髄液組成の異常

内科学 第10版 「髄液組成の異常」の解説

髄液組成の異常(脳脊髄液検査)

(5)髄液組成の異常
a.外観が異常のとき
 くも膜下出血や脳出血脳室穿破で血性髄液となる.穿刺針による外傷性血性髄液では,採取後直ちに遠心沈殿を行うと上清が無色透明である.
 髄液が黄色調を呈する場合をキサントクロミー(xanthochromia)という.くも膜下出血後4週以内,総蛋白量増加時(約150 mg/dL以上),黄疸時に観察される.脊髄ブロック時にはキサントクロミー,総蛋白量高度増加,髄液の凝固を呈し,Froin徴候とよばれる.
 髄液細胞数が500/μL以上に増加すると,透過光線でも明らかな混濁を呈する.日光に向けて透かしてようやく判別できる程度の細胞数増加による混濁を,日光微塵という.
b.髄液圧に異常をきたす疾患
 頭蓋内圧亢進は,腫瘍,血管障害,膿瘍髄膜炎脳炎でみられる.局所神経症候を表さない脳圧亢進症の原因として,内分泌異常時(Addison病,Cushing病,甲状腺機能低下症,副甲状腺機能低下症,ステロイド,肥満,月経,妊娠など),ビタミンA過剰,テトラサイクリン,高度の血圧上昇,肺性脳症などがある.
 髄圧が低下する場合として,髄液漏,腰椎穿刺後,脱水状態がある.
c.細胞数が増加する疾患
 細胞数の増加(pleocytosis)は,髄膜炎,脳炎,腫瘍などでみられる.代表的髄膜炎の平均的髄液所見を表15-4-2に示す.単核球(主としてリンパ球)主体に増加する場合(表15-4-3)と多形核球(主として好中球)中心に増加する疾患(表15-4-4)がある.一般的に脳炎の細胞増加は,軽度ないし中等度である.
d.髄液糖が異常値を示す疾患
 髄液糖が増加する病態は臨床上問題になることは少なく,診断的価値は低い.
 低髄液糖症(hypoglycorrachia)は,感染性髄膜炎で出現率が高い(表15-4-5).細菌性髄膜炎では,髄液糖は著明に低下するが,その低下の機序として次のことが考えられている.繁殖した細菌白血球による糖の消費,髄液腔周辺組織による解糖作用の亢進,血液から髄液への糖の拡散障害などである.ある種のウイルス感染でも軽度の髄液糖の低下が報告されており,注意を要する.
e.髄液総蛋白量が増加する疾患
 総蛋白量が増加する疾患は多数ある(表15-4-6).蛋白とともに細胞数が増加する疾患,蛋白は増加するが細胞数は増加しない疾患(蛋白・細胞解離)がある(表15-4-7).
f.蛋白・細胞解離現象を呈する疾患
 本現象はGuillain-Barré症候群や慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)などの末梢脱髄性疾患,糖尿病,家族性アミロイドポリニューロパチー,脊髄腫瘍など脊髄腔を閉塞する疾患で認められる.
g.中枢神経系内でのIgG産生が考えられている疾患
 脳内でのIgG産生の指標としてIgG インデックスと中枢神経系内IgG1日産生量を計算する式(Tourtellotte公式)がある.表15-4-8にIgG インデックスが増加する疾患を示す.
h.髄液に出現する特殊な抗体
 髄液オリゴクローナルバンド(oligoclonal band:OBまたはOCB)は,髄液蛋白質を種々の方法(主としてアガロースゲル電気泳動法・銀染色または等電点電気泳動法)で分析したとき,免疫グロブリン出現領域に検出される均一な細い複数本のバンドをいう.原則的に血液には認められない.その意義は不明であるが,ほとんどはIgGである(表15-4-9).出現率は,多発性硬化症亜急性硬化性全脳炎で高いが,特異性はない.[安東由喜雄]
■文献
Davson H, Welch K, et al: The Physiology and Pathophysiology of the Cerebrospinal Fluid, pp 247-267, pp 583-656, Churchill Livingstone, London, 1987.大石 実,他:神経内科臨床トレーニング.医学書院東京,1991

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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