脳の下にある
まれに
最も特徴的な症状は、手足が細くなってもおなかは太り、顔はむくんで赤ら顔になることです。また、腹部、太ももに赤紫色の皮膚の亀裂が生じることがあり、皮膚は軟らかく、あざができやすくなります。顔にはにきびが目立ち、男性では性欲の減退やインポテンツ、女性では月経異常やひげが生えたりします。このほか、高血圧や糖尿病も合併します。
副腎皮質ステロイドホルモン(コルチゾール)が出すぎていることを確認するために、血液中や尿中のコルチゾールやACTHなどを測定します。これらのホルモンは、健康な人でもストレスがかかると変動しますので、さまざまな条件下でホルモンの変動に異常がないかどうかを調べる必要があります。そのための検査を負荷試験といいます。たとえば、副腎皮質ホルモン薬を投与して副腎皮質の抑制の程度を判断したり、深夜の血中ホルモンを測定したりします。
これらに異常があれば、クッシング症候群と診断されます。さらに、原因となる腫瘍の有無を確認するためには、下垂体のMRI、腹部のCT、MRI、核医学検査などが行われます。
また、副腎腫瘍が原因のクッシング症候群の場合は下垂体ホルモンのACTHが低下し、下垂体腫瘍が原因のクッシング病や異所性ACTH症候群の場合はACTHが上昇しているので、これらを区別することができます。
原因になっている下垂体腫瘍、あるいは副腎腫瘍を手術で取り除きます。この場合、腫瘍からホルモンがたくさん出ていると、正常な副腎は、休んで小さくなってしまっています。正常な副腎のはたらきが回復するにはかなりの時間がかかるため、手術のあと、数週間~数カ月間にわたって副腎皮質ホルモン薬を補充する必要があります。下垂体腫瘍が原因のクッシング病の場合、しばしば腫瘍を完全に取り除けないことがあります。この場合は、下垂体に対して放射線療法を追加します。
薬物による治療は、現在のところあまり有効なものはなく、補助的な治療として用いられています。
異所性ACTH症候群の場合は、原因になっている腫瘍の治療を行います。
糖尿病や高血圧があり、前述の特徴的な身体所見が認められた場合は、内分泌・代謝を専門とする病院を受診し、精密検査することをすすめます。
最近、その他の病気で行われた検査中(CTなど)に、偶然に副腎の腫瘍が発見され、検査をすすめた結果、クッシング症候群と診断されるケースが増えています。明らかな身体症状がなくても、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などの原因になるので、この場合も専門の医師に相談してください。
崎原 哲
クッシング症候群は、
コルチゾールの過剰による高血圧に加え、中心性肥満、満月様
基本的にコルチゾールの過剰産生を証明しますが、原因特定のため詳細なコルチゾールの抑制あるいは刺激試験が必要です。部位診断や鑑別診断のためにCTやMRIなどの画像診断を行います。
治療の原則は、外科的に腫瘍を摘出する方法です。
下垂体腺腫、副腎腺腫とも、腫瘍の完全摘出例では予後は良好ですが、副腎がんによるものは予後不良です。
* * *
以上、述べてきた疾患のほか、表3に示すように、大動脈炎症候群、大動脈縮窄症(しゅくさくしょう)、甲状腺疾患、副甲状腺疾患、
副腎皮質で作られる糖質コルチコイドが異常に増えている病気です。原因のひとつは副腎皮質の腫瘍です。
治療のためステロイド薬を長期間服用する場合も、同様の症状を現します。
特徴的な外見を示します。胴体を中心に肥満があり、丸い顔、肉のついた肩、腹、胸などに脂肪がつきます。手足はこれに比べると太くはありません。皮膚線条と呼ばれる皮下の線が現れます。子どもでは身長の伸びが悪くなります。
糖尿病になりやすく、骨からカルシウムが失われ
副腎に腫瘍がある場合には手術で取り除きます。脳下垂体の腫瘍については、最近では鼻の奥から手術することが可能になりました(ハーディーの手術)。薬でホルモン分泌を抑える方法もありますが、手術が最も中心的な治療法です。
ステロイド薬を服用している場合は、可能なかぎり投与量を減らし、最終的に中止できれば症状はおさまります。
大関 武彦
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
副腎皮質から分泌されているコルチゾールの慢性の過剰状態が続いた場合に発症する疾患。脳下垂体腺腫から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌される結果,副腎皮質からのコルチゾール分泌が増加するもの(クッシング病。アメリカのH. カッシング(1869-1939)が初めて報告),副腎皮質に発生した腫瘍からコルチゾールが過剰に分泌されるもの,脳下垂体以外の腫瘍からACTHが分泌される結果,副腎からのコルチゾール分泌が増加するもの(異所性ACTH症候群)などの病型がある。
満月様顔貌,中心性肥満(体幹のみの肥満),皮膚線条,高血圧,骨粗鬆(そしよう)症,月経異常,多毛,低カリウム血症,耐糖能低下などの症状を呈する。血漿コルチゾール値,尿中17-OHCS値,17-KGS値の上昇により診断する。各病型の鑑別は,デキサメサゾンを用いた抑制試験による。まず,デキサメサゾン2mg/日の投与を2日間行い,尿中17-OHCSの著しい抑制が認められれば,本症の診断は除外される。抑制が認められない場合にはクッシング症候群であり,さらに8mg/日の投与を2日間行い,抑制が認められればクッシング病,抑制が認められない場合には副腎腫瘍によるものか,異所性ACTH症候群であり,前者では血漿ACTH低値,後者では血漿ACTH高値であることから両者を鑑別する。
治療法としては,クッシング病に対しては経蝶形骨洞腺腫摘出術,脳下垂体に対する放射線照射,副腎腫瘍に対しては外科的摘除,異所性ACTH症候群に対してはACTH産生腫瘍の摘除などを行う。内科的にコルチゾールの過剰分泌を抑制する方法としては,o,p′-DDDの投与がある。
執筆者:関原 久彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
副腎(ふくじん)皮質ホルモンの一種コルチゾール(ハイドロコルチゾン)の慢性過剰症をいう。1932年にアメリカの脳神経外科医クッシングが初めて報告した。彼はこの疾患で、下垂体前葉の好塩基細胞性腺腫(せんしゅ)と両側の副腎皮質の肥大増殖があることを認め、原因は下垂体にあると考えた。しかしその後に、副腎皮質の腺腫や癌(がん)によっても同様な臨床像が出現することが認められ、一括してクッシング症候群とよばれるようになった。前述のほか、肺や胸腺、膵臓(すいぞう)の癌が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産出して同じような病態を呈することがあるが、非常にまれである。普通は下垂体に腫瘍(しゅよう)があり、両側の副腎皮質過形成がみられる場合が多く、副腎腫瘍など、ほかの病因による場合と区別して、この下垂体に原発するものをクッシング病とよんでいる。比較的まれな疾患であるが、20~30歳代の女性に多い。
クッシング症候群のおもな症状は高血圧や高血糖をはじめ、満月様顔貌(がんぼう)(顔が丸くなる)、頸(けい)部や躯幹(くかん)の脂肪異常沈着(胴が太り、背中の上方の首の付け根に水牛のように脂肪がたまる)、皮膚線条(急に太って皮膚が裂け、赤紫色の筋(すじ)が下腹部などにみられる)、無月経、多毛症、骨多孔症、筋力低下、性欲減退、皮膚の出血傾向などである。
臨床検査では血液中のコルチゾールの高値をはじめ、好酸球数の減少、血糖値の上昇がみられる。副腎腫瘍の発見には、腹部CT(コンピュータ断層撮影)、アイソトープを用いる副腎スキャンなどの検査があり、下垂体腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴映像法)撮影によって径5ミリメートルの微小腺腫まで発見できる。治療は下垂体あるいは副腎にできた腺腫を手術によって摘出する。今日では副腎や下垂体の腺腫の摘出術は開腹や開頭することなく、内視鏡で手術ができるので予後もよい。放射線療法も行われる。
[高野加寿恵]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…アルドステロンもACTHの支配下にあるが,アンギオテンシンIIやカリウムによっても,分泌が刺激される。脳下垂体腺腫からのACTH過剰分泌の結果,副腎からのコルチゾール分泌が増加したり,副腎に生じた腺腫から多量のコルチゾールが慢性的に分泌されると,クッシング症候群を呈する。また,副腎結核や特発性副腎皮質萎縮により,副腎からのコルチゾールの分泌が低下するとアディソン病となる。…
※「クッシング症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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