生体の酸化還元反応を触媒する酵素の総称。オキシドレダクターゼともいう。細胞の生命を維持するためにはエネルギーが必要であるが、そのエネルギーを供給したり、代謝の過程で必要な物質を生成すると同時に不要な物質あるいは外来性の異物を分解するのが酸化還元反応で、その反応を触媒するのが酸化還元酵素である。生体内には種々の酸化還元酵素が存在しており、これまでに約1100種が確認されている。生体酸化還元反応の型には、水素原子の移動、電子の移動、酸素原子の付加という三つの型がある。一般的には電子の移動を伴う反応といえる。還元剤として働き、電子あるいは水素原子を与えて酸化されるものを電子供与体あるいは水素供与体とよび、酸化剤として働き、電子あるいは水素原子を受け取って還元されるものを電子受容体あるいは水素受容体とよぶ。一般に酸化還元酵素は、電子供与体および受容体の一方または両方に関して、比較的高い基質特異性をもっており、それに従って分類することができる。また、酸化還元反応の様式、性質、供与体と受容体の種類などにより、(1)脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)、(2)還元酵素(レダクターゼ)、(3)酸化酵素(オキシダーゼ)、(4)酸素添加酵素(オキシゲナーゼ)、(5)ヒドロペルオキシダーゼ、(6)スーパーオキシドジスムターゼに分類することもできる。これら(1)~(6)の酵素群が触媒する反応と特徴は以下のとおりである。(1)脱水素酵素は酸素分子以外の分子を水素受容体として、基質から脱水素する反応を触媒する。NAD+またはNADP+を補酵素とするもの(ピリジン酵素)が多い。このほか、補欠分子族(補欠分子団)としてFADまたはFMNをもつもの(フラビン酵素)もある。(2)還元酵素は酸素分子以外の分子を水素受容体として脱水素する反応のうち、基質を還元する反応を触媒し、広義の脱水素酵素に属し、ピリジン酵素が多い。(3)酸化酵素は酸素を水素の受容体とする反応を触媒する。多くはフラビン酵素である。例外としてはチトクロムオキシダーゼがあり、これはヘムを補欠分子族とするヘミン酵素である。また、銅を必要とする銅酵素もある。(4)酸素添加酵素は分子状酸素を直接基質に渡す反応を触媒することにより、代謝物の合成と分解に関与する。(5)ヒドロペルオキシダーゼはH2O2や有機過酸化物を還元する反応を触媒することにより、過酸化物を分解する。(6)スーパーオキシドジスムターゼはスーパーオキシドラジカルを受容体とする反応を触媒することにより、スーパーオキシドを除去する。
[飯島道子]
『坪井昭三他編『現代の生化学』改訂第2版(1992・金原出版)』▽『八木達彦他編『酵素ハンドブック』第3版(2008・朝倉書店)』▽『R・K・マレー他著、上代淑人・清水孝雄監訳『ハーパー生化学』原書28版(2011・丸善)』
酸化還元反応を触媒する酵素の総称。生物が酸素を吸収して,有機化合物を酸化する現象(広く呼吸と呼ばれた)の研究の過程で,19世紀末以降この種の酵素が多数生体から抽出されるようになった。酸化のエネルギーの利用過程に関係する酵素だけでなく,多くのたいせつな代謝過程に関係する酵素が含まれる。生体内では種々の酸化還元反応が起きるが,それらは水素原子の移動,電子の移動,酸素原子の付加のいずれかのかたちをとる。多数の酵素はそれぞれ,電子または水素原子を与えて酸化される電子供与体(還元剤),および電子または水素原子を受け取って還元される電子受容体(酸化剤)の一方または両方に対して特異的に働く。酵素の分類と系統的命名は,このような特異性に基づいて行われる。
生体内の酸化還元反応には水素原子の移動を伴う反応(脱水素反応)が多い。そのために多数の脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)が,生体物質の生合成や相互転換,分解など,中間代謝のさまざまの局面で機能している。特に発酵や呼吸のような,物質の酸化に伴って放出されるエネルギーを,生体が利用できる形に変換する重要な代謝過程においては,種々の有機物質からNAD⁺などの補酵素に水素原子を伝達する反応を触媒する多数の脱水素酵素がはたらいている。
呼吸鎖電子伝達系を構成するチトクロム類は,通常は酵素とは呼ばれないが,ヘム鉄の部分で電子の授受を行うことにより,活発な酸化還元を繰り返し,触媒的に作用する電子伝達体である。また電子伝達系の末端に位置するチトクロム酸化酵素は,ヘム鉄のほかに銅原子を含み,酸素分子を還元してH2Oを形成する反応を触媒する。このように分子状酸素と直接反応し,それを水素受容体とする酵素を,脱水素酵素と区別して酸化酵素(オキシダーゼoxidase)と呼ぶ。酸化酵素には,フラビンを補欠分子団とするものが多い。フラビンを含む酸化酵素では,脱水素反応によって基質がまずフラビンを還元し,ついで還元型フラビンがO2と反応して,H2O2を生ずる。
分子状酸素との直接反応の結果,酸素原子を基質にとりこむ様式の反応を触媒する酵素もあり,これらは酸素添加酵素(オキシゲナーゼoxygenase)と呼ばれる。酸素分子中の2原子のOがいずれも基質にとりこまれる反応を触媒するもの(ジオキシゲナーゼ)と,一方を基質にとりこみ,一方を還元してH2Oにするモノオキシゲナーゼ(ヒドロキシラーゼhydroxylaseともいう)とがあり,鉄,銅などの金属を含むものが多い。生体内においては,水酸化(解毒,ある種のホルモンの生合成などに関係),脂肪酸の不飽和化,プロスタグランジンなどの生理活性物質の代謝,芳香族化合物の酸化的分解など,多くの反応に関与する。
このほか,過酸化水素を電子受容体とする種々のペルオキシダーゼperoxidase(AH2+H2O2⇄A+2H2Oという形式の反応を触媒する)があり,またやや特殊なものとして,ある種の細菌には,水素分子の出入りを伴う酸化還元反応を触媒するヒドロゲナーゼhydrogenaseが存在する。
執筆者:川喜田 正夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
オキシドレダクターゼともいう.酸化還元反応を触媒する酵素の総称.酸化還元の様式によって,酸化酵素,還元酵素,オキシゲナーゼ,ペルオキシダーゼ,デヒドロゲナーゼ,ヒドロキシラーゼなどがある.いずれの酵素も補酵素または補欠分子族として,フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD),フラビンモノヌクレオチド(FMN),ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD),そのリン酸エステル(NADP),鉄ポルフィリン,銅などの金属原子を含む.生体の呼吸,発酵,生合成,エネルギー獲得に重要な役割を果たす.この一群の酵素によって酸化される基は,
(1),(2)-CHOおよび,(3),(4),(5),(6)フェノール類,
などがある.[別用語参照]酵素命名法
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