出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
多発性硬化症(MS)という名称は「脳や
この病巣は
MSは、厚生労働省の特定疾患(いわゆる神経難病)に指定されています。 欧米諸国に比べて少ないものの、日本には1万人以上の患者さんがいるものと思われます。発症する年齢は、若年成人といわれる20~30代が多く、また男性に比べて女性に多く発症します。
中枢神経では、神経細胞から伸びる長い突起(
髄鞘に包まれた軸索、すなわち神経線維が多く集まっている部分は、白っぽく見えるところから中枢神経系の
神経線維の髄鞘が壊れた場合を脱髄といい、ちょうど電線のゴム被膜が破れて
一方、破壊された髄鞘の再生が起これば、神経機能は再び回復し、症状は改善します。しかし、脱髄が繰り返し起こったり、その変化が激烈な場合には軸索も障害され、症状は改善されないままで残ります。
この脱髄病変は主に白質に起こることが多く、その発症のきっかけは不明です。何らかのウイルスの感染を契機に髄鞘に対する異常な免疫反応が起こり、髄鞘を傷つけてしまう自己免疫反応的な原因で、脱髄を起こすと考えられています。
MSの病変は、中枢神経であればどこにでも起こりうるもので、起こる時期もさまざまで規則性がありません。また、困ったことに症状がいったん治っても、ほかの症状の再発を繰り返します。したがって、患者さんごとに症状や経過が多様です。なかでもよくみられる症状は、しびれ感や感覚低下、手足の脱力や歩行障害、しゃべりにくさや飲み込みにくさ、視力低下、物が二重に見える複視、排尿障害などです。
これらの症状は、急性に現れることがほとんどです。病気の経過として、症状が改善したり悪化したりする、いわゆる再発と寛解を繰り返すタイプの患者さんが最も多く、次いでそれらの再発を幾度となく繰り返しながらだんだんと
患者さんごとにさまざまな神経症状が不規則に起こるので、診断は決して容易ではなく、専門の神経内科医の診察が望まれます。厚生労働省の診断基準によれば、「中枢神経系に2カ所以上の病巣を示す所見があり、それらの症状には再発と寛解がみられること」が診断の根拠とされています。
診断するための特異的な検査はありませんが、核磁気共鳴画像(MRI)による脳の撮影や
症状の増悪期や再発時には、副腎皮質ステロイド薬を大量投与するパルス療法と安静が必要です。
再発を予防したり、長期予後を改善させる目的では、インターフェロン
糸山 泰人
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
中枢神経系(大脳、脳幹、視神経、小脳、脊髄(せきずい)など)の白質に散在性の脱髄病変をおこしてくる原因不明の疾患で、厚生労働省特定疾患(難病)の一つとされている。英語でmultiple sclerosisとよばれているが、その頭文字を取ってMSと略称されることが多い。日本では人口10万人に対し8~9人の患者がみられるが、世界的にみて寒冷地にきわめて多く、ノルウェー、イギリス、スウェーデンなどでは人口10万人に対し40~80人と、日本の十倍近くの有病率を示している。日本を含めアジア地域には少ないとされている。
発病年齢は10~60歳と広い年齢層にみられるが、30歳代にもっとも多く、男女比は女性にやや多い。原因は不明であるが、誘因としては感冒、発熱、妊娠、分娩(ぶんべん)などがあげられている。症状としては、突然の一側または両側の視力障害、視神経炎、反射亢進(こうしん)、しびれ、運動失調、眼振(眼球の律動的運動)、脊髄症状など中枢神経系に病巣の多発した症状が現れること、症状の寛解や再発のあることが特有で、両側の視神経炎と脊髄炎症状を示すデビック病も多発性硬化症の一型である。予後はかならずしも悪くはなく、進行性経過を示してくるものは約20%である。治療としては、急性期には副腎(ふくじん)皮質ステロイドの投与が有効であるが、他の免疫抑制剤(アザチオプリンなど)も効果がある。また、機能障害はリハビリテーションでかなり改善されるので、再発に注意しながら試みるのがよい。
[里吉営二郎]
脱髄疾患の一つ。中枢神経系の白質に多発性の脱髄斑が出現し,複数の病変部位による中枢神経症状が増悪・寛解を繰り返すことを特徴とする神経病。欧米の高緯度地域に多いが,日本では比較的まれであり,人口10万人当り1~4である。発病年齢は15~50歳であり,女性にやや多い。日本では視力障害で発症することが多いが,運動麻痺,知覚異常,運動失調,構語障害をはじめ,どのような中枢神経障害でも起こしうる。原因は不明であるが,環境因子,遺伝因子,ウイルス感染,免疫異常などが関与している可能性が考えられている。検査所見としては髄液IgGの増加などが特徴とされるが,本病に特異的な異常はなく,診断には病歴と臨床所見および他疾患の除外が重要である。原因療法はまだない。急性増悪期には安静を保ち,副腎皮質ステロイド剤を投与し,その他対症的に治療する。回復期には適度のリハビリテーションを行う。
執筆者:楠 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(2014-9-2)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…この疾患の原因となるパポバウイルスpapovavirusは中枢の髄鞘保持細胞であるオリゴデンドログリアoligodendrogliaを選択的に侵すため,脱髄性の病変が形成される。(4)ヒトにおける中枢神経系の脱髄疾患中最も重要なものである多発性硬化症はまだ原因不明の疾患であり,自己免疫機転による可能性と,髄鞘保持細胞に選択的な感染症である可能性の両方が考えられている。多発性硬化症の特徴の一つは,自然経過として寛解・増悪を繰り返すことであるが,この原因についてもまだ明らかにされていない。…
※「多発性硬化症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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