脊髄腫瘍(読み)せきずいしゅよう(英語表記)spinal cord tumor

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

脊髄腫瘍
せきずいしゅよう
spinal cord tumor

脊髄に生じる腫瘍総称で,硬膜外腫瘍硬膜内腫瘍に分けられ,後者はさらに髄内と髄外に分けられる。硬膜外腫瘍には転移性腫瘍が多い。硬膜内髄外腫瘍には神経鞘腫髄膜腫があり,硬膜内髄内腫瘍には上衣腫,神経膠腫が多い。腫瘍の圧迫浸潤によって種々の知覚障害や運動障害が起る。ときにクモ膜下出血を起す。治療は原則として摘出手術であるが,放射線療法,化学療法免疫療法などが選択されることもある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

家庭医学館の解説

せきずいしゅよう【脊髄腫瘍 Spinal Cord Tumor】

[どんな病気か]
 脊髄(せきずい)や、脊髄から出た神経(神経根(しんけいこん))、脊髄を取り囲む硬膜(こうまく)(髄膜(ずいまく))、脊椎(せきつい)に発生した腫瘍を脊髄腫瘍といいます。このうち硬膜の外に発生したものを硬膜外腫瘍(こうまくがいしゅよう)、硬膜の内側に発生したものを硬膜内腫瘍(こうまくないしゅよう)といいます。
 また、最初から脊髄や脊椎に発生したものを原発性脊髄腫瘍(げんぱつせいせきずいしゅよう)といい、出生時にすでに症状があるものと、後で症状が出てくるものとがあります。ごくまれに遺伝的な素因が関係するものもありますが、大部分は原因が不明です。これに対し、他の部位に発生した腫瘍が脊髄や脊椎に転移したものを転移性脊髄腫瘍(てんいせいせきずいしゅよう)といいますが、これは、肺がん、乳がん、前立腺(ぜんりつせん)がんなどの悪性腫瘍が転移をおこしたものです。
 脊髄そのものに発生する脊髄腫瘍は比較的まれなものです。また、神経根などの脊髄に接した部位に発生する脊髄外腫瘍は良性腫瘍が多く、硬膜の外側に発生する硬膜外腫瘍は転移による悪性腫瘍が多くなっています。
 子どもでは、おとなに比べると原発性の悪性腫瘍が多く、おとなでは転移性の悪性腫瘍が増える傾向にあります。
[症状]
 おもにつぎのような症状がみられます。
●圧痛(あっつう)
 腫瘍が発生した部位を軽くたたくと痛みがおこることがあります。
●圧迫症状
 脊髄の中を通る神経が、脊髄の外にある腫瘍に圧迫されておこる症状で、知覚障害、運動障害、排便・排尿障害がおこります。
●知覚障害
 腫瘍の発生した部位の背中に早くから鈍痛が現われ、背中を曲げたり伸ばしたりすると痛みが放散(ほうさん)します。また特定の神経に沿って痛みが放散することもあります。腫瘍によっては、四肢(しし)(手足)や胴体の知覚がにぶくなることもあります。
●局所症状
 脊髄が腫瘍におかされると、四肢、胴体の一定範囲に知覚障害、筋力低下、筋萎縮(きんいしゅく)が出現します。
 これらの症状とともに、CT、MRIなどの検査により診断が確定します。
[治療]
 腫瘍の摘出(てきしゅつ)が最善ですが、全部摘出できなければ、化学療法(薬物療法)や放射線療法を併用します。また、四肢のまひや排便・排尿障害が残らないよう、手術後早くからリハビリテーションを開始します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典 第2版の解説

せきずいしゅよう【脊髄腫瘍 spinal cord tumor】

脊髄をおさめる脊椎管内に発生する腫瘍で,脳腫瘍の場合と同様,脊髄内に発生する髄内腫瘍と,脊髄外に生ずる髄外腫瘍とが区別される。脊髄内に生ずるものは原発性のものがほとんどであり,大多数は星状膠腫(こうしゆ)や上衣細胞腫などのような神経膠腫である。これらの腫瘍は病理組織学的には良性のものであっても,手術不能のものがほとんどであるため予後はきわめて悪い。脊髄の外に生じてこれを圧迫する髄外腫瘍は硬膜内腫瘍と硬膜外腫瘍に区別される。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

脊髄腫瘍
せきずいしゅよう

脊椎(せきつい)管内の脊髄とその隣接組織、硬膜、くも膜、脊椎(せきつい)骨などから発生する腫瘍で、また、他の部位からの転移性腫瘍も含まれる。患部の疼痛(とうつう)をはじめ、それ以下の脊髄が支配する運動知覚障害、膀胱(ぼうこう)・直腸障害を特徴とする。好発部位は胸髄であるが、発生部位によって脊髄硬膜外腫瘍と脊髄硬膜内腫瘍に分けられ、後者は硬膜内髄外腫瘍と硬膜内髄内腫瘍に分ける。高解像力CT(コンピュータ断層撮影法)の普及、MRI(磁気共鳴映像法)の登場で、脊髄腫瘍の診断は飛躍的な発展を遂げ、手術顕微鏡下でのマイクロザージェリー(microsurgical technique)の導入、術中モニタリング使用により、脊髄腫瘍の摘出が安全に行われるようになり、治療成績は著しく向上した。

 発生頻度は、年間10万人に対し1~3人といわれ、脳腫瘍の約4分の1から5分の1である。好発年齢は30~60歳代で、性差はあまりないが、髄膜腫では女性に多い。脊髄硬膜外腫瘍は、全体の50%を占め、転移性腫瘍がもっとも多い。脊椎骨に転移し、椎体、椎弓、椎弓根の破壊や腫瘍の増殖をきたして、硬膜外に進展し、脊髄、神経根を圧迫する。

 原発巣は肺癌(がん)、乳癌からのものが多く、消化器の癌、子宮癌、前立腺癌などもある。初発症状は、腫瘍または破壊された骨組織による神経根の圧迫により、支配領域の根性痛で始まる。やがて脊髄も圧迫されて、急速に脊髄症状を呈し、経過はきわめて速い。

 硬膜内腫瘍は50%を占める。そのうち硬膜内髄外腫瘍は70%と多くみられ、大半は、良性腫瘍である神経鞘(しょう)腫や髄膜腫であり、その頻度はほぼ同程度である。神経鞘腫では、腫瘍の境界は鮮明で、薄い披膜(ひまく)を有しており、手術により摘出も容易である。比較的予後がよい。硬膜内髄内腫瘍の場合は、頻度は30%と少ないが神経膠(こう)腫が大部分を占める。上衣腫がもっとも多く、ついで星細胞腫が多い。

 診断は神経学的検査、髄液検査、放射線学的検査によって行われる。腰椎穿刺(せんし)によって髄液の通過障害がわかり、油性造影剤にかわって開発された非イオン性水溶性ヨード造影剤で脊髄造影を行うと、腫瘍陰影を証明できる。MRIの出現以前には、脊髄腫瘍のもっとも有力な補助診断法であったが、しだいに行われなくなっている。CTや選択的脊髄血管撮影、なども診断に有用である。CTでは、脊椎骨の変化とともに、腫瘍自体を直接描出することが可能である。とくに脊椎間の内外に進展した腫瘍の診断には優れている。単純CTでは、X線吸収値の低い脂肪腫やX線吸収値の高い髄膜腫などが描出される。造影剤増強を行うと腫瘍自体が描出され、腫瘍と脊髄との位置関係が明瞭(めいりょう)になる。

 MRIの登場で、脊髄腫瘍の診断は飛躍的な進歩を遂げて、容易となった。とくに髄内腫瘍の診断には有用である。T1強調画像で、脂肪腫は高信号域として描出されるが、他の腫瘍では、脊髄腫大像や脊髄圧排像が示されるのみである。髄内腫瘍に合併した嚢胞は低信号域として描出される。T2強調画像では、腫瘍陰影は高信号域として描出される事が多い。造影剤Gd-DTPAにより高信号域として明瞭に描出される。

 治療としては、脊髄腫瘍は進行性に脊髄や神経根を圧迫し、機能障害をもたらすため、脊髄腫瘍の診断がなされたら、できるだけ早期に摘出し、脊髄、神経根に対する減圧をはかり、神経機能の回復を促すのが最良の方法である。髄膜腫、神経鞘腫などの硬膜内髄外腫瘍、血管芽腫、上衣腫など非侵襲性の髄内腫瘍の全摘出は可能である。

 星細胞腫など浸潤性の髄内腫瘍や硬膜外腫瘍では全摘出不能の場合が多く、神経組織に対する減圧効果しか期待できないこともある。転移性腫瘍、浸潤性髄内腫瘍などに放射線療法や化学療法も行われる。

[加川瑞夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

内科学 第10版の解説

脊髄腫瘍(脳腫瘍・脊髄腫瘍)

概念
 脊髄腫瘍とは,脊椎管内に発生・伸展する新生物である.脊髄および脊髄神経,くも膜,硬膜,さらに脊椎,その周囲の軟部組織などを発生母地とする.統計学的事項 脊髄・脊椎腫瘍の発生頻度は,人口10万人あたり3人程度とされている.
発生部位による分類・頻度
 脊髄腫瘍は発生部位により硬膜外腫瘍と硬膜内腫瘍に分類されるが,その比率はほぼ2:3である.硬膜外腫瘍としては転移性腫瘍が代表的であるが,硬膜内腫瘍には髄外腫瘍と髄内腫瘍がある.髄外腫瘍としては神経鞘腫と髄膜腫,髄内腫瘍としては上衣腫と星細胞腫の頻度が高い(表15-14-4).
1)硬膜外腫瘍:
転移性腫瘍,リンパ腫などの悪性腫瘍がほとんどを占めるが,仙骨部には脊索腫が好発する.また,神経鞘腫の一部では,硬膜内と硬膜外両方に腫瘍が存在しダンベル型を呈することがある.
2)硬膜内髄外腫瘍:
神経鞘腫は全脊髄レベルにほぼ等しく発生し,30~50歳代に多く性差はあまりない.神経線維腫症2型では,しばしば脊髄に神経鞘腫が多発する.これに対して髄膜腫は,大孔付近と胸椎部に好発し,40~60歳代の女性に多い.
3)硬膜内髄内腫瘍:
星細胞腫は頸髄,頸胸髄に好発し,小児から20歳代に発生のピークがある.10歳以下の症例では,髄内腫瘍の約90%は星細胞腫とされている.小児例では良性のものが圧倒的に多いが,成人例では約25%は悪性(退形成性星細胞腫,膠芽腫)である.上衣腫は,成人の髄内腫瘍のうち発生頻度が最も高い.
臨床症状
 脊髄腫瘍の初発症状は,腫瘍の局在にかかわらず痛みであることが多い.悪性腫瘍の硬膜外転移では,背部痛や根性痛が出現した後に,数日場合によっては数時間の経過で両下肢麻痺が出現する.これに対して硬膜内腫瘍では,症状の進行は比較的緩徐で症状発現から診断までに1~2年を経ることもめずらしくない.硬膜内髄外腫瘍は通常,脊椎管内に偏在するため脊髄への圧迫は非対称性に起こり,その結果Brown-Séquard症候群をきたすことになる.すなわち,腫瘍の脊髄レベル以下に,病変と同側の運動麻痺,深部知覚低下,対側の温痛覚低下をみる.一方,硬膜内髄内腫瘍では,病変の脊髄レベル以下の運動・感覚機能が全般的に障害されるが,仙髄領域の温痛覚は保たれるといったsacral sparingをみることがある.
診断
 脊髄腫瘍の診断には原則的にMRIが用いられるが,腫瘍の存在に伴う骨変化の診断には脊椎単純X線撮影,CTが有用である.転移性腫瘍では,造影される腫瘍が硬膜外から脊髄を圧迫ないし絞扼するさまをとらえることができるが,しばしば椎体などの骨組織にも転移病巣をみる.神経鞘腫,髄膜腫はともによく造影され,脊髄は腫瘍によって偏位する.神経鞘腫は神経根の走行に沿うように伸展し,ときに硬膜外にまで及ぶが,腫瘍は脊髄の側方に位置する(図15-14-8A).一方,髄膜腫では脊髄の腹側あるいは腹外側の硬膜に付着する腫瘍を認める.硬膜内髄内腫瘍では,脊髄は腫瘍により紡錘状に腫大する.上衣腫は腫大した脊髄のほぼ中央に強く造影される病変として描出され(図15-14-8B),その上極と下極には囊胞を高頻度に合併する.これに対して星細胞腫では,症例により腫瘍の造影効果にかなりの差があり,また病変の辺縁は上衣腫に比べ不明瞭である.
治療・予後
 悪性腫瘍の硬膜外転移に対する治療には,外科的治療,放射線治療,さらに化学療法などがある.このなかで放射線治療は有効性も高く,転移性脊髄腫瘍に対して第一義的に行われる治療法である.ただし,両下肢麻痺が比較的急激に発症した場合など,患者を歩行可能な状態にすることを目的に外科的治療が選択されることもある.これに対して,神経鞘腫や髄膜腫では外科的摘出が唯一の治療選択になる.上衣腫に関しては,症例によっては脊髄を損傷することなく腫瘍の全摘出が可能である.一方,星細胞腫では腫瘍の境界が不明瞭なため,根治的な腫瘍除去は困難で生検で終わらざるを得ない場合が多い.上衣腫,星細胞腫ともに,手術後に腫瘍が残存していれば放射線治療を行うこともある.[新井 一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科の解説

脊髄腫瘍
せきずいしゅよう
Spinal cord tumor
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 脊髄と脳を合わせて中枢神経と呼び、脊髄とは脊椎(せきつい)(背骨)の内部に存在する中枢神経を示します。脊髄(中枢神経)は外側から硬膜、くも膜、軟膜と呼ばれる3つの膜に包まれており、脊髄腫瘍とは、脊髄内部の細胞や脊髄に隣り合った細胞から発生した腫瘍のことです。

 腫瘍の存在部位と脊髄および硬膜との位置関係から、脊髄内部に腫瘍が発生する髄内(ずいない)腫瘍、硬膜のなかにあるが脊髄の外に存在する硬膜内髄外腫瘍、硬膜の外に存在する硬膜外腫瘍(脊椎腫瘍)に分類されます。がん性のもの(悪性)と非がん性のもの(良性)があります。

原因は何か

 組織の異常な増殖によるものですが、その原因が何かについては不明で、今後の研究に期待されるところが大きいのが現状です。脊髄から出ている脊髄神経の一部である脊髄神経根に発生する神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)(硬膜内髄外腫瘍)の頻度が高く半数を占め、血管系腫瘍(髄内腫瘍)、髄膜腫(硬膜内髄外腫瘍)、神経膠腫(こうしゅ)(髄内腫瘍)、上衣細胞腫(髄内腫瘍)などが続きます。

症状の現れ方

 腫瘍の発育速度や発生部位により異なります。腫瘍の発育は通常ゆっくりであるため、腫瘍が発見された時にはかなり大きくなっている場合が多いですが、画像診断技術の進歩から無症状の時に偶然見つかる場合もあります。

 症状は腫瘍の存在部位で決定され、限局する痛みや神経支配領域にそった放散痛が起こります。このため、頸椎に発生した場合は上肢症状、腰椎に発生した場合には下肢症状を伴うことがあります。

 疼痛は、どの部位に発生しても初発症状として出現することが多く、腫瘍が増大すると運動麻痺や排尿障害を伴います。麻痺症状が急激に進むことはありませんが、階段からの転落や交通外傷など大きな外力が加わると、それまで気づかなかった症状が突然現れることがあります。

検査と診断

 単純X線検査では 椎体(ついたい)の貝柱様変形、椎弓間(ついきゅうかん)距離の拡大、椎弓の菲薄化(ひはくか)(薄くなること)がみられることあります。しかし、このような骨の変化が出るまでには長い年月が経過していることが多く、早期診断にはMRI検査が有用です。疼痛(とうつう)や麻痺の発生部位から、おおよその障害部位を診断できれば、その部位をMRIで精査することにより腫瘍の診断は容易です。髄内腫瘍であれば脊髄自身の腫脹(しゅちょう)像、髄外腫瘍であれば脊髄陰影の圧排像としてとらえられます。

 MRIは通常、薬剤の注射が不要で痛みのない検査方法ですが、腫瘍と区別するためにガドリニウムという薬剤を少量静脈内に投与することがあります。手術計画を立てるために脊髄腔造影検査やCT検査を行う場合もあります。

治療の方法

 脊髄腫瘍の治療は、神経組織の機能を損なわずに腫瘍を摘出し再発を予防することです。髄膜腫神経鞘腫はその大部分が良性な腫瘍であるため、薬による内科的治療は効果がなく、手術が成功すれば治療成績は良好です。

 髄内腫瘍の一部には悪性のものがあり、正常な脊髄構造との境界が不鮮明な腫瘍は、全摘出が困難なこともあります。この場合は、放射線治療や化学療法を追加して治療を行います。

病気に気づいたらどうする

 疑わしい症状に気づいた場合は、整形外科あるいは脳神経外科を受診するのがよいでしょう。MRI検査で確定診断がつけば、手術のために専門医がいる大きな病院を紹介してもらうことが必要です。

豊田 宏光, 中村 博亮

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報