が強いため,病気であることをなかなか認めようとしない。そのため病気の現実(認知の歪み,身体症状,異常所見,死の可能性など)について説明し,治療への動機づけをする必要がある。BNの患者は挫折し,絶望的になっていることが多いため,正しく病気について説明し,励ます必要がある。ともに認知行動療法が有効であるが,ANでは行動制限,BNでは課題を少しずつ無理のない範囲で達成することが中心となる。
〔柴山 雅俊〕
出典 最新 心理学事典 最新 心理学事典について 情報
摂食障害【せっしょくしょうがい】
拒食(不食)症,過食症,異食症 の3つの総称。異食とは通常の食品としては異常なもの,たとえば生米や粘土,線香,チョークなどを好んで食べたり,酢を飲用したりする状態をいう。異食は,患者数としては極めて少ないが,拒食および過食は神経性食欲不振症において,しばしば見られる。 拒食症とは,特に身体的な障害がないにもかかわらず,まったく食事を受け付けなくなり,骨と皮だけの状態になってしまうもの。若い女性に多いが,一部には男性の患者もいる。本人が〈太りたくない〉という強い意思をもっているため,痩せている状態でも,非常に元気で,自分を痩せているとは思わない。食べたものを排泄するために,下剤や浣腸を使ったり,自分で喉(のど)に手を入れて吐くなどの行動をとるようになり,極度の栄養失調になる場合もある。なお,その一部は,過食症に移行する。 過食症には,それまで拒食していた人が,急に大量の食べ物を摂るようになるケースと,それとは関係なく,無性に食べたくてめちゃくちゃに過食するケースがある。いずれも自分ではコントロールがきかず,欲求を抑えきれずに過食し,それを吐き,また食べるという,食べては吐くを繰り返す患者もいる。 摂食障害の原因はさまざまだが,過激なダイエットや,肉親の死などの精神的ショック,家庭内の問題や母子関係・対人関係・生活環境の変化などによる過度のストレス等があげられる。飽食の時代にあって,特に若い女性の〈痩せたい〉願望からくる過度のダイエットによって摂食障害を起こすケースが急増している。また,ストレスから発症するケースも多く,英国の故ダイアナ 妃が自ら摂食障害であったことを告白して話題になった。 真面目で神経質,完璧主義,傷つきやすい,人に気をつかう等の性格の人がなりやすいとされる。 摂食障害による過食や嘔吐(おうと)の繰り返しによる合併症として,虫歯,歯のエナメル質の侵食,唾液腺炎,低カリウム血症などを併発することもあり,慢性の栄養失調の結果,冷え性,低血圧,貧血,骨粗鬆症 ,無月経,無排卵等を起こすこともある。 治療は,身体面と心理面の両方からの治療が必要である。身体面での治療法としては,薬物療法および栄養指導が行われる。薬物療法は極度の栄養失調に陥っている場合に補助的に行うもので,注射などでアミノ酸製剤や栄養剤などを補給し,その後,抗不安薬や抗鬱(うつ)剤 などを利用する。心理面の治療には,家族療法,行動療法 ,集団療法,認知行動療法等が行われる。摂食障害では,家族との関係に問題を抱えている場合も多く,治療にあたっては,家族の協力が不可欠である。家族療法は,そうした家族の関係を重視した治療法であり,家族に対するカウンセリングなども重要なポイントとなっている。 →関連項目アダルト・チルドレン
出典 株式会社平凡社 百科事典マイペディアについて 情報
摂食障害 せっしょくしょうがい eating disorder
心理的な要因から正常に食べることができなくなる病気。厚生労働省の指定する難病の一つで、正式には中枢性摂食異常症という。体重増加を恐れて食べない「拒食症」と、ストレスから食べることをやめられなくなる「過食症」が二大症状で、交互に症状が現れることもある。
拒食症は標準体重の80%以下のやせ状態が3か月以上続き、低体温や冷えを始めさまざまな症状が出る。低栄養からホルモン異常、さらに女性の場合には無月経もみられる。過食症は大量の食べ物を短時間に衝動的に食べる発作が起き、食後は後悔や自責意識にとらわれる。10代~40代の女性が罹患(りかん)しやすい傾向があり、日本国内の医療機関を受診している患者数は年間約22万人(2017年度『精神保健福祉資料』)と報告されているが、潜在患者は少なくない。死亡率は約5%で、精神疾患のなかではもっとも高率といわれている。さまざまなストレスが原因になり、誤ったストレス解消方法で起きる病気であるが、実際の発病プロセスははっきりしない。
治療はまず、現れる症状に対応しつつ、根本的には心理療法を行う。厚生労働省は、摂食障害の患者に対する治療や支援の体制を整備するため、2014年度(平成26)から「摂食障害治療支援センター設置運営事業」を開始。2015年には「摂食障害全国基幹センター(現、摂食障害全国支援センター)」が設立された。2022年(令和4)10月までに「摂食障害治療支援センター(現、摂食障害支援拠点病院)」が全国で5病院(宮城、千葉、静岡、福岡、石川の5県)に指定され、摂食障害の相談・治療・支援等が行われている。
[田辺 功・編集部]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) 日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
知恵蔵
「摂食障害」の解説
摂食障害
拒食症(anorexia nervosa)と過食症(bulimia nervosa)があり、思春期・青年期の女性に多い。拒食症者は食事の量を非常に制限し、かなりやせた状態になっても体重が増えることを強く恐れる。栄養失調から生理が止まり、低体温、低血圧などの身体症状が現れても本人の危機意識は乏しい。むしろ、やせ細った体形によって自分自身の価値を支えているところがある。体力は衰えるが、学業、スポーツなどに打ち込み、活動的であろうとする。過食症は、自然な空腹感よりも心理的な飢餓感が背景にあり、食べ始めると止まらない。その一方で体重の増加を防ぐため、無理な嘔吐や下剤の乱用が見られる。過食を恥ずかしく思い、抑うつ的で自己嫌悪感が強い。拒食と過食の両方の障害を繰り返したり、拒食から過食へ移行することも少なくない。治療には家族と専門家との連携が重要。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」 知恵蔵について 情報