スズムシソウ(英語表記)Liparis makinoana Schltr.

改訂新版 世界大百科事典 「スズムシソウ」の意味・わかりやすい解説

スズムシソウ
Liparis makinoana Schltr.

冷温帯湿地や疎林下に生育する夏緑のラン科植物。和名は唇弁の色と形がスズムシを連想させることに由来する。偽球茎のわきから新芽を伸ばし,葉を2枚だし,5~7月,高さ15~30cmの花茎に,総状に花を10個余りつける。花は径約15mm。唇弁が目だち,紅紫色半透明,平たんで長さ約12~18mm。北海道から九州,朝鮮に分布する。ときに観賞のために栽培される。

 スズムシソウの属するクモキリソウ属Liparisは大きな属で,約300種が熱帯を中心に分布する。日本には9種ある。クモキリソウL.kumokiri F.Maek.やジガバチソウL.krameri Fr.et Sav.は球状の偽茎があり,落葉性,花は小さく,低山の林下にやや普通にみられる。コクランL.nervosa Lindl.やユウコクランL.formosana Reichb.f.は半常緑で,円柱状の偽茎をもち常緑広葉樹林下に生育する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スズムシソウ」の意味・わかりやすい解説

スズムシソウ(ラン科)
すずむしそう / 鈴虫草
[学] Liparis makinoana Schltr.

ラン科(APG分類:ラン科)の多年草。偽鱗茎(ぎりんけい)で越冬し、そのわきから新しい芽を出す。通常、普通葉を2枚つける。5~7月、頂生の花序をつくり、十数個の花を開く。花は、この属のなかではやや大形で径約1.5センチメートル、紅紫色で半透明の唇弁は平坦(へいたん)で長さ1.2~1.8センチメートル、よく目だつ。疎林下や湿地に生え、北海道から九州、朝鮮半島に分布する。名は、唇弁の色がスズムシのはねの色に似るためつけられた。近縁のセイタカスズムシソウL. japonica (Miq.) Maxim.は草丈は高いが、花はやや小さい。

井上 健 2019年5月21日]


スズムシソウ(キツネノマゴ科)
すずむしそう / 鈴虫草
[学] Strobilanthes oligantha Miq.

キツネノマゴ科(APG分類:キツネノマゴ科)の多年草。スズムシバナともいう。全草に毛がある。茎は断面四稜(りょう)形で高さ40~80センチメートル、葉は広卵形で長さ4~10センチメートル。夏から秋、枝先または上部の葉腋(ようえき)に数個の花を頭状につける。花冠は淡紫色筒状で先は漏斗(ろうと)状に広がり、等しく5裂する。花弁はつぼみのとき回旋状に畳まれる。雄しべは4本で、2本は短い。包葉は葉状。近畿地方以西の本州から九州、および朝鮮半島南部、中国に分布する。

[寺尾 博 2021年10月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スズムシソウ」の意味・わかりやすい解説

スズムシソウ(鈴虫草)
スズムシソウ
Liparis makinoana

ラン科の多年草で,スズムシランともいう。アジア東部の温帯から暖帯にかけて広く分布し,日本各地の山林中に生え,ときにはコケの生えた樹上にも着生する。偽鱗茎は緑色で卵円形をなし,古い鱗茎と葉鞘で包まれていて,毎年新しいものが順次側方にできる。葉は2枚が向き合い,楕円形ないし長楕円形で鋭頭。夏に葉間から角張った太めの茎を1本出し,上部に総状花序をなして暗紫褐色の花を十数個つける。各花は花序の軸から横に突き出すようにつき,大きな卵形の唇弁が目立つ。

スズムシソウ(鈴虫草)
スズムシソウ
Strobilanthes oliganthus

キツネノマゴ科の多年草で,スズムシバナともいう。アジア東部から南部の亜熱帯および熱帯に分布し,山地の木陰に生える。日本では近畿以西の本州,四国,九州にみられる。根茎は短く,茎は直立して高さ 30~50cmとなり,稜があって四角柱をなす。節間の基部がふくらむ特徴がある。長さ 10cm弱の広卵形尖頭で鋸歯のある葉を対生する。秋に,葉腋に数個ずつ長さ 3cmほどの淡紫色の筒状花を束生する。おしべは4本あり,そのうち2本は短い。

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百科事典マイペディア 「スズムシソウ」の意味・わかりやすい解説

スズムシソウ

北海道〜九州,朝鮮半島の山地林内にはえるラン科の多年草。地表に卵円形の偽球茎がある。葉は2枚対生して根生し,楕円形。夏,葉間から高さ20〜30cmの花茎を出し,上半に褐紫色で長さ約1cmの花を10個内外つける。唇弁(しんべん)は幅が広く,径1.5cmに達し,スズムシが翅(はね)を広げたように見えるので,この名がある。

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