公共交通機関などを利用して、出発地から目的地への移動を最適な交通手段による一つのサービスとしてとらえ、シームレスな交通を目ざす新たな移動の概念。交通機関による移動とITサービスが融合し、移動手段がサービスとして最適化されることを意味する。英語のMobility as a Serviceの略でマースと発音する。2016年にフィンランドのベンチャー企業MaaSグローバル社が交通経路の検索とモバイル決済を組み合わせた新サービスの提供を始めたことから、MaaSの概念が世界に広がった。代表例として、車を共有するカーシェアリング、相乗りするライドシェアのほか、スマートフォン1台で最適な移動手段・経路の検索から予約・決済までを完了できるサービスなど、新たな形態のMaaSが相次いで生まれている。
ドイツのダイムラーやアメリカのゼネラル・モーターズ(GM)がカーシェアリング事業に力を入れ、ウーバー・テクノロジーズ(アメリカ)、滴滴出行(ディディチューシン)(中国)などの新興ライドシェア企業も生まれている。利便性向上だけでなく、交通渋滞や環境問題の解決、交通弱者の支援対策といった利点もあり、調査会社PwCコンサルティングは2030年までに市場規模が欧米・中国だけで1兆4000億ドルに達すると推計している。MaaSの普及で、車の「所有」よりも「利用」を重視する方向へ価値観が転換すると考えられ、既存自動車会社はMaaSビジネスを提供する異業種との連携に積極的である。MaaSは自動車業界の再編を促すほか、鉄道、タクシー、不動産、小売りなど他産業や交通法規にも影響を与えている。
[矢野 武 2019年7月19日]
(金谷俊秀 ライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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