リボフラビン(ビタミンB2)の補酵素の一つ。フラビンアデニンジヌクレオチドflavin adenine dinucleotideの略で、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とともに燃料分子の酸化還元反応での主要な電子伝達体でもある。分子式C27H33N9O15P2、分子量785.56。1938年ドイツの生化学者O・H・ワールブルクらによって、D-アミノ酸の酸化を触媒するフラビン酵素の補助因子として発見された。FADはFMN(フラビンモノヌクレオチド)部分とアデノシン5'-リン酸adenosine 5'-monophosphate(AMP)部分からなる。この担体(輸送体)の酸化型および還元型の略称は、それぞれFADとFADH2である。FADの反応部分はイソアロキサジン環にある。NAD+と同じく、FADは電子2個を受け取る。その際、FADはNAD+と異なり、プロトン1個と水素化物イオン1個とを取り込む。リボフラビン(ビタミンB2)がATP(アデノシン三リン酸)によってリン酸化され、FMNとなり、次にAMP部分が第二のATP分子からリボフラビン5'-リン酸に転移してFADが形成される。FADはFMNとともにフラビン酵素群の補酵素である。フラビン酵素群は広く自然界に分布し、その補酵素であるFMNおよびFAD分子中のリボフラビンのイソアロキサジン環が水素受容体として、生体の酸化還元系における水素および電子伝達の役割を果たす。代表的なものには、グルコースオキシダーゼ、D-アミノ酸オキシダーゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼなどがある。フラビン酵素群の特徴はその基質の多様性にある。アミノ酸、カルボン酸、NADH、チオール基などは水素供与体となりうる。ピリジンヌクレオチド、シトクロム、ユビキノン、酸素などは電子または水素受容体となりうる。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
フラビンアデニンジヌクレオチドflavin adenine dinucleotideの略称。ビタミンB2(リボフラビン)にオルトリン酸が2分子とアデノシン1分子が結合した化合物で,多くの酸化還元酵素の補酵素として重要。微生物から高等動物にわたってひろく分布している。260nm,375nm,450nmに吸収極大をもち,肉眼的には黄色を呈している。生体内ではFMN(フラビンモノヌクレオチド)とATP(アデノシン三リン酸)からFADピロホスホリラーゼ(FMNアデニリルトランスフェラーゼ)によって合成される。生体内においては,ピリジンヌクレオチドと並んで,多くの電子伝達系酵素反応に重要な役割を演じているが,中でもD-アミノ酸酸化酵素,グルコースオキシダーゼ,各種酸素添加酵素の反応がよく知られている。もともと,ワールブルクO.Warburgらが酵母から分離した黄色酵素(1932)の補酵素としてFMNを発見したのにひき続き,1938年にD-アミノ酸酸化酵素の補酵素としてFADが発見された。
執筆者:徳重 正信
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…スクシニルCoAはオルトリン酸とGDPの関与のもとに,スクシニルCoAシンテターゼの作用でそのチオエステル結合の切断が起こり,コハク酸,GTP,CoAが生成するが,このスクシニルCoAの加水分解の自由エネルギー⊿G゜′はATPとほぼ同程度で,-8kcal/molにおよぶ。コハク酸は次に,FADを補酵素とするコハク酸デヒドロゲナーゼの作用でフマル酸に変わり,フマル酸はフマラーゼの作用でリンゴ酸に変わる。リンゴ酸はNAD+を補酵素とするリンゴ酸デヒドロゲナーゼの作用で再びオキサロ酢酸を生成することとなる。…
…NAD+,NADP+の還元型すなわちNADH,NADPHは340nmに特異的な吸収極大を示すので,これを指標とする酵素活性の測定が広く利用されている。(2)フラビンの誘導体 FMN(フラビンモノヌクレオチド),FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)もD‐アミノ酸酸化酵素など各種の酸化還元酵素の補酵素としてよく知られているが,黄色いビタミンとして知られるビタミンB2,すなわちリボフラビンの誘導体に相当する。欠乏症としては口角炎,舌炎など,皮膚障害をひき起こす例が少なくない。…
…ATPを代表例とする高エネルギーリン酸結合(〈高エネルギー結合〉の項参照)は,エネルギー代謝における最も重要な概念である。またFMN(フラビンモノヌクレオチド),FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)をはじめ,リン酸を含む補酵素も多数知られている。動物の骨格中には,リン酸カルシウム塩として多量に存在する。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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