RNA干渉(読み)アールエヌエーカンショウ(その他表記)RNA interference

デジタル大辞泉 「RNA干渉」の意味・読み・例文・類語

アールエヌエー‐かんしょう〔‐カンセフ〕【RNA干渉】

伝令RNAと相補的なRNAが細胞内に導入することにより、伝令RNAが遺伝情報翻訳してたんぱく質を合成する過程を阻害し、遺伝子発現抑制すること。この現象薬剤に応用するRNA干渉薬の研究が進められている。米国の生物学者A=ファイアーとC=メローが同現象を発見し、2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。RNAi

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「RNA干渉」の意味・わかりやすい解説

RNA干渉
あーるえぬえーかんしょう
RNA interference

mRNAメッセンジャーRNA)と相補的なRNA(アンチセンスRNA、antisense RNA)を細胞内に導入し、mRNAと相補的な2本鎖をつくらせ、翻訳(RNAの塩基配列をタンパク質のアミノ酸配列に変換する操作)を阻害する現象。RNAiと略記される。

 1984年にアメリカのワイントラウブHarold Weintraub(1945―1995)によって、培養細胞に導入したアンチセンスRNAの効果を示した論文が発表され、その後、広く行われるようになった。実際、細胞内で転写されたアンチセンスRNAが、プラスミドDNAの複製を調節する例は富沢純一(1924―2017)らにより発見され、また、水野猛(みずのたけし)(1949― )と井上正順(いのうえまさより)(1934― )の研究グループによって低分子RNA(マイクロRNA)によりmRNAの翻訳が調節される例も示された。その後、大腸菌では17種類ほどこのような活性を示すRNAが発見されている。技術的に使われるRNAiは、おもにマイクロRNAと同様の原理によるものが多く、抑制したいと思う遺伝子と相補的な20~30ヌクレオチドのRNAを人為的に合成し、細胞に取り込ませて、その遺伝子の翻訳を阻害するものである。ここで使われるRNAをsiRNA(small interfering RNA)とよぶ。siRNAは細胞に取り込まれると標的とした遺伝子から転写されたmRNAと2本鎖を形成し、ダイサーdicer(RNA分解酵素)によりmRNAが分解される場合と、マイクロRNAと同様にRISC(リスク)(RNA induced silencing complex、RNAタンパク複合体)を形成し、mRNAからの翻訳を抑制する場合がある。siRNAにより遺伝子産物の合成を抑えることを遺伝子ノックダウンknock downとよび、ゲノム上で遺伝子を欠失させる遺伝子ノックアウトknock outと区別する。RNA干渉の発見により2006年、A・ファイアーとC・メローがノーベル医学生理学賞を受賞した。

 siRNAは、新しいタイプの医薬としての可能性が注目されている。

[菊池韶彦]

『中村義一編『RNAがわかる――多彩な生命現象を司るRNAの機能からRNAi、創薬への応用まで』(2003・羊土社)』『グレゴリー・ハノン編、中村義一監修『RNAi』(2004・メディカル・サイエンス・インターナショナル)』『菊池洋編『RNAが拓く新世界』(2009・講談社サイエンティフィック)』『L・ハートウェル他著、菊池韶彦監訳『ハートウェル遺伝学』第3版(2010・MEDSI)』

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知恵蔵 「RNA干渉」の解説

RNA干渉

二本鎖RNAが、特定の遺伝子の発現を抑制する現象。1998年に発見された。標的とする遺伝子と塩基配列が同じ二本鎖RNAを細胞内に導入すると、ダイサーと呼ばれる酵素によって分解され、低分子の二本鎖RNAとなる。この小さな二本鎖RNAが、標的遺伝子から合成されたmRNA(リボソーム)に結合し、mRNAが特異的に分解されて、遺伝子の発現が抑制される。RNA干渉の技術を用いると、特定の遺伝子の機能が未知の場合に、その遺伝子の機能を調べることができる。これは遺伝子ノックアウト法(トランスジェニックマウス/ノックアウトマウス)の簡便な手法となる。遺伝病やウイルス病などの治療では、病因遺伝子の発現を抑制する遺伝子治療の手法としても用いることができる。

(川口啓明 科学ジャーナリスト / 菊地昌子 科学ジャーナリスト / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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