CSDP(読み)しーえすでぃーぴー

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

CSDP
しーえすでぃーぴー

ヨーロッパ連合(EU)の共通安全保障・防衛政策。Common Security and Defence Policyの頭文字をとったもの。CFSP(共通外交・安全保障政策)の安全保障・防衛面での協力をさらに進めるために、1990年代末以降、徐々に発展をしてきたのがEUとしての安全保障・防衛政策である。当初はヨーロッパ安全保障・防衛政策(ESDP:European Security and Defence Policy)とよばれていたが、2009年12月に発効したリスボン条約により、共通安全保障・防衛政策(CSDP)に改称された。

[鶴岡路人 2018年1月19日]

目的と特徴

当初の主たる目的は、EU外交に軍事的手段をもたせることであり、1999年12月のヘルシンキ・ヨーロッパ理事会(欧州理事会)では、EUとして自律的に行動できる6万人規模の緊急展開能力の構築という、きわめて野心的な目標が打ち出された。その後、それは結局実現されないままに、1500人規模のバトルグループ(戦闘軍。EU Battlegroup)の整備に軸足が移ることになったが、それも、実際の任務で使用されたことはない。それでも、ボスニアでの平和維持(危機管理)ミッションを北大西洋条約機構(NATO)から引き継いだこと(アルテア作戦)や、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処(アタランタ作戦)は、EUが軍事的手段を有することを示すことになった。CSDP関連の機構としては、軍人組織であるEU軍事参謀部(EUMS:European Union Military Staff)のほか、加盟国の装備品協力の調整にあたるヨーロッパ防衛機関(EDA:European Defence Agency)なども設置された。

 しかし、実際のCSDPはかならずしも軍事面を中心に発展してきたわけではない。文民危機管理civilian crisis managementという領域を拡大してきたのが、CSDPの特徴である。これには、法の支配確立のための司法機関に対する支援、警察への能力構築支援なども含まれる。CSDPのこうした方向性がどこまで当初の意図に沿ったものであったかには議論があるが、危機管理に対してさまざまな政策ツールを有することはEUの強みである。

[鶴岡路人 2018年1月19日]

頻発するテロとブレグジットの影響

また、近年のヨーロッパ各地におけるテロ事件の頻発は、安全保障・防衛面でのEUの役割に対する市民の期待を高めている。テロ対策に関してもっとも重要となる警察や情報機関間の協力は、かならずしもCSDPの範疇(はんちゅう)ではないが、2015年11月のパリ同時多発テロを受けて、リスボン条約第42条7項の「相互支援条項」が発動された。これは、「武力侵攻」を受けた際のEU加盟国間の相互支援を規定したものであり、いわゆる集団防衛である。実際にとられた措置は大規模なものにはならなかったものの、EUにおいて軍事面を含む相互支援が発動されたことの象徴的な意味は無視できない。

 加えて、イギリスのEU離脱(ブレグジット)もEUにおける防衛協力進展の機運を高めている。フランスと並ぶヨーロッパの軍事大国であり、EU加盟国の国防支出の4分の1近くを占めてきたイギリスの離脱は、EU全体としての防衛能力の観点では大きな損失である。しかし、NATO重視のイギリスの姿勢が、EUにおける防衛協力の強化を妨げてきたのも事実である。そのため、イギリスの離脱により、EU独自の司令部機能の設置など、これまでイギリスが拒否権を発動してきたものが可能になるのは、ブレグジットのプラスの効果だといえる。

 実際、2016年6月イギリス国民投票でEU離脱の意思が示されて以降、防衛協力に関するイニシアティブが立て続けに承認されている。2017年末には、意思と能力のある加盟国のみで防衛協力を進める枠組みである「常設構造化協力(PESCO:Permanent Structured Cooperation)」が発足したのに加え、独仏などの2国間協力も進展する可能性がある。今後の焦点は、離脱後のイギリスとEUとの間で安全保障・防衛に関するいかなる協力関係が構築できるか、そして、イギリスの離脱を見据えたEUにおける動きが、司令部設置などの機構面での進展のみならず、実際の能力向上につながるか否かであろう。

[鶴岡路人 2018年1月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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