骨髄移植と末梢血幹細胞移植の選択

内科学 第10版 の解説

骨髄移植と末梢血幹細胞移植の選択(造血幹細胞移植術)

 自家移植では骨髄移植BMT)よりも末梢血幹細胞移植PBSCT)が優先して行われる.血縁者間移植では移植に用いる幹細胞として末梢血幹細胞と骨髄を選択することができる.また,非血縁者間移植も日本国内ではBMTに限定されていたが,平成22年度から限定的にPBSCTが開始された.ドナーにはそれぞれ異なるリスクがあり,患者にとってもPBSCTの方が移植後の造血の回復は早いものの,慢性GVHDが増加するなどの差異がある.両者利点,欠点を患者,ドナーに説明したうえでいずれかを選択する必要がある(表14-8-1).
(1)ドナーの立場からの骨髄移植と末梢血幹細胞移植の比較
 骨髄採取は,ドナー(自家移植の場合は患者本人)に全身麻酔をかけ,腹臥位にて両側後腸骨稜から直径2 mm程度の穿刺針を用いて吸引採取する.末梢血の混入による骨髄液の希釈を防ぐため,1回の吸引あたり5~10 mL程度の採取を行い,ドナー,患者の体格にあわせて合計500~1000 mLの骨髄液を採取する.ドナーにとって骨髄採取はそれと等量の出血に相当する負担を受けるため,しばしば輸血が必要となる.健常ドナーにおいては,他人からの輸血を防ぐため,あらかじめ自己血の貯血を考慮しなければならない.骨髄採取における合併症の多くは麻酔に伴う合併症であり,これまでに世界で報告された数例の採取前後の死亡事故のほとんどは麻酔に伴うものと考えられている.その他,骨髄採取自体に伴う合併症として,穿刺部からの感染症,破損穿刺針の腸骨内残存,後腹膜への出血などが報告されており,また,骨髄液の採取による循環動態の変化あるいは麻酔による一過性の血圧低下や不整脈も数%に認められる合併症である.
 末梢血幹細胞採取は末梢血中への造血幹細胞の動員方法によって①化学療法のみによる動員,②サイトカインのみによる動員,③化学療法とサイトカインを併用した動員に分類される.自家末梢血幹細胞移植においては,動員効率がよく,治療もかねることができる③の方法が最もよく行われているが,同種PBSCTにおいてはドナーは健常人であるので②の方法が用いられる.③の方法は,十分な血球減少をきたしうる化学療法を行った後,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)を中心としたサイトカインを投与し,造血が急峻に回復してくる時期に採取を行う.採取は,末梢血を血球分離装置に流入させ,遠心分離によって単核球成分のみを分離し,残りの血液は体内に戻すという方法で行う.②の方法では高用量のG-CSFをドナーに連日投与し,3~5日後に同様の方法で採取を行う.末梢血幹細胞採取の利点は全身麻酔を必要としないこと,自己血貯血が不要であることなどである.末梢血幹細胞採取でも複数の死亡事故が報告されており,G-CSF大量投与後の末梢血白血球数上昇時の凝固亢進に伴う心筋梗塞,狭心症,一過性脳虚血発作などの発症が伝えられている.そのため,高血圧,脂質異常症,糖尿病など,動脈硬化の危険因子を有するドナーからの末梢血幹細胞採取は避けることが望ましい.また,G-CSFの投与によって自己免疫疾患が増悪する可能性があるため,自己免疫疾患を有するドナーから末梢血幹細胞採取を行ってはならない.その他,G-CSFによる骨痛,血球分離装置への血液の流出や迷走神経反射などによる血圧低下,体外での血液の凝固を防ぐためのACD液による低カルシウム血症,末梢血幹細胞採取による血小板減少や,まれな合併症としてG-CSFによる脾臓破裂も報告されている. ドナーへの長期的な影響については,日本とEuropean Group for Blood and Marrow Transplantation(EBMT)が共同で行ったBMTドナーとPBSCTドナーの長期安全性の比較では,重篤な有害事象や白血病を含めた悪性腫瘍の発症頻度に有意な差はないことが示されている.また,BMTとPBSCTの無作為割付比較試験に参加したドナーのアンケート調査では,採取前後の痛みの強さや持続期間は両群でほぼ同等であったが,採取後2週間の時点では,すべてのPBSCTドナーが体調は良好であると答えているのに対し,BMTドナーでは約20%が何らかの体調不良を訴えていた (Rowleyら,2001).
(2)患者の立場からの骨髄移植と末梢血幹細胞移植の比較
 患者に対する影響については,複数の無作為割付比較試験の結果から確実になったことはBMTよりもPBSCT後の造血回復が有意に速いということである.GVHDに関しては,メタ解析の結果,PBSCT群でグレードⅡ以上の急性GVHDの頻度が上昇する傾向が示され,グレードⅢ以上の急性GVHDや慢性GVHDは有意に増加すると結論された(Stem Cell Trialists’ Collaborative Group,2005).一方,同じメタ解析で病初期,進行期にかかわらず移植後の再発はPBSCT群で有意に低く,非再発死亡の頻度は同等であり,最終的に進行期症例ではPBSCT群で無病生存率,生存率が有意にすぐれていることが示された.これらの結果から,患者の立場からの同種BMTと同種PBSCTの選択については,慢性GVHDの頻度の上昇と再発の低下のバランスを考えて検討する必要がある.[神田善伸]
■文献
Rowley SD, Donaldson G, et al: Experiences of donors enrolled in a randomized study of allogeneic bone marrow or peripheral blood stem cell transplantation. Blood, 97: 2541-2548, 2001.
Stem Cell Trialists’ Collaborative Group: Allogeneic peripheral blood stem-sell compared with bone marrow transplantation in the management of hematologic malignancies: An individual patient data meta-analysis of nine randomized trials. J Clin Oncol, 23: 5074-5087, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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