運用網漁具。漁具をさす場合の名称表記としては「旋(まき)網」とするのが正しいが、一般には「巻網」の表記が通行している。巻網漁業は、使用する船舶の大きさ等により(1)大・中型巻網漁業(総トン数40トン以上)、(2)中・小型巻網漁業(総トン数40トン未満)に分類される。巻網は魚群を取り巻くように投網(とうもう)し、順次その囲みを縮小していき、魚捕部(無袋(むたい)類)または小さい袋網(有袋類)に追い入れてとる網の総称。網の形状は、一般に長方形のものが多いが、網の中央に浅い袋網を有するものもある。前者を無袋類と呼称し、巾着(きんちゃく)網、揚繰(あぐり)網など漁具の規模が大きい。後者の有袋類にはタイ縛(しば)り網、縫切(ぬいき)り網、シイラ巻網など小型巻網が多い。巻網は網裾(あみすそ)を迅速に沈降させるために沈子方(ちんしかた)に多量の沈子が配置されている。無袋類は浮子方(あばかた)の浮力も沈降力の3、4倍用意されていて、沈子方に多数の環がついており、その環に通してある環綱(かんづな)を締め上げて、魚群の逃げ道を断つようにくふうされている。網地にはナイロンやビニロンなどの合成繊維が用いられている。網の規模は、その操業法とともに漁獲能力を左右するので漁獲対象群の生態とくに運動能力に相応させてあり、たとえばイワシ縫切り網のように浮子方の長さで300メートル前後のものから、二艘(そう)巻カツオ・マグロ巾着網のように浮子方の長さが2500メートル、深さが250メートル程度に及ぶ大型のものまである。元来、巻網は群集性に富んだイワシ、マグロ、カツオ、サバ、アジなどを群れごと捕捉(ほそく)することを主眼としているので、網規模は運用網漁具中もっとも大きく、日本近海で操業されている大・中型巻網でも、たとえば東京都の霞が関(かすみがせき)ビルを取り巻くような網が使用されている。網船の規模は、ごく沿岸で操業されている小型巻網漁業の2、3トンから、北部太平洋海区、中部日本海海区など8海区で操業されている大・中型巻網漁業の135トン型、110トン型、80トン型、さらに単船操業の海外巻網漁業の349トン型まで千差万別である。
巻網漁業の主体は巾着網で、揚繰網の構成も巾着網に近いものに改良されている。また、漁法上、一艘巻網と二艘巻網とに分類されるが、ごく沿岸性の小規模な漁業以外は、ほとんど一艘巻漁法になっている。巻網漁業中、巾着網漁業に次いで重要なものに、長崎県を中心として九州西岸で行われているイワシ縫切り網漁業がある。この漁業は、夜間、集魚灯を使用して操業され、カタクチイワシ、小アジ、小サバ、マイワシなどを漁獲している。このほかに、瀬戸内海で操業されているタイ縛り網漁業、日本海西・北区で行われているシイラ巻網漁業、静岡県の由比(ゆい)地方や蒲原(かんばら)地方で操業されているサクラエビ巻網漁業、北海道の各地で行われているホッケ巻網漁業などがある。しかし、現在ではいずれも産業的にはあまり重要でないか、操業を中止しているものが多い。巾着網の操作はほとんど機械化され、各種揚網機(パワーブロック、ネットホーラー、サイドローラー)、ウィンチ(パースウィンチ、キャプスタンなど)、網捌(あみさば)き機などが使用されている。2007年(平成19)以降、それまで農林水産省から公表されてきた海面漁業の「漁業種類別生産額(漁獲金額)」については、統計事業の見直しにより取りまとめが廃止されたため、ここでは、2006年の資料で示すと、大・中型巻網漁業の漁獲量は101万4000トン、漁獲金額は1196億円、中・小型巻網漁業では42万5000トン、509億円で、巻網漁業の合計で漁獲量が143万9000トン、漁獲金額は1705億円となる。これは海面漁業全体の漁獲量の32%、漁獲金額で16%となる(農林水産省「平成18年漁業・養殖業生産統計年報」による)。
[笹川康雄・三浦汀介]
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…漁網といっても多種類にわたるので,いくつかに分類し,それにそって網漁業を概観していこう。農商務省が1886年に編纂に着手し10年を経て完成した《日本水産捕採誌》の漁網分類をみると,引(曳)網,繰網,巻(旋)網,敷網,刺網,建網,掩(かぶせ)網,抄(すくい)網の8類であり,これがその後の漁網分類の原型となっているので,ここでもこの分類による。
[引網]
引網類は魚群を囲み岸辺や漁船に引き寄せてそれを捕獲する網で,だいたいは中央部に囊(ふくろ)を備えていた。…
…網を動かす場合,その運動方向で三つに分けられる。すなわち,(1)水平方向に動かす引網類,(2)鉛直方向に動かす敷網類(下から上に働かせる)と,かぶせ網類(上から下に働かせる),(3)魚群を巻く巻網類である。網を動かさないものとしては,(4)網目に刺さる,あるいは絡むのを待つ刺網類と,(5)魚群を誘導して囲い網の中に落としこむ定置網類とがある。…
※「巻網」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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