RNAポリメラーゼによりDNAから転写されたRNA。鋳型となったDNAとは相補的な塩基配列(DNA中のアデニン、チミン、グアニン、シトシンに対し、それぞれウラシル、アデニン、シトシン、グアニンが対応)をもったRNAで、mRNAと略記され、伝令RNAともよばれる。このmRNAは転移RNAを介してリボソーム(リボゾーム)で翻訳され(DNAからmRNAに写し取られた遺伝暗号を、それぞれのアミノ酸に対応させる)、遺伝子に記録されたとおりのタンパク質を合成することができる。
mRNAの寿命は通常きわめて短く、遺伝子の発現・停止は速やかに行われる。元来、mRNAは、ジャコブ‐モノーF. Jacob&J. Monodのオペロン説の帰結として想定され、その後、実験により確認されたものである。mRNA合成に関してはRNAポリメラーゼがDNAのプロモーター領域に結合し、とくに転写を開始する段階で調節が行われている。また真核生物の場合には、遺伝子中に介在配列(イントロン)をもっている場合があり、これは転写後ただちに取り除かれる(スプライシング)。続いて5'末端側はキャッピング、3'末端側はポリA添加という二つの修飾を受け、核から細胞質に移り、リボソームと会合(ポリソームを形成)してタンパク質の合成が行われる。
[菊池韶彦]
『J・D・ワトソン他著、中村桂子他訳『遺伝子の分子生物学』第5版(2006・東京電機大学出版局)』▽『B・ルーウィン著、菊池韶彦他訳『エッセンシャル遺伝子』(2007・東京化学同人)』
略称mRNA.DNAと相補的な塩基配列をもつRNAで,DNAの遺伝情報をタンパク質合成の場であるリボソームに伝えるのがその役割である.1961年,S. Brennerらはタンパク質を合成中の系において,沈降定数 70 Sから100 S成分のリボソームに結合したRNAを発見し,マグネシウム濃度を低下させると沈降定数12 Sになることを見いだした.このRNAの寿命は数分で,代謝回転している.特定のDNAと複合体をつくりうることから,DNAからタンパク質への仲介として作用しているとみなされた.リボヌクレオシド三リン酸を基質として,RNAポリメラーゼにより合成される.1961年,ポリウリジル酸によるポリフェニルアラニンの合成というM.W. Nirenberg(ニーレンバーグ)とH. Matthaeiの画期的な発見に端を発し,メッセンジャーRNA上の3個のヌクレオチドにより,アミノ酸が1個規定されるという,いわゆるアミノ酸コードがすべて明らかにされた.タンパク質合成時にはメッセンジャーRNA上にリボソームが並び(ポリソーム),アミノアシル転移RNAや可溶性因子などが関与してポリペプチドが形成されていく.
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…DNA上の遺伝情報に基づいてタンパク質を合成する過程で,種々の重要な役割を果たす。高等動植物からバクテリアまでのすべての細胞に存在し,その分子の種類はバクテリアについてさえ,1000種類程度は存在するが,機能的にはメッセンジャーRNA,リボソームRNA,転移RNAなどに大別できる。一部のウイルスには,遺伝子本体としてDNAの代りにRNAをもつものがあり,RNAウイルスとしてDNAウイルスから区別される。…
…細胞が分裂する前にDNAは複製され,分裂後の二つの娘細胞は同じDNAを含む。また,DNAの遺伝情報は,メッセンジャーRNA(mRNAと略記)を通じて,タンパク質へと移されて発現する(図1)。生物の体を形づくっているのも,生物が生きてゆくための働きを担っているのも主としてタンパク質であるから,個々の生物の性質はどのようなタンパク質ができるかで決まる。…
※「メッセンジャーRNA」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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